2022.06.09

<新刊紹介>デビュー作から10年! 待望の続編『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』

2012年のいとうみくさんのデビュー作『糸子の体重計』から10年。
記念すべき節目の年に、『糸子の体重計』の続編、『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』が刊行されました。


糸子をはじめとした前作の登場人物に、新たに転校生も加わり、物語が展開していきます。

おいしいものを食べることが生きがいの、細川糸子。
糸子との距離をぐいぐいつめて「親友」であろうとする転校生、日野恵。
才色兼備でクールだが、糸子によって人と関わることの心地よさを知った、町田良子。
町田良子にひたすら憧れていくうち、自分の中にある気持ちに気づく、坂巻まみ。
母と2人きりの生活の中でふたをしていた自分の思いをあきらめないと決意する、滝島径介。

それぞれがそれぞれの悩みをかかえ、自分自身と向き合う姿が描かれます。


絵を手がけたのは前作『糸子の体重計』と同じく、佐藤真紀子さん。少し大人になった登場人物たちの複雑な心の動きを、繊細に描きます。

今回はいとうみくさんのインタビューから、一部をご紹介します。

――10年経っての続編ということですが、書こうと思ったきっかけはあったのですか?


『糸子の体重計』を出版したあと、ありがたいことに作家の仲間や読者の方から「『糸子の体重計』の続編は書かないの?」「あのあと滝島くんはどうなったんですか?」などのお声はいただいていました。私も糸子たちに会いたいなという思いはあったんですが、なかなか書くには至らず。
2019年、『天使のにもつ』を書き終えたあと編集のHさんと次をどうしようかと話しているとき、かるい気持ちで「『糸子の体重計』の続編でも書きましょうか」と話したんです。するとHさんが「いいですね!」ととても喜んでくださって(笑)それで書くことになったんです。


――タイトル『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』にはどんな思いがこめられているのでしょうか?


制作中はずっと『続・糸子の体重計』と思って書いていました。編集Hさんから「タイトルはどうしましょう?」と何度も尋ねられたこともあり(笑)、私としても考えてみたんです。改めて読み返してみると、子どもたちはなんて小さな世界で生きているんだろう、と思ったんです。「ここしかない」と思うからこそ、悩みもするし苦しい思いもする。別の世界に行ってみたら、気持ちがふっと楽になることもあるかもしれない。また同じように悩んでうつむいてしまうかもしれないけれど、顔を上げてみたらべつの世界が見えるかもしれない。そんなふうに考えました。
扉ってなんだろう? 糸子たちはどこにいるんだろう? 読んだ子どもたちが、自分なりにタイトルのことをいろいろ考えてくれてもいいのかなと思います。


――いとうさんはデビューから10年、これまでに多くの作品を発表してこられました。幼年童話から中学生以上に向けたものまで、幅広い年齢層が対象の作品群ではありますが、一貫して子どもに向けて書いていらっしゃいます。


やはり子どもを書くのがおもしろいってことなんです。子どもって、大人が思っているよりずっと感じているし考えているんですよね。
ですから私は、子どもに何か教えたい、とか伝えたい、といった気持ちは本当にないんです。読んだ子どもたちが結果的に何かを受けとってくれるなら、それはとても嬉しいことですが。いつも私が書きたいもの、気になる子を書いています。
もし、書き手としての責任というものを問われたら、わたしはわたしの作品に登場する子どもたち対しては責任を負う必要があると思っています。つまり、彼らを絶望では終わらせないということ。登場人物が一歩でも、半歩でも明日へと踏み出していける、いこうと思える。そう思えるようになるためには、どう生きていくのか、登場人物に寄り添いながら模索していく。それが書き手としての責任なのではないかと思っています。

インタビュー全文はこちら
https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2685

糸子たち登場人物が、また明日を生きていこうとする姿をぜひ本の中で確かめてください。

312ページ、小学校5・6年生から。

(いとうみく・作 佐藤真紀子・絵)
ちいさな宇宙の扉のまえで

単行本図書

ちいさな宇宙の扉のまえで

いとうみく 作/佐藤真紀子

細川糸子と同級生の、町田良子、坂巻まみ、滝島径介。そして、転校生の日野恵。この5人の視点で語られる、5つの物語。

6年1組・細川糸子。がさつで粗雑と言われるが、そのまっすぐな言葉は、かかわる人に時に大きな影響を与えることを、当の本人は知るよしもない。おいしいものを食べることが生きがい。
糸子が盲腸で入院している間に転校してきた日野恵。糸子との距離をグイグイつめて親友であろうとするが、糸子にはその真意がはかりかね、消耗するばかり……。
転校すればリセットできる。新しい自分になれる、そう思っていたけど、わたしはニセモノの仮面をかぶっていただけ。そんなわたしに本当の友だちなんてできるはずがない。
町田良子。才色兼備でクールな一面の裏で、糸子との出会いによって、他者とかかわる心地よさに気づき、あるべき自分を探し求める。思いはことばにしなきゃ伝わらない。わたしもいつかきっと。
坂巻まみ。町田良子に憧れる気持ちの真ん中にある、自分自身の感情に気づき、疑い、うろたえて、やはりそうなんだと自覚し向き合う。いまはまだこの思いを言葉にして伝えることはしない。でもいつか、自分自身を好きになれたらそのときは。
滝島径介。母は深夜までスナックで働いている。アパートでふたり暮らしの生活。思いがすれちがう日々。話をしよう。母さんの気持ちを聞いて。オレの思いを伝えて。母さんに大事なことをあきらめてほしくない。オレもオレが幸せになることをあきらめたりなんてしない。ちょっと図々しくなればいい。だいじょうぶ。

前作『糸子の体重計』では5年生だった子どもたちは、6年生になった。
相変わらず、小さなことでいじけて、羨んで、けんかして。
うじうじ悩んで、転んだりへたりこんだり、だれかのせいにしたり、逃げたり。
そして迎える、卒業式。

  • 小学5・6年~
  • 2022年5月27日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
糸子の体重計

単行本図書

糸子の体重計

いとうみく 作/佐藤真紀子

食べることが大好きな細川糸子、クールビューティー・町田良子、大柄な転校生・高峯理子、町田良子にあこがれる坂巻まみ、細川糸子とは給食の天敵・滝島径介……5人の子どもたちの平凡な日々。つらいこと、悲しいことはしょっちゅうだし、どうしようもなく苦しいときもやってくる。そんなとき、クラスを見渡せば、細川糸子がいる。誰に対しても真っ正面から向き合い、しっかりと相手を見て、思ったことを口にする。大人も子どももじたばたしてけんめいに生きている、そんな地に足のついた読みごたえある物語。

  • 小学5・6年~
  • 2012年4月25日初版
  • 定価1,540円 (本体1,400円+税10%)
  • 立ち読み
天使のにもつ

単行本図書

天使のにもつ

いとうみく 著/丹下京子

「頼んでまでして、なんで仕事しなきゃなんないの?しかもタダで」そんな中学2年・斗羽風汰が職場体験先に選んだのは、保育園だった。「子どもと遊んでりゃいいってこと?ありかも」本当に大丈夫なのか、斗羽風汰。

  • 中学生~
  • 2019年2月14日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み