2023.06.06

【史上もっとも『ががががーん!』な絵本はこうして生まれた!】担当編集者に聞く、新刊『おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました』

新刊絵本『おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました』(渡辺朋 作/高畠那生 絵)が刊行されました。本作は、絵本のテキスト(文章)だけを対象にした、絵本コンクール「絵本テキスト大賞」の第10回の大賞受賞作。

2017年の受賞から6年を経て完成した本作について、編集を担当した編集部のSさんにお話を聞きました。


あらすじ


女の子がお気に入りの白いドレスを着て、レストランに行くと、
白いドレスにケチャップが、ぽとっ……。

「ががががーん」

それを見たママは「げげげげーん!」
ママを見たパパは「ぞぞぞぞーん!」
女の子のショックはあかちゃんにも、ウェイターさんにも、
テーブルの上のパンにもビンにもコーンにも伝わって、町中のみんなを巻きこんでの大騒ぎに!



文章はほぼ擬音だけ! 絵本テキスト大賞受賞作


――「ががががーん!」「げげげげーん!」など、文章はほぼ擬音だけなんですね。


ほぼ擬音だけの文章で、登場人物の連鎖する驚きの感情を擬音だけで描写した実験的な作品です。発想の自由さや奇想天外さ、女の子の心情を元に展開されるストーリーが評価され絵本テキスト大賞の大賞受賞が決まりました。

応募段階の原稿。擬音とともに状況を説明したト書きが描かれている。

作家・画家との絵本づくり


――どのように絵本づくりを進められたのでしょう?


作品の文章がほぼ擬音だけなので、イメージを画家の高畠那生さんとも共有して作品を作っていく必要があり、特に主人公の女の子の気持ちの流れについて、作者の渡辺朋さん、高畠さんとも、たくさん話しました。


――白いドレスにトマトソースがおちたショックは、レストランの中をかけめぐります。女の子は「よろろろーん…」とショックをかかえながら、レストランから街へでてきますが、「ぎぎぎぎーん!」の音とともに、ワイヤーにつり下げられた不思議なギタリストが登場します。


このギタリストも、高畠さんがとても印象的に描いてくださいました。
試演で読み聞かせをしてみてよくわかったのですが、このギタリストの登場が、とても効果的なアクセントになっているんです。


――完成前のラフの絵やダミーも拝見しました。高畠那生さんは、このシンプルな文章から、これほど豊かでおもしろい世界をイメージされていて、すごいですね……!


本当にすごいですよね。
絵本の展開のイメージはお伝えしていましたが、高畠さんからラフをいただいたとき、この文章から、どうやったら、こんな世界を想像し生み出せるのだろうと、本当に驚きました。


単なるナンセンスではなく、子育ての中からうまれた物語


――後半、不思議なギタリストの登場で、レストランから街へとショックの波が変調して伝わり、さらに奇想天外な世界が広がっていきます。


後半の展開ですが、主人公の女の子がどんな心情なのか、本文のテキストにはない部分も、あらためて作者の渡辺さんにお話をうかがい、画家の高畠さんとイメージを共有しながら制作をすすめていきました。

後半の街のお祭りさわぎは、いわば、便乗や、悪ふざけであって、女の子の気持ちとは、どんどんかけ離れていってしまいます。
そのからさわぎを一蹴して、『わたしがショックなんだ!』と叫ぶ、それが最後の女の子の「が…が…が…、がーん!」なんですね。

だから、最後の「どどどどーん!」の花火は、堂々と、おもいっきり自分の気持ちを主張することができた! すっきりした! という女の子の心情の表れなんです。
この花火の場面もラフの途中まではもっと街が描かれていましたが、より女の子の気持ちが伝わるように、高畠さんからのアイデアで、心象風景として花火をメインに描いてくださいました。

作者の渡辺さんがイメージしていた世界を、高畠さんが大胆、果敢に不思議でおもしろい世界へと広げていってくださいました。
高畠さんの絵にあわせて、渡辺さんに擬音を加えていただいた所もありました。そのようなやりとりの中で、お二人ならではの作品になったように思います。


――一見、擬音や絵のナンセンスな展開が目をひく絵本ですが、主人公の女の子の気持ちによりそった形で描かれた作品なんですね。


そうなんです。
この絵本のきっかけについて、渡辺さんからうかがいました。
お子さんと擬音で話す、という遊びをしていて、ちょっと残念なことがあったとき、お子さんとそれは「ががががーんだったね」と話していたことが、この絵本の原型になったそうです。
だから、お子さんと過ごす時間の中から生まれた作品なんですね。ナンセンス絵本として、奇抜で変わった絵本を創りたいと思ってできた絵本ではないんです。

また、この絵本で登場する擬音は、どれもひらがなで書かれています。カタカナよりもひらがなの方が、文字をおぼえたての小さな子でもよみやすいからという、渡辺さんの思いがこめられているそうです。
深く話をすることで、いろいろな発見があり、お話の種、作者の思いなど、わかってよかったことがたくさんありました。

それぞれのもつ擬音の意図やおもしろさが活きるよう、また高畠さんの絵を活かすよう、本文書体やロゴなど、グラフィックデザイナーの山田武さんが試作を重ねながら、制作を進めてくださいました。


読み聞かせで、子どもたちが大笑い!


