2020.01.16

<連載2/2『のせてのせて』『おさじさん』50周年記念> 画家・東光寺啓さんの素顔を訪ねて

ロングセラー絵本『のせてのせて』(累計148万部)と『おさじさん』(累計111万部)は、昨年それぞれ刊行50周年を迎えました。
2冊の絵を手がけたのは画家・東光寺啓さん。
前回の連載に続き、画家・東光寺啓さんについてご紹介します。

<連載1/2『のせてのせて』『おさじさん』50周年記念>画家・東光寺啓さんの素顔を訪ねて
https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=1874


●あかちゃん絵本への挑戦
『のせてのせて』と『おさじさん』について、2冊の刊行当時(1969年)の「母のひろば」に掲載された、東光寺さんの言葉をご紹介します。



赤ちゃんの本をかいて

 今度、赤ちゃんの本の仕事を童心社からやらせていただくことになりましたので、早速、編集の方とある保育園を訪ねました。多忙中の園長さん、保母さんもこころよく迎えてくれて、私たちの質問にも何かと気をくばって、細かく説明してくれましたので、まずまず私は安心致しました。

 ちょうど、赤ちゃんの昼食どきにぶつかったので、見学させていただくことにしました。 保母さんの忙がしさ、気の使いようはたいへんなものでした。いつも私など、身近の何人かの赤ちゃんなどの世話は、たいして気にもせず見てきましたが、赤ちゃんの世話は並たいていのものではないことを知りました。

 こうしてせっかくきたので、赤ちゃんの動作を見たり、直接赤ちゃんに話しかけてみたいと思い、幾人かの赤ちゃんに各種の絵本を見せて、話しかけてみました。どの赤ちゃんも、なかなか敏感で、私の考えていた赤ちゃんとはちょっと違っていたようで、実は面くらってしまいました。

 写実的なものには、だいぶ興味があるようで、片言まじりに話しかけてきますが、色、型などが少しでも写実から離れたものになると、見向きもせず、むしろ他のおもちゃに手を出すといった具合です。内心、私は赤ちゃんのための絵を描くのは、たいへんなことだと思いました。

 案の定、仕事にかかってみると、私の思っていたとおり、なかなか難かしく、何枚も描き直しました。どうにも思うように描けず、松谷先生とも何回となく打ち合わせをしましたが、またまた失敗を重ね、気ばかりあせって、どうにもならず、ほとほと困ってしまいました。仕事にかかっていても、納期ばかり気になって、どうすることも できませんでした。気持ちを落ち着けるつもりで、また近くの保育園にもいき、半日も赤ちゃんに接して遊んだりしました。
 さあ、いよいよ締切りも間近にせまり、どんなことをしても、間に合わせないと、出版社や松谷先生にも迷惑をかけるばかりなので、やっとできあがりまでに達しましたが、もう納期にはるかにおくれてしまいました。

 こうして三か月かかり、まあまあ完成したわけですが、さて、できあがってみると、なんだか不安でした。だが、こうして苦労した仕事だけに、ある半面には楽しい気持ちでいっぱいです。ひとりでも多くの赤ちゃんに見ていただければ、なによリも幸せです。
(童心社「母のひろば」61号 1969年6月15日刊行号より)



自身の画業としての現代美術の抽象画、また時代小説の挿絵など多彩な画風を持つ東光寺さんにとっても、あかちゃん向けの絵本は難しい挑戦だったことが伝わってきます。

●家での東光寺さん
出版社から絵が戻ると、すぐに人にあげてしまっていたという東光寺さん。高い金額で買ってくれた人もいるのに、すぐに無料であげてしまう父に、家族はやきもきしたそうです。70年代以降、子どもたちが成人し仕事するようになると、東光寺さんは次第に挿絵の仕事も引き受けることが少なくなったそうです。

●『のせてのせて』のモデル
『のせてのせて』は、男の子が運転する車に、動物たちをつぎつぎに乗せていく展開となる絵本です。主人公の男の子のモデルになったのは、東光寺さんの思い出にあった、昔の息子さんの姿でした。

モデルとなった東光寺さんの息子さんと、『のせてのせて』に登場する男の子。



東光寺さんは、絵本を家族や孫に自身で読んであげることはほとんどなかったそうですが、後年、見本として届くこの2冊の絵本を知人にあげて喜ばれるのを楽しんでいたそうです。
ご自身の抽象画の制作は生涯を通じて続けていたそうで、1999年に享年85歳で亡くなっています。

