2019.05.20

インタビュー『やんばるの少年』たじまゆきひこさん

(2019.2.22 淡路島のアトリエにて)



「じごくのそうべえ」シリーズでおなじみの、絵本作家・たじまゆきひこさん。

今月20日、沖縄本島北部の森を舞台にした絵本『やんばるの少年』が刊行されました。稀少な生き物が生息する沖縄の森を舞台に、豊かな自然の中にある、小学生の「ぼく」たちの暮らしが描かれます。しかし、そこで起きる、ヘリパッドの建設、そしてほろ苦い幼なじみの友だちとの別れ……。
著者のたじまさんに、この作品への思いを伺いました。




――今回、原画を頂いたとき、その迫力に圧倒されました。絵についてどんなことを意識されたでしょうか。


いちばん最初に沖縄の絵本をつくったのは、『とんとんみーときじむなー』で、主な舞台は八重山群島の西表(いりおもて)でした。西表の自然の中に入って、何度も何度もスケッチをしました。形のあるものや人体は、スケッチしていくと描写力の勉強になるんだけれど、亜熱帯の植物たちのバイタリティというかものすごい力強さは、何度も何度もスケッチしてみてもなかなかそれが感じられないのね。必死になってスケッチしていると、鳥とか虫、ちょうちょなんかが寄ってきて、体にとまったりして、それは僕にとって、沖縄の自然と完全にとけあった初めての体験でした。そういった体験からくる絵が『とんとんみーときじむなー』の中にたくさん入っています。


今回の『やんばるの少年』では、沖縄の美しい自然を描くという点では同じなんですが、『とんとんみーときじむなー』とはちがった意味をこめなきゃいけないので、スケッチよりも、森の中で撮った写真を参考に描いていきました。形ではなくて、自然が持ってる力を抽象的に表現した絵本になったと思っています。

――力強い筆致で、うっそうとした、森の緑がせまってくるような感じました。


年の功でしょうか(笑)


『とんとんみーときじむなー』(1987年)、『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)『そうべえときじむなー』(2018年)など、沖縄を舞台にした作品を多く描かれています。この『やんばるの少年』はどのようなきっかけで制作がはじまったのでしょうか?


辺野古に200年も続くような大きな基地を作ることを聞いて、取材に出かけたことがきっかけです。そのときに、アメリカ軍の北部訓練場の返還のこと、返還の条件に、東村高江にヘリパッドを6つも作るという話を聞いて、高江に取材の足を伸ばしました。(*1)ヘリパッド建設については、例えば、住民にどのような影響が出るのかといった、詳しい情報があまり知らされていないことがわかってきました。また、取材する中で、沖縄島北部一帯にある「やんばるの森」にある環境破壊についても知りました。

子ども達をつれて、「やんばるの森」で昆虫や植物の見学会を行っている宮城秋乃(みやぎあきの)さんという昆虫研究者がいます。宮城さんは、高江や辺野古の貴重な生き物が開発によって殺されていることを強く訴えている人ですが、宮城さんの講演会で、『いのちの森 高江』(謝名元慶福監督)というドキュメンタリー映画を知りました。(*2)これは、高江の自然や地元住民の気持ちに重点を置いて制作されたドキュメンタリーで、開発の現状を広めるため、購入者にも上映会を開いてほしいという意図で上映権付きのDVDとして売っているものです。これを買って、京都と大阪の講演会でも実際に上映もしました。ただ、上映を観た20人、30人だけではなくて、もっと多くの人たちに、開発で理不尽に貴重な生物がどんどん殺されているという問題を、伝えられないものかと考えるようになりました。


絵本『てっぽうをもったキジムナー』は沖縄戦のことを子どもたちに訴えることが使命でした。それは小学校低学年の人たちに伝えやすいものではなかったけれど、例えば小学校4年生の子から手紙をもらったり、何度も何度もこの本を開いて、沖縄のことを考えているっていう高校生にも会いました。沖縄を中心に書店でもよく並べて頂いています。そういったことから、ぼくの仕事は、なんらかの意味で沖縄の人たちを支えるちょっとぐらいの力にはなるんじゃないか、そしてぜひ今度はもっともっと低学年の子どもたちにもわかるような絵本を作ろう、そう思って、高江に通い始めました。

しかし、なかなかうまく取材ができないままに、1年、2年と時間がたっていきました。やっと高江に住むある家族と知り合い、その子どもたちと一緒にやんばるの森に入ることができるようになりました。その家族の取材をしながら、時間がたっていくうちに、発想が少しずつわいてきて、この絵本の形になっていきました。
僕としては、沖縄の絵本の中では、かなり質の高いものができたんじゃないかと思っています。


――うなぎを穫るシーンも実際にあったことと聞きました。



そうそう(笑)。取材のときは子どもたちと一緒によく川なんか歩き回っていました。あとは子どもたちに話を聞いて想像したり、お母さんに話を聞いたり、実際に森の中を歩いたりしながら作品のイメージをふくらませていきました。この絵本は、現実から離れた発想ではないので、地に足のついた絵本としてまとまったと思っています。

――『やんばるの少年』は沖縄だけでなくて、全国の子ども達に読んでほしい作品ですね。


沖縄について、あまりにも知られていないと感じているので、沖縄の子どもたちだけでなく、ヤマト、日本の子どもたちに知ってほしいと思っています。

沖縄県立芸術大学の染色科で、10年程、2週間程の短期コースで染色を教えていたことがあります。学生たち11、12人の中、内地のヤマトから来た子たちが9人、10人くらいなんですが、その授業の中で絵本『てっぽうをもったキジムナー』を教室の中で読んだら、その子たちが、「だから沖縄には基地がいっぱいあるんですね」って言うからびっくりしたんです。遊びに来たんではなくて、2、3年も沖縄で生活しているのに、その子たちでさえ、沖縄のことをあまりにも知らない。

どうしてそうなってるのかと考えると、沖縄っていうのはあまりにも日本から切り離されたままになっていて、その根底には、無関心があるように思うんです。こうした問題に立ち向かっていくには、やっぱり、子どもたちの生活を通して、ちょっとやさしい気持ちになれるような、そんな絵本が必要じゃないかなと思っていました。


――低年齢の子どもたちにむけて作る上で、気をつけた点などありましたか?


