2023.04.28

<インタビュー>『おかあさんがおかあさんになった日』作者・長野ヒデ子さん

(写真・中山章太郎/渡辺裕子)

絵本『おかあさんがおかあさんになった日』は1993年の刊行から今年で30周年をむかえます。
著者の長野ヒデ子さんにお話を伺いました。
聞き手は、長野ヒデ子さんのご長女・長野麻子さん(東京成徳大学子ども学部教授)です。






――『おかあさんがおかあさんになった日』は、「あなたが生まれた日のこと……」から始まり「あなた」がどのように生まれてきたのか入院から出産までを、おかあさんがわが子へ語りかける形で描かれた絵本です。
この作品は、ヒデ子さん自身のことを描かれたものですか?


自分には子どもを産んで「おかあさん」になった、という経験があったので、おかあさんってことをテーマに絵本を描いてみたいなと思ったんです。
それで、いろいろ調べたら、子どもを産む本はたくさんあったんです。でもそうじゃなくて、おかあさんが主人公の絵本はなかったんですね。おかあさんが子どもを産むってことは、おかあさんがおかあさんとして生まれるっていうこと。そういう絵本を描きたいって思ったんです。
その視点が読者にも新しいって言われたんです。

――ーー読者からの反応はどうだったのでしょう?


この本を出したいって編集者に言ったとき、編集者が「小学校なんかで、性教育の導入部分に使えると思うので、ぜひ出版しましょう」と言ってくれたんです。でも私は、これはもっと小さな子が読んでくれるんじゃないかと思っていたんです。

絵本が出たら、愛読者カードから、字が読めないような小さな子がなんどもなんども繰り返し読んでくれていること、図書館でも、小さなお子さんを持つ家庭で、なんどもこの本を借りてくれていることを、図書館の方からも教えていただきました。
でも、それはなぜなんだろうと不思議に思うようになりました。



それで、産婦人科の先生や、心理学の先生など、いろんな先生方に聞いてみたんです。
そしたら、「子どもは生まれる話が好きなんだ」とおっしゃるんです。
「どうしてですか」と聞いたら、「自分がいかに望まれて生まれてきたのか」子どもはこころのどこかで確認したいと思っているらしいのです。この絵本は、そのことがわかるように描かれている。自分が望まれて生まれてきたことを確認することが、子どもにとって生きる力になる、そう言われたんです。




 「オギャー!オギャー!」
 「オギャー!オギャー!」
 「おめでとう!  うまれましたよ。」

って言ったら、ほっとしたような満ち足りた顔をしたんですよね。




子どもたちも、生まれてきたあかちゃんと自分を重ねて、こうやって生まれたんだなって思うんだろうね。

――自分がこうやって生まれてきたと知ることが、子どもにとってはとてもうれしいことなんですよね。

あかちゃんに「おかあさんよ、おかあさんよ」と語りかける場面が最後にありますが、出産を経験したおかあさんたちにとっても、この本は一人称でおかあさんが描かれていることもあって、自分のことのように感情移入ができるのだと思います。
この作品はその後、サンケイ児童出版文化賞、けんぶち絵本の里びばからす賞を受賞し、絵本作家・長野ヒデ子が確立した作品でもありますね。



はい、長く読み継いでいただいて、とてもうれしく思っています。
あかちゃんが生まれる絵本はいろいろあるけれど、おかあさんがおかあさんとしてあるがままに輝いている絵本を創りたい、自分のためにも、子どもためにも、あるがままのおかあさんでいてくれることが、子どもは嬉しいのですもの。

私はよく失敗もして、子ども達に迷惑かけてばかりのおかあさんだけど、やっぱりおかあさんです。
おかあさんになったのではなく、おかあさんをさせてもらっている。子どもに育ててもらっているのだ。私もおかあさんとして、あかちゃんとともに生まれたんだ! こんなおかあさんの気持ちを絵本にしたのがこの絵本です。
難しいことはわからなくてもこの気持ちが子どもにもちゃーんと伝わりわかるのですよ、不思議ですね。
だからくりかえし何度も何度も読んでくれた、あかちゃんにもありがとうといいたいです。
今、おかあさんが元気に輝いて、おかあさんであることを楽しんでほしい。そのことで子どもも元気が出るのです。

――ありがとうございました。



姉妹作に、以下の2作も刊行されています。あわせてお楽しみください。


『おとうさんがおとうさんになった日』
https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494008971
『おばあちゃんがおばあちゃんになった日』
https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494025633

*インタビューは、以下の動画でもご覧いただけます。
(このページのインタビューの文章は、動画のインタビューを元に加筆修正したものです)
おかあさんがおかあさんになった日

絵本・こどものひろば

おかあさんがおかあさんになった日

長野ヒデ子 さく

「あなたがうまれた日のこと……」
期待と不安でむかえる、はじめての出産。
あかちゃんがうまれ、はじめてお母さんになるまでの1日を描いたロングセラー絵本。
「あなたのおかげで、わたしはおかあさんになれたのよ」
あたたかく語りかけるような文と、優しい絵で、うまれてきたあかちゃんへの思いと、おかあさんになれた喜びがあたたかく伝わってきます。

小さなお子さんにもわかりやすい、語りかけるような文章です。
「わたしは、ぼくは、どうやってうまれたの?」
絵本をきっかけに、お子さんがうまれたあの日の喜びを、どうぞご家族で語り合ってください。

姉妹作に『おとうさんがおとうさんになった日』『おばあちゃんがおばあちゃんになった日』もございます。

  • 3歳~
  • 1993年7月15日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み