2018.05.31

スペシャルインタビュー 『そうべえときじむなー』 著者・田島征彦さん

(2018.3.12 淡路島のアトリエにて)


第一作『じごくのそうべえ』から40年。シリーズ6作目となる7年ぶりの新刊『そうべえときじむなー』が刊行されます。作者のたじまゆきひこさんにこの新刊や、舞台となる沖縄への思いを伺いました。



—『そうべえときじむなー』は前作から7年ぶりの新刊です。舞台は琉球の時代の沖縄です。


元々沖縄の絵本を作り始めたのは、僕が絵本を書き出して3作目程の頃です。『じごくのそうべえ』を出して、その前後に灰谷健次郎さんと親しくなりました。灰谷健次郎さんと僕は、年は離れているけれど、出版界にデビューしたのは同じ頃なんです。『祇園祭』を出版した頃に、灰谷さんは『兎の目』を書いて、すごく有名になって、灰谷さんと一緒に沖縄に行きだして、一緒に絵本を作ろうということになったんです。でも、これがうまくいかなくて、それで僕一人で作ることになったんです。特に沖縄の西表島とか石垣島とかに通って、8年かかって『とんとんみーときじむなー』(1987年)を作ったんです。

『とんとんみーときじむなー』(1987年)
沖縄の島々にすむ精霊きじむなーと、病身の母を守る少年との愛と勇気の物語。

—新刊『そうべえときじむなー』でも「きじむなー」が登場します。


僕は「きじむなー」という妖精がものすごく好きなんです。絵本を作り出すちょっと前に、僕は京都の山の中に入って生活をしていました。丹波の山の中の生活は、周りに大きな木がいっぱいあった。ぼくはそこに、住んでいる妖精みたいなものを感じて、「木霊(こだま)」という型絵染の作品をたくさん作ったんだけれど、沖縄に行きだして、そうした木の精と沖縄のきじむなーが共通点があるというよりも、同じ物のような気がして親近感を感じました。

きじむなーは人間が好きな妖精で、いつも人間につきまとっていて、一緒に船にのって漁に出るとものすごくたくさんとれると言われている。きじむなーは魚の目の玉しか食べないので、そういうことできじむなーと人間は親しくなるんだけれど、裏切るのはいつも人間で、きじむなーを怒らせるんです。



—『そうべえときじむなー』でも、そうべえたちは、きじむなーに助けてもらいながら、もらった「かくれみの」を使っていたずらばかりしています。きじむなーや琉球の人たちはどこか、こうしたいたずらにもおおらかです。


沖縄の絵本としては『とんとんみーときじむなー』から10年後、『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)を出版されています。



『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)
太平洋戦争末期、激しい砲火の中で、精霊キジムナーに助けられた沖縄の少女の物語。基地問題を考え、平和を願う絵本。


『てっぽうをもったキジムナー』では現代の沖縄を描きたいと思ったんです。
沖縄の本島にはたくさんの軍事基地があって、住んでいるみんなは、たくさんの基地があるというよりも、基地の中で、基地の周りに住んでいるというか、基地にのみこまれてるように生活している。(注1)『とんとんみーときじむなー』のような牧歌的な創作民話だけでいいものか、やっぱり沖縄の今ある姿を子どもたちに伝えるためには、基地の問題と、沖縄戦の問題(注2)を描かなくてはいけないので、『てっぽうをもったキジムナー』は10年間ずっと沖縄に通い詰めて作った訳です。

けれど、現代の沖縄になる前、琉球という国はどんな国だったのか。琉球に『じごくのそうべえ』に登場する、軽業師と、医者と、山伏と歯抜き師が同じ江戸時代で、まだ沖縄が琉球と呼ばれた時代にまぎれこんだらどうなるだろう。やっぱりそこでは、きじむなーに出会う訳で、そういうファンタジーを作ろうと、今作っているのが『そうべえときじむなー』です。

