2021.07.09

<インタビュー>本年度 小学校中学年の部 課題図書『カラスのいいぶん 人と生きることをえらんだ鳥』著者・嶋田泰子さん

昨年12月に刊行され、今年度の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(小学校中学年の部)に選ばれた、
自然ノンフィクション『カラスのいいぶん 人と生きることをえらんだ鳥』(嶋田 泰子 著/岡本 順 絵)

著者が家の近くにやってくるカラスたちに名前をつけ、日々の行動を追い、カラスの生態を知っていく過程を描いたノンフィクション。
同じカラスでも、1羽ずつ性格が異なること、毎日ねぐらからえさ場まで飛んでくること、食べきれないものを隠しておく「貯食」をしていること、自由時間に遊んでいることなど、私たちの身近にいながら知られていないカラスの日常が紹介されています。

著者の嶋田泰子さんにお話を伺いました。






きらわれもの? 身近にいるのにあまり注目されず、実はよく知られていないカラス


――「いきもの みーつけた」シリーズ(童心社)など、これまで、生き物をテーマにしたノンフィクション作品を数多くだされてきました。『カラスのいいぶん』では、どうしてカラスに注目したのか、きっかけがあれば教えてください。

 
きっかけは、この本でも書いているように、カラスにうんちを落とされたことです。しかもすごくおしゃれをしていたときに。その時カラスが「ふんっ!」と馬鹿にした顔をしているように見えて、こいつめ~!と。
卵を盗まれたし、カラスが散らかしたゴミ捨て場をいつも掃除しなくてはならないし、「チッ!」っていう存在ですね。
でも、ある時、卵をぬすまれたのはこっちが間抜けだったんだということに気づいたんです。カラスは前からそこにいたのに、いることを目にとめていたのに、結びつけて考えることを思いつかなかったんです。
もともと生き物は好きだったんですが、何かを深く見るというほどでもなかったのです。でも、生き物の生態に興味を持つきっかけは、「アニマ」という野生生物を取り上げた月刊誌にほんの少し関わるチャンスがあったことです。この月刊誌はもうなくなりましたが、生き物の生態に深く踏み込む記事に感動しました。アニマをきっかけに、自分の身近に暮らす生き物に目がとまるようになりました。
そんなわけで、カラスにであった時、身近にいるのにあまり注目されず、むしろ嫌われていることに気がつきました。なぜ嫌われるんだろう? と思ったのがきっかけになってカラスに目を向けるようになりました。

――身近にはいるけれど、知らないからカラスを怖く感じるのかもしれません。


カラスはちかくで見ると思いのほか大きくて存在感がありますから、知らないとこわいって思うのも当たり前ですよね。
でも、庭にくるカラスたちの様子をながめていると、自転車のハンドルにつかまって、居眠りしていたり、ぽかんと口をあけていることがありました。野生の生き物なのに、もっと緊張しなくていいの?!と(笑)。それから、私が2階で仕事をしていると、花台のプランターにつかまって、部屋の中をのぞき込んでくることもありました。まるで、野次馬のようです。机に向かって無視していると、プランターの上をうろちょろしながら、いるんだぞ、いるんだぞと、自分がいることを誇示してきたこともありました。
観察していると、そういった人間くさい一面もあって「わかるよー」と共感して、思わず笑ってしまうことがあります。

――画家の岡本順さんの絵がとても魅力的です。特にお気に入りの場面はありますか。


以前、ある仕事で絵をお願いしたことがありました。絵本に近いものでしたが、一緒に取材に来てくださって、描いてくださった絵が本当に素敵でした。そんなこともあり、実は、今回の本は、岡本先生の絵を思い浮かべながら構成を考えて絵コンテを作っていたんです。
でも今回は絵本ではなく挿絵ですから、岡本先生なんてあまりに贅沢だなと思いながら、恐る恐るお願いしたところOKをいただけて、とてもうれしかったです。
私が特に気に入っているのが表紙の絵です。このカラスのやわらかい表情が家の庭にきていたクロスケにそっくり! 
この本ではカラスを礼賛しているわけじゃなく、観察者として見つめながら、でもクロスケへの思いをもって書きました。そうした、私とクロスケとの距離感をとても上手に描いてくださっているように感じます。
カラスが口にくわえているハンガーや、背景にある人の暮らし、小さく犬小屋が描かれているところなども含めて、とても素敵な表紙に仕上げてくださいました。


カラスたちの日常
カラスは他の鳥たちとちがってよくあそぶ


――本作では、カラスたちの1日の行動を紹介する「毎日の時間わり」が登場します。カラスたちは毎日ねぐらから自分たちのなわばりへやってくるんですね。


そうなんですが、クロスケたちが、どこからやってきているのか、わかりません。調べたら、大きなねぐらがあるところは、渋谷の代々木公園とか、明治神宮だということがわかりました。うちにくる常連さんたちもその辺から来ているのかもしれないと思いました。私の家から結構離れていますが、カラスたちは10キロや20キロをあっという間に飛んでしまいます。

