書評

絵本からワクワク、ドキドキの魔法にかかる 　母のひろば713号（2023年10月15日発行）

　保育園へ訪問したある日のこと。一歳児の女の子が『かわいい！どうぶつパーク』を保育者と一緒に読みあっていました。すると、一ページずつのしかけを丁寧にゆっくりと開いて読む度に会話をしながら笑顔が溢れていきます。ねこのページに差し掛かると、女の子はハッと気づいたように、目線を保育室の棚の方へ向けました。そこには、ちいさなねこのぬいぐるみが飾ってあったのです。その姿に気づいた保育者はさっとそのぬいぐるみを取ってきて、絵本に描かれていたねこ同士がほっぺを合わせてすりすりとする挨拶と同じように、女の子のほっぺにすりすりとしました。嬉しくてキャッ、キャッと大喜び。そこには、絵本の世界を体感する時間が流れていました。
　「どうぶつしかけえほん」シリーズは、“かわいい”“すごい”“のんびり”などバラエティに富んだテーマで作られています。あかちゃんでもわかりやすいように、ダイレクトに目に飛び込む絵が描かれ、想像をしやすい平易な言葉で動物それぞれの特徴を味わうことのできる絵本です。私は、乳児期からの人と共に“絵本の世界を味わうこと”の積み重ねが、現実の世界でも知ってみたい、やってみたいという子どもの意欲を生み出し、それがいずれ実体験とつながった時に人として生きる上での大切な力となっていくのだろうと考えています。
　実は、ある講演会をきっかけにプライベートでも交流のあるいしかわこうじさんは、日頃からこの実体験をこよなく愛する絵本作家です。人・物・出来事と触れ合いながら、常にワクワク、ドキドキを味わって絵本の制作をしています。きっと、そんないしかわさんから生み出された絵本だからこそ、子どももワクワク、ドキドキしながらさまざまな意欲が掻き立てられるのでしょう。私は、そんな子どもの姿を見つけるたびに、絵本というものには作家の心持ちが伝染する魔法があるのだと感じます。今度の新刊は“ふしぎ”。お子様と一緒にお父様やお母様も動物の“ふしぎ”を発見する魔法にかかってみてはいかがでしょうか。

なかもとみお／白梅学園大学・大学院教授