2018.11.16

インタビュー『二年二組のたからばこ』著者・山本悦子さん

――『先生、しゅくだいわすれました』『神隠しの教室』などで人気の山本悦子さん。
11月に2作同時刊行でスタートする新シリーズ「だいすき絵童話」の第一弾の1作として、『二年二組のたからばこ』が刊行されます。本作を書いたきっかけ、作品にこめたメッセージなど、お話をうかがいました。


――『二年二組のたからばこ』を書かれたきっかけについて教えてください。


このおはなしに出てくるたからくんは、“落とし物チャンピオン”です。小学校の教員をしていたころ、どの学年でもどのクラスでも、必ず1人は“落とし物チャンピオン”がいました。学校に来るまでにランドセルの中身をすべて落とした2年生の男の子もいて、そのときはさすがに驚きました。朝職員室に行くと、私の机にその子の持ち物が山のように届いているのです。名前が書いてあったので、登校途中に見かけた子どもたちが届けてくれたのですね。それをもって教室に行くと、「先生、俺ランドセルの中身全部落とした」と。彼は「ふたが開いていたから落とした」と言うのですが、ではどんな歩き方をしたのだろうと私は不思議でならなくて……。
私が出会ったそんな“落とし物チャンピオン”のことを書いてみようと思ったのです。

――たからくんも毎日のように落とし物をしていますが、とっても明るくてポジティブに見えますね。


“落とし物チャンピオン”の子は、いちいち落ち込まないようなのです。けれどけっして物を大切にしていないわけではないと思います。その証拠に、名前がきちんと書かれた物たちはその子の元にちゃんと返ってくるのです。私が担任をしていたクラスでは、専用の袋をその子の机の横に下げて、落とし物はここに入れるように、と子どもたちに話していました。子どもたちもそれはそれとして、自然に対応してくれていました。



――このおはなしに登場する先生も子どもたちの姿と重なりますね。主人公のみなちゃんは、たからくんと関わることで気持ちが変化していきます。


そうですね。なぜそんなに落とし物をするのだろう、と不思議に感じるところから始まり、隣の席になってみれば、物を貸さなくてはならないことが増えて苛立ちもあり…。友だちの一言やお母さんの言葉に影響されたり、たからくんの行動に反応したりしながら、みなの気持ちは動いていきます。子どもにとってそれは自然なことだと思います。みなの微妙な気持ちの変化が伝わるよう、心がけて書きました。そんなみなも最後にはたからくんの本当の思いや葛藤する姿にふれ、心から仲間として受け入れることができるのです。

――山本さんの作品には、『先生、しゅくだいわすれました』『神隠しの教室』『がっこうカッパのイケノオイ』など、学校を舞台にしたものが多いですね。


学校が、とても好きなのです。教員として働いているときも、本当に毎日が楽しかった。学校というのは、いろいろな子がいるからこそ、楽しい場所なのだと思うのです。別々の家庭で育った子どもが、毎日一緒に活動する、1年間ともに生活する、これは実はすごいことです。家ではこうなのに…と、これまでの自分が通用しないこともあるでしょう。でもいろいろな個性をもったクラスメイトや先生と関わり合いながら、楽しく過ごせる場所。教職を離れた今でも講演会などで学校現場を訪れることがよくありますが、子どもたちはいつもとってもいい顔をしています。もちろん楽しい経験ばかりではないかもしれませんが、学校はいつの時代も子どもにとってかけがえのない場所だと思います。

――本作は絵本と読み物のかけ橋に、と新しく作られたシリーズ「だいすき絵童話」の一作でもあります。


佐藤真紀子さんの絵が入ったゲラを初めて見たときに、「こんなに絵がふんだんに入っているなんて!」と驚きました。やはり低学年の場合、最初の印象で文字ばかりだと感じると尻込みしてしまう子もいます。絵があることで、物語の世界にすっと入っていけるのではないかと思いました。



――佐藤さんとのコンビ作品も増えてきました。


今回、画家さんの希望を編集者の方に聞かれて、すぐに佐藤真紀子さんと答えました。本当におはなしをいきいきとさせてくれる素晴らしい絵で、嬉しく見ています。私自身、佐藤さんの絵に助けられたと感じているのは、最後の昇降口の場面です。昇降口の前には運動場でついた砂を落とすために溝があり、そこに入り込んだ鍵を見つける…という場面なのですが、それを文章だけで表現するのはなかなか難しくて。佐藤さんが描いてくださったのは、そのものずばり!小学校の昇降口でした。子どもたちの表情や、教室の風景など、読者の方も自分がみなといっしょにおはなしの世界にいるかのように感じられると思います。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。


学級には、たからくんのような“落とし物チャンピオン”がいたり、突然話し出す子がいたり、急に歩き出す子がいたり……、「ちょっと困ったな」と思うこともないわけではないのです。けれどどんな子どもも互いに受け入れ、認め合いながら楽しく生活している、それが「普通」であることを私はいつも願っています。そういう子どもたちの姿、クラスのあり方を書きたいと思い、このおはなしができました。楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

