2020.06.10

<ありがとう 田畑精一さん>絵本・ぼくたちこどもだ『おしいれのぼうけん』

先日、私たちのもとに悲しいニュースが届きました。
多くの絵本や紙芝居を手がけた絵本作家・田畑精一さんが、6月7日にご逝去されました。89歳でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。

児童文学作家の古田足日さんとともに1974年に発表した『おしいれのぼうけん』は、現在では243刷・230万部に達し、世代を超えて読みつがれています。


刊行当時の田畑精一さんの言葉をご紹介します。※

「保育園のことを考えるとき、僕は丸の内のモダンなビル街のイメージを浮かべることにしています。とてもトッピなようですが、それはこんなわけです。

ある日、僕は丸の内のビルの谷間を歩いていました。ここいく年かのうちに、このあたりのビルもすっかり新しくなったのですが、ちょうど新築したての大きい銀行の前に立ったとき、僕はほんとに恐しくて、鳥肌立ってしまいました。そびえ立つ銀行の建物は、暗く底光りする金属の壁面ですっかりおおわれて、圧倒的な威厳をもって僕を拒絶していました。とても人間が作った人間の建物とは思えませんでした。

一方の保育園のほうはこうです。密集した小さな住宅や団地に隣接して、低いフェンスにかこまれた小さな運動場、数十人の子ども達が自由に動きあそぶにはそれは全く不十分な広さです。木造も、ブロックもコンクリもある建物はたいていもうだいぶくたびれていて、穴があいたりしているスリッパをはいて中に入ると、、ワッと子ども達のかん声、笑い声、叫び声、いろんなほうむいてる机、ちらばった椅子、紙の切れはし、ボールにつみき、だいぶよごれたお人形、空カン、空びん、カメやドジョウのいる水槽、なんの芽か、芽を出したアイスクリームの容器、そして、ジーパンはいてる先生、ミニスカートの先生、いつもにこやかに笑ってる先生、ちょっとつかれてる先生。この熱気と混沌にみちみちた、保育園の姿を、あの丸の内の銀行の姿と重ね合わせたとき、ほんとうよりもさらにほんとうの保育園が僕には見えてくるように思えるのです。

そして、僕は夢見るのですが、あの丸の内の銀行は、やっぱりやめにして、あそこら一帯、みどりの木々の中に子ども達のための美しい劇場をつくろう。もちろん入場料はただで、とびきり楽しい人形劇が見られるようにしたいなあ――。毎日『おしいれのぼうけん』の絵を、あっという間にすりへる鉛筆をけずりけずりして画きながら、きっとこの絵本は、子ども達といっしょに、そんな夢につながるたしかな手がかりを造ってるんだなと思ったのです。」


「ほんとうよりもさらにほんとうの」保育園、そして子どもたちの姿を追求した田畑さん。

さまざまな画法や画材を試す中でたどり着いたのは、子どものごく身近にある画用紙と鉛筆でした。
ねずみばあさんのいる暗い地下の世界を描くのにも、鉛筆はぴったりだったのです。

保育園に体験入園もした田畑さんは、さとしとあきらの子どもらしい表情を、走り続けるスピード感を、ねずみばあさんの恐ろしさを、そして保育園で遊ぶ楽しさを、いきいきとした筆致で描き出しました。

本作は、「絵本・ぼくたちこどもだ」シリーズ第1作として発表されました。このシリーズ名を古田足日さんに提案したのは、田畑精一さんでした。
4年後、シリーズ第2作として刊行されたのは、『ダンプえんちょうやっつけた』です。


子どもたちが、自分自身の力で困難を乗りこえていく勇気と友情の冒険物語、『おしいれのぼうけん』。
田畑精一さんが描いた物語の世界は、これからも子どもを夢中にさせてくれることでしょう。


※童心社定期刊行物「母のひろば」126号(1974年11月15日)より

▼田畑精一さんの作品リストページはこちら
https://www.doshinsha.co.jp/special/tabata/

(ふるたたるひ、たばたせいいち 作)

おしいれのぼうけん

絵本・ぼくたちこどもだ

おしいれのぼうけん

ふるたたるひたばたせいいち

お昼寝前に、ミニカーのとりっこでけんかをしたさとしとあきらは、先生に叱られておしいれに入れられてしまいます。そこで出会ったのは、地下の世界に住む恐ろしいねずみばあさんでした。
ふたりをやっつけようと、追いかけてくるねずみばあさん。でも、さとしとあきらは決してあきらめません。手をつないで走りつづけます―。80ページものボリュームがありながら、かけぬけるように展開するふたりの大冒険。1974年の刊行以来多くの子どもたちが夢中になり、版を重ねてきました。累計239万部を超えるロングセラー絵本。

  • 3歳~
  • 1974年11月1日初版
  • 定価1,540円 (本体1,400円+税10%)
  • 立ち読み
ダンプえんちょうやっつけた

絵本・ぼくたちこどもだ

ダンプえんちょうやっつけた

ふるたたるひたばたせいいち

港や工場でたくさんの人が働いている、ひがしはまの町。この町のまん中にわらしこ保育園があります。体の大きな園長先生は、こどもたちからダンプえんちょうと呼ばれています。わらしこ保育園の年長クラスくじら組は全部で9人。くじら組でいちばん小さい子はさくらです。すぐ「こわいんだもーん」というので、みんなはさくらのことを弱虫だと思っています。
「ひがしはまの町中が、わらしこの運動場だよ」
神社の石段はすべりだい、じぞう山の太い木のつるは、ブランコです。
ある日、ダンプえんちょうとひなた山にやってきたくじら組の9人は、ほら穴をみつけて、海賊ごっこをはじめます。
さくらはお姫様の役になりますが、海賊からかくれているお姫様がつまらなくなり、今度は自分から海賊になります。さくらは海賊になりきって、こわかったチャンバラごっこが、できるようになります。海賊になったこどもたち9人は、正義の味方ダンプ丸に、宝物をかけていどみますが……。

『おしいれのぼうけん』につづく「絵本・ぼくたちこどもだ」シリーズ第2作。古田足日さん・田畑精一さんによる、集団のあそびの中で成長していく子供たちの姿を描いたロングセラー絵本。石巻市に実在した「わらしこ保育園」の実践をもとにした作品です。108ページの長編絵本です。お子様と読む時は、2、3回に分けて読んでも楽しめます。

  • 3歳~
  • 1978年4月20日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み