子どもたちと川に入っていって、ウナギをつかまえたりしてね、それは僕と征三(*2)が70年前に高知の山奥でやっていたことと、同じ事なんです。それを70年前じゃなくて、今現在やっている子どもたちがいるっていう。
自然の中に入るってことは、子どもにとっても、大人にとってもすごく楽しいことなんです。それが今回テーマになっているっていうのは、いわゆる軍事基地とか、反戦的なものとは違う所から沖縄を知ってもらうことになるんじゃないかなと思っています。



――オスプレイに象徴されているものはなんでしょう。


オスプレイやヘリパッドの建設は、確かに今、高江で問題になっていることではあるんだけれど、大きな問題は、人間の身勝手で、あんなに美しくて大きな自然を簡単に破壊していっていること。そしてその問題にみんなが目を向けていないことだと思っています。

あんなに美しい森をかき混ぜて、大きな木を切りまくってなにも感じない無関心さ。自然を破壊していくそういった大きな力に、子ども達や生き物たちの命が、どう抵抗したらいいのかわからないまま自然から追い出されていく。オスプレイは単にそうした力の象徴として出ているだけで、言いたいことは、自然の中の生き物、動植物の命のことを感じてほしいということです。

――この絵本をよんで、豊かな自然の中でしか体験しえない、子どもたちのいきいきとした暮らしや命の輝きを感じました。沖縄とそこで起きている環境破壊について知り、自然の中で遊ぶきっかけに、この本がなればと思います。
今日はお話、ありがとうございました。






*1高江ヘリパッド問題:沖縄県国頭郡の国頭村と東村にまたがるアメリカ海兵隊の基地である北部訓練場の過半の返還にともない、6ヶ所のヘリパッドを新設することになった。東村高江の区民総会が反対決議を採択し、反対運動は今日まで続いている。ヘリパッド建設計画については、稀少な自然と環境破壊の観点から、日本自然保護協会、日本野鳥の会などの団体や、沖縄生物学会、日本生態学会、日本鳥学会、昆虫学会、植物分類地理学会、日本植物分類学会など、多くの学会が建設予定地の見直しの要望を提出している。

*2 たじまゆきひこさんの双子の兄弟で、同じく絵本作家の田島征三さん。ともに高知県の山村で幼少期を過ごす。絵本に『ぼくのこえがきこえますか』『はたけのカーニバル』『やまからにげてきた・ゴミをぽいぽい』『はたけのともだち』『いのちを描く』等。紙芝居の絵に『あひるのおうさま』『とまがしま』『かしこいカンフ』『しっぺいたろう』等多数。(いずれも童心社)

*3宮城秋乃「アキノ隊員の鱗翅体験」
やんばるの少年

童心社の絵本

やんばるの少年

たじまゆきひこ

沖縄県やんばるの森には、ここにしかいない鳥や虫などがたくさんいます。ぼくと弟げんたと、友達のハルコは、川でうなぎをとったり、バンシルーの木にのぼって実を食べたりする仲良し。そんなある日、オスプレイのヘリパッド建設が始まって、森の木すれすれにオスプレイが滑空するようになりました。ハルコの家族は、引っ越すことになって…。
森に暮らす子どもの視点から、静かで安全な暮らしを奪われる不条理さを描いた力作。

  • 小学3・4年~
  • 2019年5月20日初版
  • 定価1,760円 (本体1,600円+税10%)
  • 立ち読み
そうべえときじむなー

童心社の絵本

そうべえときじむなー

たじまゆきひこ

寒いのでたき火をしているそうべえたち。気球を作って暖かい南の国へ行こうとしたが燃やすものがなくなって危機一髪!助けてくれたのはきじむなー。渡してくれたのは隠れ蓑。これ幸いと、お百姓さんの弁当を盗み食いする4人。怒ったきじむなーは隠れ蓑を燃やしてしまうが、そうべえたちはその灰を体中にぬって婚礼の宴会へしのびこみ……。琉球の人たちの優しさにふれたそうべえたち。「わてら なにわのきじむなー」

作中に登場する「ウチナーグチ」(沖縄の方言)の解説はこちら

  • 3歳~
  • 2018年5月31日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
てっぽうをもったキジムナー

童心社の絵本

てっぽうをもったキジムナー

たじまゆきひこ

太平洋戦争末期、地上戦のはじまった沖縄。病気で歩けない少女さちこは、激しい砲火の中で祖母を失い、ひとりぼっちになってしまいます。意識をうしなったさちこを助けたキジムナー、その正体は……。沖縄戦・基地へと、沖縄で戦中、戦後に何がおき今に続いているのか問いかける、平和を願う絵本。

  • 3歳~
  • 1996年6月23日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫僅少
とんとんみーときじむなー

絵本・ちいさななかまたち

とんとんみーときじむなー

田島征彦 さく

沖縄のガジュマルの木には、ふしぎな力を持つきじむなーがすんでいて、少年とんとんみーと友達だ。

  • 3歳~
  • 1987年3月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 在庫品切・重版未定