書評

朝日新聞朝刊　 2018年9月29日

母のひろば652号　ひびきあう親子の世界を楽しむ　　佐々木宏子 2018年9月15日

「わらべうたでひろがるあかちゃん絵本」は、昔から伝わるどこか懐かしいひびきをもつ「わらべうた」をもとにしているため、読んでみると身体の中に深く眠っていた記憶にスイッチが入り、不思議な感情がわき出てきます。『 へ っ こ　 ぷ っ と　 た れ た 』 は、「 お い っ ち に　 お い っ ち に……」という言葉で始まります。自然とリズムに乗って身体を左右に揺らしたり、歩くリズムにあわせて、おひざのあかちゃんを上下に揺すったりしたくなりませんか。わらべうたの言葉は、リズミカルに読むことや体を動かすことを、ごく自然に促してくれるのです。「ぷっ！」という唇から勢いよく飛び出す破裂音とともに、「へっこ」を「たれる」ページがあらわれると、あかちゃんは驚きとおかしさで「あはっ」と笑ったり、バタバタと体を揺すったりします。『おせんべ　やけたかな』の「やけたかな」という問いかけの言葉を読むときは、「さあ、次のページでは何が起こるんだろう？」という思いから、自然と読み手の言葉も尻上がりにゆっくりと、高くなります。次のページをさっと開くとき、あかちゃんの表情を見たくて眼差しを向けると、あかちゃんもきっと見つめ返してくれるでしょう。あかちゃんは、ページをめくるたびに増える焼けたおせんべをとんとんと指で押さえたり、いっしょに「アムアム」と食べたりもします。『ねーずみ　ねーずみ　どーこ　いきゃ？』は、どうでしょうか。いかにも「ねずみさん　ねずみさん　いったいどこへ行くの？　ねぇ　教えてよう」と、好奇心いっぱいに問いかけるようなメロディを含んでいるとは思いませんか。まるで自分がねずみになって問いかけられているかのように、あわてて次のページをめくろうとするあかちゃんもいます。「あかちゃん絵本」とは、こうして言葉のなかにうめこまれているリズムやメロディをお母さんやお父さんの声でよみがえらせ、ともに体を動かし、表情をやりとりしながら、描かれた絵をあかちゃんといっしょに、イメージの世界で動かして完成します。読み方、うたい方に正解はありません。あかちゃんが笑い、手足を動かし、読み手の表情を確認する瞬間はどこかを確かめつつ、「わが家流」で、あかちゃん時代の貴重な１冊として完成させてください。そして、絵本を開くことで、あかちゃんとひびきあう瞬間を楽しんでください。

（ささき　ひろこ／鳴門教育大学名誉教授）