オオカミは海をめざす

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イリヤ。
ぼくたちは、彼のことをそう呼んでいた。
けれどそれは、彼の名前ではなかった。彼にはもともと名前はなかった。人が間に合わせに〃イリヤ〃という名前を彼に与えたにすぎない。もっとも、ぼくたちにとっては、そんなことはどうでもよかった。イリヤはイリヤで、それ以外の何者でもなかった。
その名前に、ぼくたちは今でも親しみと懐かしさを感じている。
その名前に、憧れを感じる者もいる。もちろんぼくも、みんなと同じように、イリヤに親しみと懐かしさと憧れも感じている。ただひとつだけ、みんなが感じていないものを、ぼくはイリヤに感じていた。それは、恐怖──。
しかし不思議なことに、イリヤに感じていた恐怖こそが、ぼくがイリヤにもっとも引きつけられたところのものなのだ。
イリヤは、ある日突然ぼくたちの前に現れ、強い印象をぼくたちに与えて消えた。イリヤとぼくたちとの関わりを要約してみれば、ただそれだけのことにすぎなかったが、その内実は、謎と秘密と不思議な冒険に満ちていた。
三田村信行の創作は、幼年から高学年まで多岐にわたり、作品数も膨大ですが、一貫して書き続けてきたモチーフが“オオカミ”です。1988年『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』を嚆矢とするならば、その集大成とも言える作品が『オオカミは海をめざす』です。
児童文学というジャンルすら忘れさせる、一級のミステリー&エンターテインメント作品。
- 全国学校図書館協議会選定
- 定価2,090円 (本体1,900円+税10%)
- 初版:2025年7月28日
- 判型:A5判/サイズ:21×14.8cm
- 頁数:368頁
- 小学5・6年~
- ISBN:978-4-494-02092-8
- NDC:913

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内容説明
イリヤ。
ぼくたちは、彼のことをそう呼んでいた。
けれどそれは、彼の名前ではなかった。彼にはもともと名前はなかった。人が間に合わせに〃イリヤ〃という名前を彼に与えたにすぎない。もっとも、ぼくたちにとっては、そんなことはどうでもよかった。イリヤはイリヤで、それ以外の何者でもなかった。
その名前に、ぼくたちは今でも親しみと懐かしさを感じている。
その名前に、憧れを感じる者もいる。もちろんぼくも、みんなと同じように、イリヤに親しみと懐かしさと憧れも感じている。ただひとつだけ、みんなが感じていないものを、ぼくはイリヤに感じていた。それは、恐怖──。
しかし不思議なことに、イリヤに感じていた恐怖こそが、ぼくがイリヤにもっとも引きつけられたところのものなのだ。
イリヤは、ある日突然ぼくたちの前に現れ、強い印象をぼくたちに与えて消えた。イリヤとぼくたちとの関わりを要約してみれば、ただそれだけのことにすぎなかったが、その内実は、謎と秘密と不思議な冒険に満ちていた。
三田村信行の創作は、幼年から高学年まで多岐にわたり、作品数も膨大ですが、一貫して書き続けてきたモチーフが“オオカミ”です。1988年『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』を嚆矢とするならば、その集大成とも言える作品が『オオカミは海をめざす』です。
児童文学というジャンルすら忘れさせる、一級のミステリー&エンターテインメント作品。
書評
- 縁 母のひろば735号 2025年9月15日発行
- もうふた昔あまり前のことになりますが、付き合いのあった若い編集者が、べつの会社に移るというので、「じゃあ、はなむけに何か書くよ」と、約束しました。それから二十余年、やっと書き上げたのがこの作品です。
二十余年の間、うまずたゆまず書き続けたといえば聞こえがいいのですが、そんなことはありません。仕事の合間に書き続け、何年もほったらかしにしたあと、思い出しては書き継ぎ書き継ぎ、もう忘れられているかもしれない約束を果たそうと、闇雲に書き継いでなんとか完成にこぎつけたものです。そのため、内容に時代的に少し古びたところがあるのはいたしかたありません。
さて、約束を果たすために何を書こうかと考えた時、以前読んで魅了されたアラン・フルニエ(1886~1914)の『モーヌの大将』(岩波文庫版では『グラン・モーヌ』)が思い浮かびました。この小説は、道に迷って不思議な屋敷に迷い込み、そこで美しい令嬢に出会った寄宿学校生のモーヌが、愛と冒険の果てに新しい「生」に向かって歩みだすという、ミステリーの雰囲気をもった青春小説です。世界中でもっとも翻訳されたフランスの小説は『星の王子さま』だそうですが、この『モーヌの大将』は二番目だということです。(どこで目にしたか忘れましたが)若き日のサルトルとボーヴォワールも、この『モーヌの大将』に夢中になったそうです。
日本では、三島由紀夫が10代の頃に読んだという記事をネットで見ました。
そこで、考えたのは、
――『モーヌの大将』の骨格を借りて、そこに、これまでの自分のモチーフの形象であるオオカミを流し込んだらいいのではないか。
ということです。
そうと決まると、最初に浮かんだのが、ラストの「森に向かって押しよせてくる海」のイメージでした。作品を書く時、わたしは、書き出しかラストを決めて、その間を埋めていくというやり方をしています。この作品の場合は、ラストが圧倒的なイメージで迫ってきたので、そこにたどりつくまでに、四苦八苦しながら物語をつづっていきました。
ともあれ、今思うのは、若い編集者との出会いと約束、そして『モーヌの大将』を読んだことが機縁となってこの作品が生まれたといっても過言ではないということです。ひとつの作品が生まれるのにも「縁」というものがあるのだなあと、しみじみ思っています。 - 三田村信行/児童文学作家
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