……「くにのために たたかえ」と みんなに はげまされて、ぼくはせんそうに いった。かあさんだけが ないていた……。
平易で、選び抜かれた深いことばのひとつひとつが、頁(ページ)からくっきりと立ち上がる。
そして、「ぼくの からだは とびちった」。けれど、「ぼくの こころが なにかを み、なにかを きき、なにかを かんじはじめている」。
だから、遠い故郷でかあさんが泣いているのがわかる。弟が「にいさんの かたきを うってやる」と怒っているのもわかる。弟よ、ここに来てはいけない。かあさんをひとり残して。それでも兄を戦争に奪われた弟は……。
悲しみ、喪失、行き場のない憤り、憎しみ、そして……。戦争が引き出す、ひとのあらゆる「感情」と「感覚」を、田島征三さんは、この一冊の、ひとつひとつの「絵」に込め、描き尽くすことに成功した。「ゆきばもなく どろどろと うずまく いかり」を敵も味方もなく、「たましいに なって のぼってくる」奪われたいのちを。癒えることのない悲しみを。
この地上から、あらゆる戦争が、いのちを脅(おびや)かすすべてのモノやコトがなくなることを祈るだけではなく、わたしたちの絶え間ない意志の力でなくしていくのだ、と。
(おちあい けいこ/作家 子どもの本の専門店クレヨンハウス主宰)