二年二組のたからばこ

だいすき絵童話

二年二組のたからばこ

山本悦子 作/佐藤真紀子

たからくんのおとしものを見つけたら入れておく箱が「たから箱」。たからくんは物を大切にしないからおとしても平気な顔してるって、友だちは思ってる。たからくんが日直になった日、生活科室のかぎがなくなって…。

いつもおとしものをしてしまうたからくんをクラスメイトの女の子”みな”の視点から描いた本作。なぜそんなにおとしものをするのか不思議に感じたり、何度も貸してと言われて煩わしく思ったり……みなが、たからくんの思いを知り、受けとめ、本当の仲間になるまで、子どもの素直で揺れやすい心模様が丁寧に描かれています。小学校の教員として長く勤めてこられた著者山本悦子さんの、いろいろな子がいるけれど、みんながありのまま過ごせる、それが「普通」であってほしい、という願いがこめられた物語。
佐藤真紀子さんによる絵もふんだんに入って、子どもたちの表情、教室の空気が伝わってきます。

  • 小学1・2年~
  • 2018年11月15日初版
  • 定価1,100円 (本体1,000円+税10%)
  • 立ち読み
神隠しの教室

単行本図書

神隠しの教室

山本悦子 作/丸山ゆき

授業時間中に子どもたち5人が姿を消した。懸命な捜索活動にも関わらず手がかりがない。マスコミは神隠しと騒ぎ立てた。養護教諭の早苗先生には心当たりがあった。小学生の時この学校で不思議な体験をした。クラスメイトにいじめられた時、自分以外誰もいない、もうひとつの学校に行ったのだ。同じことが今この子たちに起きている…ある日保健室のブログに書き込みがある。行方不明になった5人からだった。『ぼくたち、もうひとつの学校にいるよ。早苗先生はどうやって帰ってきたの?』

  • 小学5・6年~
  • 2016年10月17日初版
  • 定価1,760円 (本体1,600円+税10%)
  • 立ち読み
先生、しゅくだいわすれました

単行本図書

先生、しゅくだいわすれました

山本悦子 作/佐藤真紀子

しゅくだいをわすれたゆうすけ。しどろもどろに口からでまかせのウソでいいわけをしていると、えりこ先生が「だめだなあ、ウソをつくならもっと上手につかなくちゃ」「え?」「すぐばれるようなのはだめよ。それから、聞いた相手が楽しくなるようなのじゃなくちゃ」「楽しくなる?」「そう。聞いた人がウソとわかっても、はははってわらっちゃうようなのじゃなきゃ」「じゃあ、上手にウソがつけたら、しゅくだいやってなくてもしかられないってこと?」「そうねえ。だって、だまされちゃったらしかたないし」といって、えりこ先生はにやっとわらった。…次の日から子どもたちはしゅくだいができなかったわけを考えてきて発表することに…。

  • 小学3・4年~
  • 2014年10月25日初版
  • 定価1,210円 (本体1,100円+税10%)
  • 立ち読み
くつかくしたの、だあれ?

単行本図書

くつかくしたの、だあれ?

山本悦子 作/大島妙子

2年生になって、かなちゃんと同じクラスになった。でもかなちゃんは新しい友だちと外で元気いっぱい遊んでる。ユキは、かなちゃんといちばんの仲よしになりたくて、つい…。大すきな子のくつをかくしてしまった子の気持ちと、かくされてしまった子の気持ち、その両方をていねいに描いた作品です。

  • 小学1・2年~
  • 2013年10月25日初版
  • 定価1,210円 (本体1,100円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫品切・重版未定
がっこうかっぱのイケノオイ

単行本図書

がっこうかっぱのイケノオイ

山本悦子 作/市居みか

ぼくは、あさのかいのとき、クラスのみんなの前でしゃべる「スピーチ」がきらい。うまくしゃべれないし、どきどきしてあさごはんをもどしそうになる。みかちゃんもだまったまま、なみだをうかべている。

きょうはアンドレくんのばんだ。アンドレくんは、日本語がじょうずじゃない。「カッパ、ミタ」といってカエルをみせて、みんなに笑われた。でも、帰りに学校の池でぼくと、アンドレくん、みかちゃんはカッパをつかまえる。カッパの飼い方なんてわからないから弱らせてしまう。あめ玉で一命をとりとめるカッパ。その瞬間、ぼくたちは池の中にしょうたいされ、心を通わせて、お互いの気持ちを知る。

カッパは学校でいちばん好きな音は笑い声だという。だからこの池にいるんだ、と。その後、三人は学校でよくわらうようにった。

  • 小学1・2年~
  • 2010年12月20日初版
  • 定価1,320円 (本体1,200円+税10%)
  • 立ち読み
  • 重版未定
ポケネコ・にゃんころりん[図書館版]

ポケネコ・にゃんころりん[図書館版]

山本悦子 作/沢音千尋

手のひらにのる小さなねこ、にゃんころりん。愛情だけで生きる不思議ねこ。ふつうの小学生ユウ、カズ、あかねが身近なところで社会の問題にぶつかり協力して乗りこえていく。子どもたちへの励ましに満ちた良質のエンターテインメントです。

  • 初版
  • 在庫品切・重版未定