2022.01.13

<新刊図書>見ている景色はみんなちがうけれど、歩みよることはできる『空から見える、あの子の心』

「ハートウッドホテル」シリーズ「クローバーと魔法動物」シリーズなどを手がけた翻訳家の久保陽子さんの訳による、小学校高学年向け新刊よみものをご紹介します。今、大人になりつつある子どもたちへ届けたい一冊です。


いつも一緒だった友だちと、ふとしたきっかけで疎遠になってしまった小学6年の女の子エイプリル。
同級生たちとのランチの時間が億劫になり、その時間に年下の子の世話をする「友だちベンチ係」のボランティアをして、時間をつぶすことにします。
「友だちベンチ係」になると、気になる子がいました。校庭でいつもひとりですごしている4年の小さな男の子、ジョーイです。
ジョーイは、足を引きずりながらぐるぐる木のまわりをまわったり、校庭でねそべって目をつぶってひとりですごしたり……ふしぎな行動が目につきます。そんなジョーイに、みんな無関心なのです。



ジョーイは、自閉的な性質を持ち、自分の気持ちを言葉にすることが苦手です。加えて、物事を上空から見てしまうという、鳥瞰的な視点を持ち合わせています。そのためジョーイにとっては本を読むこともひと苦労です。文字が立体的に上から見えてしまうためです。そんなジョーイの特性を、学校の先生も気がついていません。クラスのみんなにも、バカにされたり、笑われたり……そんなジョーイの孤独な日々は、エイプリルと出会うことで、大きく動きだします。

ずっとジョーイを見守っていたエイプリルは、ジョーイの行動には、ちゃんと意味があるのではと考えます。用務員のユリシーズさんに相談して、校舎の屋上にのぼらせてもらったエイプリルは、校庭に巨大で美しいタイガーの絵がかかれてることを発見します。ジョーイが、校庭に絵をかいていたのです! それもエイプリルが気がつくずっと前から……!

やがてジョーイの才能は学校中が知ることになり、テレビや新聞でも取り上げられるようになります。そして、町中が注目するアメリカンフットボールの試合の日に、余興としてフィールドにタイガーの絵をかく仕事を頼まれるのですが……。



視覚的な特性をもつために、他人とうまくかかわることができない男の子ジョーイと、周囲の変化についていけず、自分を「はみだし者」だと感じているエイプリルとの交流が描かれている本作。
訳者の久保陽子さんは、あとがきにこのような言葉を寄せてくれました。
「この世の中の、どんなふたりが主人公であっても、しっかりと相手をむきあうことですばらしい物語がうまれていく」
ふたりの出会いから紡がれる物語を、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。


作者はアメリカオハイオ州在住の作家シェリー・ピアソルさん。
中学教師や歴史博物館学芸員を経て作家となり、デビュー作『彼方の光』(原題Trouble Don't Last/偕成社)で、優れた児童・ヤングアダルト向けの歴史小説に贈られる「スコット・オデール賞」を受賞しています。日本語で翻訳刊行される2作目となる本作は、本作のジョーイと同じような特性を持つ作者の甥をモデルに創作されました。本作のあとがきには、このモデルとなった甥の少年が地面に絵をかき寝そべっている1枚の写真が掲載され、本作がこの写真から着想を得て描かれたものであることが紹介されています。大人の方にもぜひおすすめしたい作品です。

344ページ/小学校高学年・中学生くらいから。
(シェリー・ピアソル作 久保陽子訳 平澤朋子絵)
空から見える、あの子の心

単行本図書

空から見える、あの子の心

シェリー・ピアソル 作/久保陽子 訳/平澤朋子

エイプリルは、まわりの子たちが恋やおしゃれに目ざめていく様子についていけない。同級生と距離をとりたくて、休み時間に年下の子のお世話をするボランティアをはじめた。気にかかるのは、校庭をひとりでうろうろと歩き回ったり、寝そべったりする男の子、ジョーイ。いったい何をしているのだろう?
ある日、エイプリルはジョーイが足で校庭に巨大な絵をかいていることに気がつく。渦巻き、タイガー、ピザ、雪の結晶……ジョーイのかく絵は壮大なアートだ! そんなジョーイを、そっと見守るエイプリルだが、ひょんなことから絵のことが学校中にしれわたり、ジョーイにとんでもない依頼がまいこむ……。
自閉的な性格で、自分の言葉で気持を伝えることが苦手なジョーイ。そんなジョーイを理解しようと向き合う少女エイプリル。ふたりの出会いが、学校をまきこんだおおごとに発展していく!

  • 小学5・6年~
  • 2021年12月22日初版
  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 立ち読み
ハートウッドホテル

ハートウッドホテル

ケイリー・ジョージ 作/久保陽子 翻訳/高橋和枝

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  • 小学3・4年~
  • 初版
クローバーと魔法動物

クローバーと魔法動物

主人公のクローバーは運のわるい人間の女の子。森の奥に迷いこみ、ジャムズさんがオーナーの「魔法動物紹介所」にたどりつきます。そこにいたのは、ユニコーン、火トカゲ、ドラゴン……不思議な魔法動物たちばかり! 紹介所にやってくるお客が、飼い主としてふさわしいかをみさだめる仕事をまかされたクローバーですが……オーナーの不在中、魔法動物たちをねらい、恐ろしい魔女がやってきます! クローバーの身にも危険がせまりますが……!?

「ハートウッドホテル」の著者、ケイリー・ジョージさんが描く、魔法ファンタジー。ドラゴン、火トカゲ、ユニコーンなどの魔法動物や、魔法使い、魔女、お姫様、きこりなどの魅力的なキャラクターがつぎつぎ登場します。自分のことを運がわるいと思いこんでいる主人公のクローバーが、魔法動物や魔法界の住人との関わりの中で少しずつ自分に自信をもち成長していく姿が、シリーズをとおして描かれます。
『①運のわるい女の子』『②魔法より大切なもの』『③ライバルは夏の終わりに』の全3冊です。

  • 小学3・4年~
  • 初版