2019.07.16

〈新刊図書〉『新版 科学者の目』

昨年5月、惜しまれながらこの世を去った絵本・紙芝居作家のかこさとしさん。
かこさんによる古今東西の科学者たちの伝記集『科学者の目』が、新版として今月、装いも新たに生まれ変わりました。

1974年に刊行された本書の底本『科学者の目』は、かこさとしさんの手による科学者たちの肖像画とともに、その業績や発見、人柄なども描かれ、子どもたちに科学への興味と科学者への憧れを抱かせる本として、高い評価と、非常に多くの復刊の要望をいただいていた作品でした。
この作品にこめられた思いについて、かこさとしさんのあとがきをご紹介します。


あとがき
 この『科学者の目』は、1969年(昭和44年)11月から約1年間にわたり、朝日新聞日曜版の子ども欄に同じ題名で連載した、41人の科学者の伝記を集めたものです。 私はこの伝記集を書くにあたって、3つの点に特に注意をはらうようにしました。

 その第一は、いままでの子ども向けの科学者の伝記というものが、ともすると「偉かった」「すごい発明をした」「かがやかしい賞をもらった」ことを、述べてはいますが、その業績の内容を、じゅうぶんに読者にわかるように伝えていない点を改めたいと考えたことです。いかに子ども向けであるからとはいえ、科学者の伝記であるからには、ほかのことを述べる以上に、その業績を述べることが必要であると考えたからです。しかし、科学者は世界的な第1級の学問知識をひらかれた方々であるうえ、かぎられた紙面という制約がありましたので、私の願いがじゅうぶん達成されているかどうか、大いに疑問に思っているのですが、ともかく私なりに、そのだいじな点を読者に伝わるように、もっとも大きな力をそそいできました。

 第二の点は、科学者の目がどこにそそがれ、どんなふうに観測し、なにを見ぬいて考えたかを書きたいと思ったことです。すぐれた業績や成果をうみ出すもととなった源やきっかけや心がけなどをできるだけ示して、たんに「偉かった人」を称賛するのではなく「先人が求めたところ」のものを、若い読者が知り、さらに発展させて追求してほしいと願ったことです。

 第三の私が注意した点は、登場してくる科学者を、たんに近よりがたい偉人としてまつりあげるのではなく、人間として描きたいと考えたことです。その秀でたすばらしい点ははっきりとさせながらも、私たちと同じような悩みや弱みをもっていたことも知ってもらおうとしました。そのためふつうの伝記ではほとんどとりあげることのないいやな悪い一面や、あやまりをおかしたことも紹介しました。読者がそれによって身近な親しみを感じ、なあんだ私と同じかと安心もし、そして真の理解と尊敬の念をもってほしいとの願いにほかなりません。

 以上のような三つのねらいを秘めながら、それらを「科学者の目」という一つの流れにまとめるようにしたのが、この伝記集のほかの伝記の本とちがうところかもしれません。「科学者の目」の意味するものは、本物の眼球や目玉のことも、科学者の観察態度や視点、視線、さらに洞察力や推理力、それに語呂合わせのように芽生ばえや萌芽、将来や未来への計画や構想といったものまでもふくむ、たいへん大きな意味を「目」に託しました。

 新聞連載中から多くの読者の方からはげましを受けた、このちいさな伝記の本が、少しでも日本の子どもたちの伸びてゆくことに、その真の科学への関心につながるなら、私のもっとも喜びとするところです。
1974年 かこさとし



今回の新版にあたっては、巻末の科学技術史略年表を更新し、かこさとしさんのご長女・鈴木万里さん(加古総合研究所)のあとがきを掲載。
過去から現代までの科学史を見通しながら、これからの子どもたちの科学への関心に心を注いだ、科学者かこさとしさんの姿が心にせまる伝記集です。

199ページ。中学・高校生など科学を学んでいく方々に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
(かこさとし・文/絵)


新版 科学者の目

単行本図書

新版 科学者の目

かこさとし 文・絵

科学技術史に偉大な足跡をのこした41人の発想や着眼点のユニークさを、工学博士・技術士としての視点からわかりやすく描いた人物伝。
1969年11月から朝日新聞日曜版の子ども欄に連載後、1974年に刊行され、子どもたちに科学への興味と科学者への憧れを抱かせる本として、多くの読者の心に残る作品でした。
本書『新版 科学者の目』では、巻末の科学技術史略年表を更新、かこさとしさんのご長女・鈴木万里さん(加古総合研究所)のあとがき、日本の子どもたちの科学への関心に心を注いだ、科学者かこさとしさんの姿が心にせまる伝記集です。

  • 小学5・6年~
  • 2019年7月5日初版
  • 定価1,540円 (本体1,400円+税10%)
  • 立ち読み