多彩なタッチを描き分けながら、自身の画業を貫いた東光寺さん。
素敵な絵本をありがとうございました。


東光寺啓さん




プロフィール
東光寺啓(本名:織茂良之助)1914年(大正3年)8月東京生まれ。学生時代を通じ独学で絵画技法を学ぶ。作家・永井荷風と親交を深め、行動をともにする。現代美術家・斎藤義重に師事し、抽象画の制作を行う。雑誌「中学時代」「高校時代」、朝⽇新聞社の「文芸朝日」、人物往来社の「人物往来」など多くの雑誌の挿絵を手がけ、なかでも、新潮社「小説新潮」などの挿絵、書籍カバーなど時代小説の分野で活躍した。1999年没。享年85歳。

おさじさん

松谷みよ子 あかちゃんの本

おさじさん

松谷 みよ子 ぶん/東光寺 啓

おいしいにおいにさそわれて、うさぎのぼうやのところに、おさじさんがやってきました。
うさぎのぼうやは、とろとろあつあつのおかゆを食べようとしますが、おかゆに鼻をつっこんでしまい、「あっちっち」「えーんえーん」。
でもだいじょうぶ。おさじさんがお手伝いします。

おくちの トンネル
アアーンと あいて
おさじさんは はこびます
たまごの おかゆを
はこびます
ポッポー

「ああ おいしい」とうさぎさんは笑顔になりました。

離乳食を食べはじめたあかちゃんとお母さんお父さんにとって、おさじさんは身近な存在。
絵本でおさじさんと仲よしになると、ごはんの時間も楽しくなりますね。

離乳食をはじめる頃からおすすめしたい、110万部をこえるロングセラーあかちゃん絵本です。

  • 0・1歳~
  • 1969年8月31日初版
  • 定価770円 (本体700円+税10%)
  • 立ち読み
のせてのせて

松谷みよ子 あかちゃんの本

のせてのせて

松谷 みよ子 ぶん/東光寺 啓

まこちゃんの じどうしゃです 
はしりますよ ブブー
ストップ!
のせて のせて
ウサギが てを あげて います

まこちゃんのじどうしゃは、うさぎをのせてはしります。クマや、ネズミの家族など、だんだんと増えていくおともだち。そして、みんなののったじどうしゃはトンネルにはいって……。

「ストップ!」「のせてのせて」のくり返しが楽しく、まこちゃんと一緒に車にのっていくような、心地いいスピード感が味わえます。
トンネルの場面は一転してまっくらな画面に。
ここであかちゃんは少し不安な気持ちになりますが、遠くに見える明るい出口に導かれ、ページをめくると「でた!おひさまだ!」。ハラハラドキドキがつまった展開です。

あかちゃんが楽しめる動物や車などに興味をもちはじめた、140万部をこえるロングセラーあかちゃん絵本です。

  • 0・1歳~
  • 1969年7月5日初版
  • 定価770円 (本体700円+税10%)
  • 立ち読み
いないいないばあ

松谷みよ子 あかちゃんの本

いないいないばあ

松谷 みよ子 ぶん/瀬川 康男

日本の絵本ではじめて! 累計700万部を突破
1967年の刊行から、半世紀あまり。
2020年には日本の絵本で初めて700万部を突破しました(※1)
世代を超えて読みつがれる、「人生で初めて出会う一冊」です。
※1…株式会社トーハン発行「ミリオンぶっく 2021」調べ

あかちゃんに語りかける言葉
あかちゃんと目があう絵

「いないいないばあ にゃあにゃが ほらほら いないいない……」
『いないいないばあ』の文章は、作者の松谷みよ子さんが子育ての中でわが子に語りかけていた言葉がもとになっています。

画家の瀬川康男さんは、あかちゃんと向き合い試作を重ねました。
「ばあ」の場面の動物たちは、あかちゃんと目があうように描かれています。

あかちゃんと一緒に読むと、言葉と絵がひとつになり、臨場感をもっておひざの上のあかちゃんに伝わります。

  • 0・1歳~
  • 1967年4月15日初版
  • 定価770円 (本体700円+税10%)
  • 立ち読み
松谷みよ子 あかちゃんの本

松谷みよ子 あかちゃんの本

松谷 みよ子 ぶん/瀬川 康男、他

日本で初めてのあかちゃん絵本として出版されて40年以上、世代を超えて読みつがれ、たくさんのあかちゃんとおかあさんを笑顔にしてきたロングセラー絵本シリーズ。『いないいないばあ』『いいおかお』他、全9巻の美麗ケース付き。

  • 0・1歳~
  • 初版
  • 揃定価7,040円 (本体6,400円+税10%)
  • 立ち読み