2021.07.28

〈インタビュー〉やべみつのりさん・矢部太郎さん「親子はじめての共作」

 多くの絵本、紙芝居を手がけるやべみつのりさん。その息子さんで、芸人や漫画家として活躍する、矢部太郎さん。お二人のことは『ぼくのお父さん』(新潮社)を通してご存知の方も多いかも知れません。
 8月、お二人のはじめての共作となる紙芝居『うさぎとかめ』(やえがしなおこ/脚本、やべみつのり・矢部太郎/絵)が刊行されます。実はこの作品、絵を制作中だったみつのりさんが体調を崩され、太郎さんがひきついで、紙芝居を制作されたのです。みつのりさんのご回復後、無事に紙芝居が刊行されました。刊行を記念し、お二人にお話を伺いました。





〈やべみつのりさんのインタビュー〉

——現在はご体調はいかがですか?


 ご心配おかけしましたが、もう元気になりました。もうお医者さんからも出歩いて大丈夫と言われています。

——それは安心しました。紙芝居の代役を考えたとき、すぐに太郎さんが浮かびましたか?


 そうですね。すぐに太郎にと思いました。でも太郎も忙しいし紙芝居を描いたこともないから、断られるかなと思ったのですが、二つ返事で「やるよ」と言ってくれましたね。嬉しかったですね。面白そうと思ってくれたのかな。そうそう、実は6歳のときに太郎はオリジナルの紙芝居を作っているから、今回の作品は2作目になるんですよ(笑)。

——出来上がった紙芝居をご覧になって、いかがですか?


 小さい子どもたちが喜びそうな、かわいらしい紙芝居になりましたね。やえがしなおこさんの脚本も、とても良いですね。お話自体はもともとイソップのものだけれど、細かな表現や、セリフの言い回しなんかで、カメの姿をしっかりと肯定していますね。ゆっくりでも良いんだと。教室の中で目立たない子だったり、おとなしい子も、この作品で励まされることもあるのではないかな。
 太郎の絵で印象的なのは、最後の場面ですね。勝負に勝ったかめは花かんむりをかぶっていますが、負けたうさぎに対しても、野原のなかまがこっそり四つ葉のクローバーを差し出しているように見えますね。これは私の描いたラフにはありませんでした。この寛容さは、いかにも太郎らしいなぁ。僕には思いつかない表現です。
 全体を通して、アップとロングの構図をうまく組み合わせて、紙芝居らしい抑揚のある絵になっていますね。シンプルな中でよく考えられた上品な脚本とも合わさって、とても演じやすい紙芝居になっていると思いますよ。




〈矢部太郎さんのインタビュー〉

——お父様を引き継いでの初めて紙芝居の制作でした。急きょ代役としてまわってきたとき、どう思われましたか?


 父のラフがもう出来上がっていたので、基本的にはそれをもとに描かせてもらいました。はじめての紙芝居制作でしたが、編集者さんとお会いしたときに紙芝居の大事にしているところを教えていただきました。熱意のある方で、丁寧に教えてもらいながら描くことができましたね。

——実際の制作のなかで、感じたことなどがあれば教えてください。


 たくさんの人が一緒に見ること、遠くから見ること、対象年齢を考えるなど、紙芝居が演じられることを前提としたものであることは興味深く思いました。これはお笑いでのフリップ芸用のイラスト等を制作した経験とも繋がるなと感じながら制作しました。

——太郎さんにとって紙芝居はどんな存在ですか?


 子どもの頃から、父が制作中や、完成した紙芝居をよく見せてくれていたので、とても身近なものでしたね。誕生日に、父から手作りの紙芝居をプレゼントしてもらったこともありました。6歳のときには「めちゃくちゃのだいぼうけん」という紙芝居を父に協力してもらって作ったりもしました。今描いてる漫画の形式も内容も、紙芝居から影響を受けているところが多いです。

——『うさぎとかめ』の気に入っている場面などありますか? 最後に読者へのメッセージなども含めて、お願いします。


 7場面のびっくりしたうさぎの絵ですね。紙芝居は、マンガのようにセリフや漫符を使わない方が良いと思い、草の動きなど背景の絵から心情などが伝わったら良いなと思って描きました。かわいい『うさぎとかめ』になったと思いますので、たくさんの方に楽しんでもらえたら嬉しいです。



うさぎとかめ

2021年度定期刊行紙しばい 年少向け おひさまこんにちは

うさぎとかめ

やえがしなおこ 脚本/やべみつのり・矢部太郎

ある日、うさぎとかめがあいました。「のろのろかめくん、あんまりのろくて、あるいているのか、とまっているのか、わからなかったよ」「うさぎさん、それほどいうなら、ぼくと、きょうそうしないかい?」のはらのなかまもあつまってきました。よーいどん! うさぎとかめの、かけっこがはじまりました。うさぎはあっというまに、とおくへかけていきます。でも、かめはあわてません。「いちに、いちに。ゆっくり、いくぞ」。

イソップの名作が紙芝居になりました。
やべみつのりさん、矢部太郎さん 初の親子共作です。

  • 2歳~
  • 2021年9月1日初版
  • 定価1,540円 (本体1,400円+税10%)
  • 立ち読み