2020.06.26

〈いま、読みたい絵本〉たなばたに願いをこめて『ひ・み・つ』

今日ご紹介するのは、たなばたを題材にした絵本『ひ・み・つ』です。
今月7日にご逝去された、絵本作家・田畑精一さんによる作品です。


たなばたの日、80歳になるおばあちゃんに、孫のゆうきは手紙を書きました。
   「しんばあちゃん。
    もうすぐ 80さいの おたんじょうびですね。
    プレゼントに いちばんほしいものは なんですか。」

 おばあちゃんから届いた返事の手紙に書かれていたのは、
「天国のおじいちゃんと40年ぶりに会ってダンスがしたい」という、おばあちゃんの「ひ・み・つ」の願いでした。



どうやったらおばあちゃんの願いを叶えられるか悩むゆうきに、
「魔法つかいになれば」と友だちがアドバイスをくれます。

   「魔法つかいなら、ぼく なれるぞ!」

 劇で魔法つかい役になった時におばあちゃんが作ってくれた帽子をかぶり、おばあちゃんの願いを唱えたゆうき。すると不思議なことに、ゆうきの耳に動物たちの話す言葉がわかるようになります。



 お宮の森へと導かれたゆうきは、おばあちゃんの願いを叶える方法を動物たちに教わります。
そしてやってきた、たなばたの夜。
ゆうきたちが森で織り姫と彦星に願った時、おばあちゃんは……!?




本書はおばあちゃんの願いを叶えようと奮闘する主人公ゆうきの不思議な冒険と成長の物語です。
子どもたちは不思議な展開にドキドキと胸おどらせ、たなばたの夜をゆうきと同じ気持ちでむかえることでしょう。
そしてまた私たち大人にとっては、素敵に年を重ねたおばあちゃんにも心ひかれる物語です。

ゆうきのおかげで、夢の中で40年ぶりにおじいちゃんと出会えたおばあちゃん。
二人はともに若い頃の姿に戻り、目をふせて手を取り合って踊ります。
色彩豊かに描かれ、音楽が聞こえてきそうなこの場面には、一言の言葉もありませんが、年を重ね一人生きてきたおばあちゃんの心が、強く読む者の胸にせまります。

 そして、物語の最後に、ゆうきにあてたおばあちゃんからの手紙にある
「ゆうきの おかげだよ。ありがと!  
 おばあちゃん、いきてく げんきが、どーんと わいてきちゃった。」
という言葉に、つい、涙してしまうかもしれません。


本書は、2004年、田畑さんが 73歳の時に描かれたもの。
 「あのね、おばあちゃん もう いっぱい プレゼント もらったから なんにもいらない。
  いま いちばん ほしいのは ゆうきの えがおだよ」……

生涯を通じて、子どもたちの夢や希望と、困難を乗り越えていく力を信じ、描いた田畑さん。
おばあちゃんから孫のゆうきにあてた言葉は、田畑さんから子どもたちに向けた願いであるのかもしれません。

 絵本としては52ページとボリュームがありますが、美しい豊かな絵の世界とお話の展開、そして登場人物たちに心つかまれ、長さを感じさせません。
来月7日のたなばたを前に、幅広い年齢の方々にぜひおすすめしたい、田畑精一さんの傑作絵本です。

52ページ/4歳から
(田畑精一・さく)
ひ・み・つ

たばたせいいちの絵本

ひ・み・つ

たばたせいいち さく

ゆうきはおばあちゃんの大切な《ひみつ=願い》のために、一生懸命がんばります。そして…。

  • 4・5歳~
  • 2004年5月30日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み