今、沖縄の人たちがどういう目にあっているか、日本の人たちは沖縄の人たちをちゃんと考えているか、そういうことを考えると、一方で琉球時代の沖縄に、そうべえたちが行くようなファンタジーも必要ではないか、そういうことを思って作ったのが『そうべえときじむなー』です。あまりしゃべると楽しみがなくなるから(笑)、詳しくは出来上がった絵本を見てください。


絵本では、最後いたずらもののそうべえたちを、きじむなーは追い返しますが、「りゅうきゅうのひとたちのやさしいこころを、ヤマトのくにへつたえておくれよ」と、きじむなーから託されたメッセージは、読者一人ひとりに向けられたものでもあります。
まさに、たじまさんが長く沖縄に向き合ってきた思いがつまった絵本ですね。

今日はお話ありがとうございました。



注1:沖縄県の面積が日本の国土面積の0.6%であるのに対し、日本全体の米軍施設の約70%が沖縄に集まっているといわれています。また、米軍基地は、沖縄県全体の面積の約10%を占め、沖縄本島の約15%を占めるといわれています。
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kodomo/sugata/begunkichi.html

注2:沖縄戦では、日米両軍、民間人をあわせて20万人以上が犠牲となり、民間人約9万4千人が亡くなり、県民の4人に1人が亡くなったといわれています。
http://www.peace-museum.pref.okinawa.jp/heiwagakusyu/kyozai/qa/q2.html

そうべえときじむなー

童心社の絵本じごくのそうべえシリーズ

そうべえときじむなー

たじまゆきひこ

寒いのでたき火をしているそうべえたち。気球を作って暖かい南の国へ行こうとしたが燃やすものがなくなって危機一髪!助けてくれたのはきじむなー。渡してくれたのは隠れ蓑。これ幸いと、お百姓さんの弁当を盗み食いする4人。怒ったきじむなーは隠れ蓑を燃やしてしまうが、そうべえたちはその灰を体中にぬって婚礼の宴会へしのびこみ……。琉球の人たちの優しさにふれたそうべえたち。「わてら なにわのきじむなー」

作中に登場する「ウチナーグチ」(沖縄の方言)の解説はこちら

  • 3歳~
  • 2018年5月31日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
じごくのそうべえ

童心社の絵本じごくのそうべえシリーズ

じごくのそうべえ

たじまゆきひこ

「とざい、とうざい。かるわざしのそうべえ、一世一代のかるわざでござあい。」綱わたりの最中に、綱から落ちてしまった軽業師のそうべえ。気がつくと、そこ は地獄。火の車にのせられ、山伏のふっかい、歯ぬき師のしかい、医者のちくあんと三途の川をわたってえんま大王の元へ。4人はふんにょう地獄や、針の山、熱 湯の釜になげこまれ、人を食べる人呑鬼にのみこまれます。そうべえたちははたして生き返ることができるのか、あとは読んでのお楽しみ。

桂米朝の高座で名高い上方落語の「地獄八景亡者戯」(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)を題材に、関西弁を駆使して描く、スケールの大きな落語絵本で す。第一回絵本にっぽん賞を受賞した、ユーモラスなストーリーが子どもたちに大人気のロングセラー絵本。

  • 3歳~
  • 1978年5月1日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
とんとんみーときじむなー

絵本・ちいさななかまたち

とんとんみーときじむなー

田島征彦 さく

沖縄のガジュマルの木には、ふしぎな力を持つきじむなーがすんでいて、少年とんとんみーと友達だ。

  • 3歳~
  • 1987年3月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 在庫品切・重版未定
てっぽうをもったキジムナー

童心社の絵本

てっぽうをもったキジムナー

たじまゆきひこ

太平洋戦争末期、地上戦のはじまった沖縄。病気で歩けない少女さちこは、激しい砲火の中で祖母を失い、ひとりぼっちになってしまいます。意識をうしなったさちこを助けたキジムナー、その正体は……。沖縄戦・基地へと、沖縄で戦中、戦後に何がおき今に続いているのか問いかける、平和を願う絵本。

  • 3歳~
  • 1996年6月23日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み