新宿の繁華街では、カラスは夜行性の鳥でもないのに、夜中までいるそうです。カラスは視力がいいから、夜の都会の明るさは不自由なく行動できるようです。夜明け前にもカラスを見るそうです。人間が夜中に食べ物をゴミとして出すと、それを目当てに来てしまうのでしょう。

――都会の繁華街のカラスは、生活リズムが乱れてしまってるんですね。


食べることは、生きるために一番重要なことです。生活のリズムが乱れているというより、都会に住むカラスは、ゴミが収集される前に食事を済ませなければならないので、都会のシステムに合わせないと生き残れないのです。その結果、変則的な暮らしになっているのかもしれません。

――本作では群れでトイレットペーパーをくわえてあそぶカラスたちが登場します。カラスは他の鳥とちがってよく遊ぶというのも、この本を読んではじめて知りました。


カラスが遊んでいるとしか思えないところに何度も出くわしました。遊ぶと言うことを知った上でカラスを見ていると、案外簡単に遊んでいる場面を見ることができるでしょう。
公園で見た遊びはおもしろかったです。1羽のカラスが3メートル以上あるトイレットペーパーをくわえて飛んでいると、片方のはしを別のカラスがくわえ、2羽で飛びはじめました。
トイレットペーパーが空中で切れると、まわりで木にとまって見ていた他のカラスたちが、待ってましたというように、その片方の切れはしをくわえて飛ぶというふうに、次つぎ加わっていきました。にぎやかで楽しそうでしたよ。


群れであそぶカラスたち


カラスが後ろからそっと近づいて、猫のしっぽをつついていたり、地中から出てきたセミの幼虫をつついて遊んでいるところをみかけたこともあります。
地面の小さな穴をじっとのぞき込んでセミの幼虫が動いているのを見ていました。カラスはセミの幼虫を食べるようですが、私が見ていた時は食べるのではなく、のぞいてはつついているだけでした。その後、セミは近くの木の幹に捕まって羽化しましたが、頭を突かれてへんになっていました。
カラスは猫や幼虫を襲っているのではなくて、ちょっかいを出して、その反応を楽しんでいたようです。
それに、カラス同士でも、自己アピールとしか思えないような、カッコをつけた飛び方を見せ合っていたり。これも遊びの一種でしょうね。
たいていの鳥は、一日中エサ探しで大変ですが、カラスは朝たらふく食べて貯食をするので、自由時間、つまり遊ぶ時間がたっぷりあるんです。だから、遊びの天才になるのかもしれません。


カラスは知能が高い


――カラスは人を見分けていることもこの本を読んで知りました。


カラスの脳や知能を研究しているカラス学の杉田昭栄先生の本の中に、ある実験について書かれていました。その実験では、たくさんの顔写真をつけた箱を用意して、杉田先生の顔写真の箱にだけエサをいれるようにしたところ、カラスはその顔写真の箱を確実に見分けたそうです。男や女なども見分けているそうです。
私の経験でもカラスの巣を叩き落とした人のことを記憶して、ずいぶんと長くつきまとって攻撃していましたし、我が家でも、私以外の人間には近寄りませんでした。
自分に害をなす人間かそうでないかを、よく観察して見分けているのだと思います。

――この本ではカラスの子育ても紹介されています。カラスは繁殖できるまで時間がかかる鳥なんですね。


カラスは生まれてから1ヶ月程で巣立ちをむかえます。カラスは巣立っても一人前ではありません。見かけは親と同じ大きさでも、さらに2ヶ月ほど親からエサをもらいながら、危険なことやエサの取り方など、生きるのに必要なことを教えてもらいます。この見習い期間が長いことが特徴ですね。でも、親離れできずにいつまでも親のところにやってくるのもいるといいますから、人間と同じでしょう。
卵を産みっぱなしにする生き物、たとえば、虫とか魚のような生き物は、本能だけでも生きることができるようにプログラミングされて生まれてきます。カラスは、鳥の中でも見習い期間が長いようです。ということは、たくさんのことを学んで、ようやく一人前。知恵がなければ、生き延びることができない環境に暮らしているということでしょう。

春に生まれて、翌年の春には繁殖できるようになる鳥もたくさんいますが、カラスは繁殖できるようになるまで3年もかかります。
それまでに体が成熟するだけでなく、きっと色々な経験を重ね、知恵をつけているはずですから、ぼんやりした私なんか、カラスに勝てるわけはありませんね。
カラスは人の行動をよく見ていますし、記憶力もいいので、こうしたらその結果はこうなるという因果関係をよく理解していますよ。


