2022.05.08

<新刊絵本 連載2/2> 沖縄を見つめ続けてきた作家の集大成『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』

取材中の著者(読谷村・シムクガマ)



ロングセラー絵本『じごくのそうべえ』(1978年刊・累計86万部)などで知られる絵本作家・田島征彦さんの絵本『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』が刊行されました。
地上戦が行われた沖縄戦を真っ正面から描いた作品です。


『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』



自分の足で訪れ、自分の目でたしかめる
ライフワークとして、沖縄を見つめ続けてきた作家の集大成


児童文学作家の故・灰谷健次郎さん(1934~2006)との取材をきっかけに、40年以上沖縄に通い続けているという絵本作家の田島征彦さん(82)。
『じごくのそうべえ』などの著作で知られる一方で、これまでも沖縄を題材にした絵本を作り続けてきました。

西表島や石垣島などを8年かけて取材し制作した『とんとんみーときじむなー』(1987年)、10年かけて取材し沖縄戦と基地の問題を描いた『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)、琉球を舞台にした『やんばるの少年』(2019年)を手がけています。田島さんは自分の足で沖縄の地を訪れ、自分の目でたしかめることを大切にしてきました。今回の絵本では、沖縄戦体験者や戦跡の取材を重ね、残された記録、史実に基づき、その時代を生きた男の子の視点から絵本を描き上げました。


左から『じごくのそうべえ』(1978年)『とんとんみーときじむなー』(1987年)『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)
『そうべえときじむなー』(2018年)『やんばるの少年』(2019年)


住居にある井戸の中の避難壕での取材。


写真は、取材で住居敷地内にある、井戸の中の避難壕(我如古のチンガーガマ)を訪れた時の田島さんです。
地上から梯子を降りて、地下壕に入るには、途中、匍匐(ほふく)前進をしないと、壕の中は高さが1メートルに満たないため、立ちあがることもできないのです。
同行した30代の担当編集者もひと苦労だったという現場ですが、80歳を超える田島さんがその中に一緒に入って取材を続ける姿に、担当編集者は田島さんのこの作品への思いを強く感じたといいます。




地上戦にまきこまれ、戦車にひかれそうになるせいとく。混乱し自分の子どもとせいとくを間違えたアメリカ兵に命をすくわれる。


沖縄戦を描くということ


地上戦が行われた沖縄戦では、日本人と米軍を含めた全体の犠牲は20万人を超え、なかでも一般住民の犠牲は9万4千人に上り(*1)、実に沖縄県民の4人に1人が犠牲になったと言われています。

自身も幼少期に大阪・堺市で空襲を体験している田島征彦さん。けれど、体験していない沖縄戦を描くということは、田島さんにとっても困難の連続だったといいます。
「もしもあの戦争中に、僕自身が沖縄にいたらどうしていたか」ずっと考え続けてきたといいます。

「ここ20年くらいの間でしょうか。僕らが経験した「戦争の時代」と、どこか同じ空気が感じられるようになったと思っています。かつて日本人が犯した罪悪すらをも、肯定する人が増えてきていますね。それはひとつ、想像を広げる作業を、怠っている人が多いということなのだと思います。
戦争を経験していない世代ももちろんだけれど、戦争を経験した僕だって、もっと想像を広げる作業をしていかなければならないと思うのです。」(*2)

「戦争が起きないためにはどうすれば良いのか、どうしたら防ぐことができるのか。実際に起きてしまったら、これほどに恐ろしいことはありません。起こさせないために、努力せなあかんのです。絵本を読んで、大人も子どもも一緒になって、考えてもらいたいです。」(*2)



家を出て安全な場所を場所をさがすせいとくたち。
しかし兵隊に作戦のじゃまだと言われ、ガマ(防空壕として利用された沖縄の洞窟)に入ることすら断られてしまう。


ほんの70数年前の日本で、沖縄で起きていたこと。
今、世界で起きていること……。

身をもって体験できることではなくても、自分の足で、目でたしかめて想像する。

戦争を体験していない世代が大半となったわたしたち日本の社会。
今だからこそ伝えなければと、本作を描いた田島さんの言葉が胸に響きます。

49ページ/小学3・4年生から
(たじまゆきひこ 作)


◆<新刊絵本 連載1/2>『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2658

◆田島征彦さんのインタビュー全文はこちらから
<インタビュー>田島征彦さん『なきむしせいとく』刊行記念インタビュー 「沖縄戦」を描く
https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2646

*1 沖縄県における戦災の状況(沖縄県)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/daijinkanbou/sensai/situation/state/okinawa_04.html

*2 <インタビュー>田島征彦さん『なきむしせいとく』刊行記念インタビュー 「沖縄戦」を描くhttps://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2646