――制作中、試作品を持って、園に試演に行かれていましたね。


2才〜5才児さんたちに試演しました。
表紙を見たときには、女の子のことを見て「かわいい〜」との声があがりました。
読み聞かせを始めると、初めは絵本の世界観を探っているように、静かに見ていて、擬音が発せられるたびに、少しずつ笑いが起こります。
そのうちに、みんな擬音だけで展開されるという、この絵本の法則をつかんできてくれて、全体に一体感が生まれました。読んでいる私も嬉しくなるくらい、みんな楽しんで一緒に声をだしたり、良い反応を見せてくれました。みんなとても良い表情をしていました。
音声だけですが、その時の様子です。


――楽しそう! 子どもたちの反応が伝わってきますね!


保育園の先生にも詳しく話を聞いたのですが、ケチャップが洋服について「やっちゃった!」と感じるのは、年長さんくらいから。もっと低い年齢の子どもたちは擬音の面白さがメインで笑っているのだろうとおっしゃっていました。
「この絵本すぐ欲しい! 本屋さんに行けば買える?」と聞かれたりして、幼児さんにここまで楽しんでもらえるとは思っていなかったので、とても手応えを感じうれしかったですね。

――わが家でも、小学校6年生と3年生に早速見本で読んでみたのですが、とても楽しんで、「ががががーん!」のフレーズを早速、普段の会話に活用していました(笑)
ショックのなことがあっても、「ががががーん!」と言えたら、怒ったり、落ち込まないですむかもしれません。


作者の渡辺さんもおっしゃっていましたが、この絵本の女の子のように、自分の気持ちを言葉に出して、「私はこう思ってるんだ!」と、感情を自分の外側に出せると良いですよね。
「うれしい」や「かなしい」ということばも良いけれど、ぜひ自分なりの擬音・擬態語で表現してみてください。
わたしの今の気持ちは、「わわわわーい!(絵本が発売になってうれしい!)」です! 
そしてこの絵本は、ページをめくると、少ないことばから、予想できない世界が広がっていきます。文だけでも、絵だけでも成立しない「絵本」というもののおもしろさがたくさん詰まった作品だと思います。
絵本の世界にどっぷり浸かって、楽しんでいただけたらうれしいです。

――お話、ありがとうございました。


【関連イベント】 7月から、出版記念原画展が開催!


出版を記念した原画展が、東京目白の児童書専門店「目白のえほんや にこにこ書店」にて開催されます。
ぜひお立ち寄りください!

『おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました』出版記念原画展



会期:2023年7月11日(火)~7月30日(日)11:00~20:00(水土日祝日18:00まで/月曜定休)

会場:目白のえほんや にこにこ書店
住所:〒161-0033 東京都新宿区下落合4-26-13(目白金井ビル)
電話:
03-3565-6232

ホームページ: http://www.nikoniko-books.com/


【開催中!】 絵本コンクール「第16回 絵本テキスト大賞」


ただ今「第16回 絵本テキスト大賞」にて、子どものための絵本テキスト(文章)を募集中です。
ご応募の締切は2023年6月末日まで。
詳しくは以下の募集要項をご覧ください。
https://www.doshinsha.co.jp/special/ehontext/oubo.html



原稿の送り先&問い合わせ先
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-38 中島ビル502
日本児童文学者協会『絵本テキスト大賞』宛
TEL03-3268-0691  FAX03-3268-0692
E-mail:zb@jibunkyo.or.jp

著者紹介


渡辺朋(わたなべ・とも)
福井県生まれ。童話の会「ペパン」同人。本作で第10回絵本テキスト大賞を受賞。絵本作品に、『うーんうん うんちちゃん』『ちゃーぷちゃぷ あひるちゃん』『ゆーらゆら みかづきちゃん』(いずれも文響社)がある。

高畠那生(たかばたけ・なお)
岐阜県生まれ。東京造形大学美術学科卒業。絵本作家。2003年に『ぼく・わたし』(絵本館)でデビュー。『カエルのおでかけ』(フレーベル館)で第19回日本絵本賞受賞。『うしとざん』(小学館)で第68回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、第70回小学館児童出版文化賞受賞。

おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました

童心社の絵本

おきにいりのしろいドレスをきてレストランにいきました

渡辺朋 作/高畠那生

女の子がお気に入りの白いドレスを着て、レストランに行くと、
白いドレスにケチャップが、ぽとっ……。

「ががががーん」

それを見たママは「げげげげーん!」
ママを見たパパは「ぞぞぞぞーん!」
女の子のショックは赤ちゃんにも、ウェイターさんにも、
パンにもビンにもコーンにも伝わって、
町中のみんなを巻き込んでの大騒ぎに!

\ 子どもたちが大笑い /
第10回絵本テキスト大賞受賞作。
連鎖していく擬音がおもしろい、ナンセンス絵本。

【 作者のことば /渡辺 朋】
「ママー、わたし、このドレスがほしい」
どれどれ…う、白い。
…ねえ、もしもこのお洋服を着てレストランに行くとするでしょ?
食べ物をお洋服にこぼすよね、そしたら「がーん」だよね、
「ががががーん」だよね、それを見た人は「げげげげーん」かもよ
「うふふ」じゃ、次の人はねえ……とまあこんな感じでこのお話はできました。
さあさ、皆さん、ご一緒に。
ががががーん!

  • 3歳~
  • 2023年5月30日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み