2022.11.10

<新刊紹介>少年が自然の中で命と向き合う——『いのちが かえっていくところ』

今回は、最上一平さんと伊藤秀男さんによる新作絵本『いのちが かえっていくところをご紹介します。


お父さんにつれられ、はじめて渓流釣りにやってきた、たもん少年。
大きな淵に何度もえさを流したものの釣ることができず、あきらめかけたとき、急にさお先がグイグイッとまがりました。


 「おおきいぞ! あわてるな! さおをたてろ!」
手に さかなの うごく いきおいが、ググン、ググン、つたわってくる。


お父さんに励まされ、心臓が爆発しそうになりながら、長い長いたたかいの末、ついにたもんは大イワナを釣りあげました。


 なんて おおきいんだろう。
 なんて うつくしいんだろう。
 はじめて つりあげた イワナだ。
 たもんは、ほおずりしたくなるほど いとおしかった。 


お昼。お父さんは火をおこし、たもんが釣ったイワナを食べようと言います。
たもんはドキッとしますが、やがて焼きあがったイワナを、涙をこぼしながら食べるのでした。

作家、画家の力が合わさり、山の気配、川の音、少年と父親の息づかいまでも伝わってきます。
はじめて命と向き合った、少年の感動が描かれた作品。

(最上一平・作 伊藤秀男・絵)
いのちが かえっていくところ

絵本・こどものひろば

いのちが かえっていくところ

最上一平 作/伊藤秀男

たもんはお父さんと、はじめてのイワナつりにやってきた。山の中の川、大きな淵で何度もエサをながすけれど、つれない。
あきらめかけたとき、さおさきがグイグイッとまがった。さかながくいついたのだ。さかなはグイグイひっぱり、頭があつくなり、しんぞうがドッキンドッキンする。右に左におよぎまわるさかなと長くたたかったすえ、ついにたもあみの中にさかなをとりこんだ。
「すごいぞ、イワナだ! おおものだ」
はじめてつりあげたイワナだ。たもんは、ほおずりしたくなるほどいとおしかった。
やがてお昼になると、「たもんのつったイワナをごちそうになるべ」と、お父さんはイワナをくしにさし、たき火でしおやきにした。たもんはむねがいたみつつ、ガブリとやった。「うまいよ!」話しかけるようにいうと、なみだがポロンとこぼれた……

釣りを通していのちの躍動を感じ、そのいのちをおいしくいただくことで、初めていのちの大切さ、重さを実感する。そうした少年の心情を、繊細かつ力強く描く絵本です。

  • 小学1・2年~
  • 2022年10月12日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み