絵本・こどものひろば

いのちが かえっていくところ

最上一平 作/伊藤秀男

たもんはお父さんと、はじめてのイワナつりにやってきた。山の中の川、大きな淵で何度もエサをながすけれど、つれない。
あきらめかけたとき、さおさきがグイグイッとまがった。さかながくいついたのだ。さかなはグイグイひっぱり、頭があつくなり、しんぞうがドッキンドッキンする。右に左におよぎまわるさかなと長くたたかったすえ、ついにたもあみの中にさかなをとりこんだ。
「すごいぞ、イワナだ! おおものだ」
はじめてつりあげたイワナだ。たもんは、ほおずりしたくなるほどいとおしかった。
やがてお昼になると、「たもんのつったイワナをごちそうになるべ」と、お父さんはイワナをくしにさし、たき火でしおやきにした。たもんはむねがいたみつつ、ガブリとやった。「うまいよ!」話しかけるようにいうと、なみだがポロンとこぼれた……

釣りを通していのちの躍動を感じ、そのいのちをおいしくいただくことで、初めていのちの大切さ、重さを実感する。そうした少年の心情を、繊細かつ力強く描く絵本です。

  • 全国学校図書館協議会選定
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 初版:2022年10月12日
  • 判型:B5判/サイズ:26.6×19.1cm
  • 頁数:32頁
  • 小学1・2年~
  • ISBN:978-4-494-01582-5
  • NDC:913

感想を書く

内容説明

たもんはお父さんと、はじめてのイワナつりにやってきた。山の中の川、大きな淵で何度もエサをながすけれど、つれない。
あきらめかけたとき、さおさきがグイグイッとまがった。さかながくいついたのだ。さかなはグイグイひっぱり、頭があつくなり、しんぞうがドッキンドッキンする。右に左におよぎまわるさかなと長くたたかったすえ、ついにたもあみの中にさかなをとりこんだ。
「すごいぞ、イワナだ! おおものだ」
はじめてつりあげたイワナだ。たもんは、ほおずりしたくなるほどいとおしかった。
やがてお昼になると、「たもんのつったイワナをごちそうになるべ」と、お父さんはイワナをくしにさし、たき火でしおやきにした。たもんはむねがいたみつつ、ガブリとやった。「うまいよ!」話しかけるようにいうと、なみだがポロンとこぼれた……

釣りを通していのちの躍動を感じ、そのいのちをおいしくいただくことで、初めていのちの大切さ、重さを実感する。そうした少年の心情を、繊細かつ力強く描く絵本です。

読者の声

読者さま

全部ぐいぐい伝わってきた。(70歳・女性)

さかながくいついた時の手応え、さおを伝わってくる魚の動き、すごい力。そして、やっとつかまえた時の興奮。バタバタ大暴れする大イワナはびっくりするほどつめたくて、大きくてうつくしい!!そのイワナをお父さんがが裂いて、胃の中に入っていた沢山の虫を見て生きていくことのすさまじさを感じて、おそろしくなって、何より、涙をこぼしながら「うまいよ!」とイワナにはなしかけるように言った、たもんの感じたことが全部ぐいぐい伝わってきた。
読者さま

感動です!!!(58歳・女性)

今、この御本を読み終えて、涙が止まりません。この御本のいい所は、p.26,27の命を頂く場面です。いとおしくて大切な自分の力で釣ったいわなをいただく場面は、(常に私が考え悩んでいる自己受容)自分との向き合い方にもつながって涙が出て、共感したのだと思いました。感動です!!!

もっと見る

関連情報

2023/5/10

〈千葉〉第6回 この本だいすきの会 オンラインイベント 最上一平さん講演会

2023年6月10日(土)にこの本だいすきの会主催のオンラインイベントにて、最上一平さんの講演会が行われます。皆さまぜひご参加ださい。◆第6回 この本だいすきの会 オンラインイベント『私の好きな人たち ...

続きを読む

2022/11/10

<新刊紹介>少年が自然の中で命と向き合う——『いのちが かえっていくところ』

今回は、最上一平さんと伊藤秀男さんによる新作絵本『いのちが かえっていくところをご紹介します。お父さんにつれられ、はじめて渓流釣りにやってきた、たもん少年。大きな淵に何度もえさを流したものの釣ることが ...

続きを読む

もっと見る

書評

抱きしめた絵本 母のひろば702号(2022年11月15日発行)
 絵本は、画家さんと編集者と作家の三者で作るもの、とはよく聞く話です。今作の『いのちがかえっていくところ』は、まさに三者が力を合わせて完成した絵本です。
 ある日、少年は父につれられて、山深い川に釣りに行きます。そこで、少年は思いがけなく大岩魚(おおいわな)を釣り上げます。ビギナーズラックというやつでしょう。手に汗にぎるとは、このことです。少年は、冷たい体の活きのいい岩魚を手にします。感動します。昼になると、その魚を焼いて食べます。少年は魚の命と向き合うことになるわけです。
 絵は伊藤秀男さんです。6月に、名古屋にお住まいの伊藤さんが、東京を流れている多摩川に、大淵の取材に来てくださいました。(絵本の中の川は多摩川ではありません)
 伊藤さんと担当編集者の小金澤さんと編集長の大熊さんと私の4人で、ウェーダー(釣り用の長ぐつ)をはき、さおをだしました。マスなどが数匹釣れました。とっても楽しい取材でした。マスは釣れたけれど、伊藤さんから野生の岩魚が欲しいというリクエストがありました。水族館などにいる岩魚ではなく、野生にこだわっておられます。(これは伊藤さんにはないしょにしていただきたいのですが、その時私は心の中で、簡単に言ってくれるぜ! と思いました。今や野生の岩魚などは、源流部の限られた川にしか生息していないでしょう)
 そして一肌脱いでくださったのが、釣り師でもある大熊さんでした。なんと、青森の秘密の川まで行ってくださいました。大熊さんにすれば、特別なお気に入りの川なのでしょう。そして、みごと立派な岩魚を釣り上げ、伊藤さんに届けてくださいました。(見返しに描かれた魚がそれです)
 そんなこともあって、伊藤さんが大迫力の岩魚を描いてくださいました。ピチピチ、今にも動きだしそうです。なんとなく、野生の面構えです。美しい魚です。魚だけではなく、川も山も、なんと美しいんでしょう。
 少年は初めて岩魚を釣り上げます。たかが岩魚と思われるかもしれませんが、少年は一生この日のことを、この魚のことを忘れないでしょう。父のことも。川も山も。山の音や光までも。
 三者が力を合わせた絵本です。私はこの絵本が出来上がってきた時、思わず抱きしめました。ページをめくるたびに、山の気配がし、川の音がします。少年と父の息づかいがはっきり伝わってきます。絵本は楽々と、私を、源流部の川へと連れていってくれたのでした。
最上一平/児童文学作家

もっと見る