2021.02.19

〈新刊紙しばい〉東京大空襲を今の子どもたちに伝える『三月十日のやくそく』

撮影・照屋真治


今日は、東京大空襲の語り部として活動をつづける作家・早乙女勝元さんの体験をもとにした新刊紙芝居をご紹介します。




「そんなことで、せんそうに かてるか!」
学校の訓練で、すもうを取らされていた主人公の“ぼく”は、すもうが弱くて先生にどなられてばかり。
けれど、そんなとき、友だちのガンちゃんは、すもうにわざと負けてぼくを助けてくれます。
やさしくて強いガンちゃんは、ぼくの大切な友だちです。




「ガンちゃん、みて。また アメリカの ひこうきだ。
「ああ、B29だな。
 ばくだんじゃなくて、くいものを
 おとしてくれれば いいのになあ。」

B29はアメリカの開発した爆撃機です。毎日、あちこちでばくだんを落としてまわっていました。
そして、1945年の3月9日から日付が10日にかわった真夜中。
東京の空は今までにない数のB29にうめつくされ、町は炎につつまれます。




あたり一面に焼夷弾(*1)が落ち、家族で熱風にあおられながら逃げまどうさなか、ぼくはガンちゃんと出会います。
「また あおう、やくそくだぞ」
にこっと笑ったガンちゃん。ぼくたちは再会を誓いますが……。



著者、早乙女勝元さんの実体験を元にしたという本作。
12歳で東京大空襲を体験した早乙女さん。生きのびた人々の記憶を再現したルポルタージュ作品『東京大空襲』(岩波新書)で日本ジャーナリスト会議奨励賞を受賞。「東京空襲を記録する会」での活動や、ご自身が名誉館長を務める「東京大空襲・戦災資料センター」で、東京大空襲の語り部として、未来を担う世代に平和を訴え続けています。


この紙芝居について、著者・早乙女勝元さんの言葉をご紹介します。




この紙芝居を演じるみなさんへ

 3月10日の東京大空襲では、たった2時間半の爆撃とその後の火災で、約十万人が焼き殺されました。ガンちゃんは、10万という数字のなかにのみこまれ、なにも語ることはできません。
 わたしは死んでいったガンちゃんたちを、数字で語りたくないのです。ひとりひとりがつい数時間前まで、わずかな食糧を分けあい「ほしがりません、勝つまでは」と、けんめいに生きていたのですから。
 だから、ずっと語りつづけようと、心のなかで、ガンちゃんたちに誓いました。
 わたしが生きているかぎり、ずっと約束をはたしつづけよう。
 その思いが、この紙芝居を生みました。
早乙女勝元(『三月十日のやくそく』解説より)





「黙る時はあきらめた時、あきらめたらおしまいだ。」そう決意し、戦争の体験を語りつづけている早乙女さん。本作では「東京大空襲」の解説や、著者による読者へのメッセージも掲載。戦争を知らない子どもたちにも届く言葉になるよう、時間をかけて吟味し脚本にしあげてくださいました。

東京だけでなく横浜、名古屋、大阪、神戸、その他多くの地方都市が空襲の被害にあいました。
おじいちゃん、おばあちゃんたちが子どもだったときに、多くのかけがえのない命が戦争で失われていたこと……。

ぜひ3月10日を前に、この紙芝居を演じあい、ご家族で話してみてはいかがでしょうか。


12場面/4・5歳~
(早乙女勝元 脚本/伊藤秀男 絵)




*関連イベント
「東京大空襲・戦災資料センター」にて、オンラインイベント「東京大空襲を語り継ぐつどい」が実施されます。イベント内でこの紙芝居についての紹介も予定されています。

オンラインイベント:「東京大空襲を語り継ぐつどい」
配信期間:3月1日0時~14日24時まで
※講演:今、空襲体験と向き合う」吉田裕館長
※体験を語る:「ガラガラ、ガラガラ、猛火 焼夷弾 私は逃げて 逃げて 命をつないだ」白石哲三さん
※戦災資料センターのこの一年の動き
2月20日よりHPにて受付を開始します 参加費 500円/1回線


詳しくは以下まで
東京大空襲・戦災資料センター
https://tokyo-sensai.net/


*1: 焼夷弾(しょういだん) 火災を起こすことを目的として開発された。東京大空襲で投下された焼夷弾は「M69焼夷弾」。粘り気のあるガソリン「ナパーム剤」が充填されており、着弾すると、火のついたガソリンをまき散らす。



三月十日のやくそく

2020年度定期刊行紙しばい ともだちだいすき

三月十日のやくそく

早乙女勝元 脚本/伊藤秀男

毎日、あちこちで空襲がある。学校も兵隊になる訓練ばかりだ。でも、ぼくのところにまで空襲はまだこないと思っていた。けれど、その日はやってきた。1945年3月10日の真夜中、空は爆撃機にうめつくされ、町は炎につつまれた……。熱風にあおられながら逃げまどうさなか、ぼくは友達のガンちゃんにであう。「また あおう、やくそくだぞ。」と、再会を誓ったけれど……。著者、早乙女勝元さんの実体験をもとにした紙芝居。

  • 4・5歳~
  • 2021年3月1日初版
  • 定価2,090円 (本体1,900円+税10%)
  • 立ち読み