2022.04.22

<新刊絵本 連載1/2>『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』

ロングセラー絵本『じごくのそうべえ』(1978年刊・累計86万部)で知られる絵本作家・田島征彦さんは、ライフワークとして沖縄を題材にした絵本をこれまでにも発表してきました。その集大成ともいえる『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』が今月25日より発売されます。

 ■あらすじ
 舞台は1945年戦争末期の沖縄。
国民学校2年生の男の子「せいとく」は、いつも泣いているのでみんなから「なちぶー」とよばれています。
戦況がきびしく敗色が濃くなっていく中、出征していた父に続き、中学生だった兄までも「鉄血勤皇隊」に招集されてしまいます。

 

せいとくと母、妹の3人は少しでも安全な場所を求めて家を捨て、南へ南へと避難します。
激しいアメリカ軍の砲撃でせいとくは母を失い、軍民が入り乱れる混乱の中、妹とも生き別れてしまいます……。


  



本作は8歳の男の子、せいとくの視点から物語が描かれます。
空襲や艦砲射撃、そして地上戦……。

 家族を失い、死体を踏み越えて逃げ、味方と避難場所を奪い合う凄惨をきわめた沖縄戦を経て、泣き虫だったせいとくはついに、涙をながすことすらなくなってしまいます。

 地上戦が行われた沖縄戦では、日本人と米軍を含めた全体の犠牲は20万人を超え、なかでも一般住民の犠牲は9万4千人に上り(*1)、実に沖縄県民の4人に1人が犠牲になったと言われています。


   ■戦後の沖縄を生きる
  本作の最後、高校生になったせいとくの次の言葉で、物語は終わります。

         ぼくたちは、みんなといっしょになって畑をつくりました。
        やっと作物がとれるようになったとき、てっぽうとブルドーザーで、
        アメリカーに土地をとりあげられてしまいました。
        たくさんの軍事基地が、畑の上にできました。
         いまはアメリカーに、占領されています。
        でも、沖縄が日本にもどったら、こんなものは、すぐに なくしてしまうさぁ。
        だって、戦争のくるしみを一番しっているのは、ぼくたちなんだから。

        (『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』本文より)     

  

 

今年、沖縄は本土復帰から50年をむかえます。
しかしながら、これまでの50年間の現実は、せいとくが願ったものだったのでしょうか。

 半世紀経った今も、日本の面積の0.6%しかない沖縄に、日本の米軍専用施設の約70%が集まり、固定化されたままです。(*2)

 ほんの70数年前に、沖縄の人々に何が起きたのか。
そしてその後沖縄の人々はどのように生きてきたのか……。


本作をきっかけに、改めて沖縄に目を向け、戦争を起こさないためにできることをともに考えてほしい。

 著者の強い願いがこめられた1冊です。

 49ページ/小学3・4年生から
(たじまゆきひこ 作)


  ただ今、全国の書店にて、ご予約受付中です。来週には書店店頭でも並びはじめます。ぜひお手にとってご覧ください。

◆<新刊絵本 連載2/2> 沖縄を見つめ続けてきた作家の集大成『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2670

  (*1)沖縄県における戦災の状況(沖縄県)
 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/daijinkanbou/sensai/situation/state/okinawa_04.html

 (*2)沖縄県の面積が日本の国土面積の0.6%であるのに対し、日本全体の米軍専用施設の約70%が沖縄に集まっています。また、米軍専用施設は、沖縄県全体の面積の約8%を占め、人口の9割以上が居住する沖縄本島では約15%の面積を占めています。

 沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Book
https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/tyosa/qanda.html
なきむしせいとく

童心社の絵本

なきむしせいとく

たじまゆきひこ

《沖縄に40年以上通い続けてきた著者が描く「沖縄戦」》

ここは1945年の沖縄。ぼくの名前は「せいとく」です。
いつも泣いているので、みんなから「なちぶー」とよばれています。
父に続き、兄も兵隊となり、ぼくは母と妹の3人で、南へ逃げることになりました。

絵本作家・田島征彦は、40年以上取材を重ね、これまでにも「沖縄の絵本」を描いてきました。
(『とんとんみーときじむなー』[1987年]『てっぽうをもったキジムナー』[1996年]『やんばるの少年』[2019年、いずれも童心社・刊])

本作では、長年の取材の集大成として、真っ正面から「沖縄戦」を描きます。

  • 小学3・4年~
  • 2022年4月30日初版
  • 定価1,760円 (本体1,600円+税10%)
  • 立ち読み