巣から出る「巣立ち」をむかえた後も、親からエサをもらいながら、2ヶ月ほども生きるために必要なことを学びます。



自分で観察し、調べて知っていくから、おもしろい


――この『カラスのいいぶん』では、カラスについて調べて知っていく過程をそのまま残されています。


私は学者や研究者ではないので、最初から学問としての体系がわかっていて、みなさんにあたえられる知識があって書いているのではありません。身近なものにふっと目がとまると、なぜだろうって思って自分がおもしろくて調べていく、その結果が「いきもの みーつけた」シリーズであり、この本でなんです。
生き物って調べていくと本当におもしろいんですよ。
でも、人間は生き物を簡単に「すき」「きらい」、「いる」「いらない」と、人間のものさしで決めるじゃないですか。
生き物がそれぞれの進化をたどってこんなに多様になったのに、たかだか700万年の歴史しかない人間がそんなふうに決めていいものかって、思うんですよね。
そんな物差しを捨てると、こんなに身近に、たくさんの生き物がいることに気づいて、観察し、調べるとどんどんおもしろさが見えてきました。すると、ねえ、ねえ、知ってる? すごいよって伝えたくなるんです。その結果が『カラスのいいぶん』です。

――「今までカラスについて、よく知らないのに嫌っていた」「この本を読んでカラスが好きになった」といった感想を多くいただいています。


それはうれしいですね。
私の身近でも、「カラスにおそわれた」なんて話を聞くことがありますが、カラスが人をおそうのは、子育て中の巣に近付いたり、巣から落ちたヒナに人が近づいたときなど、本当に必死なときだけです。フンを人に落としたのは偶然かわざとなのかわかりません。カラスに聞いても答えがかえってくるわけではないのですが、フンを落とすと、人間がおおさわぎするので、カラスはそれをおもしろがっているのかもしれないと、今では思っています。
私がカラスの付き合いの中で一番気をつけていたのは、餌付(えづ)けをしてはいけないと言うことです。野生のカラスを餌付けすると、自分でエサをとらなくなってしまいます。カラスの本来の生き方そのものに、手出しをすることになってしまいます。
でも、もっとそばでクロスケの姿を観察したいとも思っていました。どんなに仲良くなっても、何もなしではカラスのクロスケは近付いてくれません。プレゼントは、ほんの1cmほどのビーフジャーキー、これなら餌付けにならないと思いました。
最初、ビーフジャーキーを乗せた左手を塀の上に置きました。クロスケが来るのはいつも右からです。ビーフジャーキーを取りたければ、私の目の前を通らなければなりません。ところが、どうしても用心して近づきません。やむなく右手に変えて、そっぽを向いて私の体から少し離れたところに手を置きました。すると、ようやく近づいてきて、手からビーフジャーキーを食べました。食べたいのをずいぶん我慢していたようで、ビーフジャーキーのお礼にたっぷりのよだれを手に残していきました。
人間も、食べたいのを我慢していたら、よだれが出そうになります。赤ちゃんなら、間違いなくよだれをたらします。
カラスも食べたいのをがまんすると、こんなによだれをたらすんだ。よっぽど食べたかったんだねえと、共感しました。
カラスを、こいつ面白いかもしれないと思って見ると、人間臭くて本当におもしろいことがたくさんあって、飽きないです。


手から食べ物をとろうとするクロスケ。右側からしか近づいてこない。



カラスを観察するときに気をつけるべきこと


――この本を読んで、子どもたちにもカラスや身近な生き物をぜひ観察してみてほしいと思いますが、特定のカラスを見分けられるものなんでしょうか。


見てすぐ違いがわかるというわけにはいきませんが、30分も見ていれば、わかってくると思います。体の大きさや羽のつや、色など、カラスはよく見ると見た目にも結構個性があります。
性格もあきらかにそれぞれちがっていて、人には絶対に近づかず、近づくとすぐに逃げてしまうカラスもいれば、クロスケみたいにやじうま精神が旺盛で人を怖がらないカラスもいます。しばらく観察しているとそれぞれのカラスの個性が見えてきます。
カラスは大きくて見つけやすいですが、わたしたちの身の回りには、目を向ければ、カラスのほかにもたくさんの生き物がいます。ぜひそんな身近な生き物たちにも興味をもって観察してみてほしいですね。なぜそんなことをするの?  なぜそこにいるの? と、なぜがいっぱい見つかるし、観察したり調べて答えが見つかった時は、バンザイをしたくなるほど嬉しいですよ。

――カラスを観察するとき、気をつけた方がいいことはあるでしょうか。


ヒナが巣から落ちていたら、絶対に近づいてはいけないです。
巣立ったばかりのヒナはまだうまく飛べず、巣から落ちてしまうことがあります。
ヒナにふれようとするものは親鳥から見れば敵ですから、親鳥の敵にならないことです。
そもそも野鳥なので、ヒナが落ちていてかわいそうに思っても人間が手を加えてはいけないんです。
親鳥からしか学べないことがたくさんあって、人間が拾ってカゴで飼ってしまったらもう野生にはもどれません。だから、野鳥は飼ってはいけないのです。 

――最後に読者の子どもたちに向けてメッセージをお願いします。


カラスを入門にして、ぜひ他の身近にいる生き物たちを観察してみてほしいですね。
そうすると、人間のものさしだけで、生き物を「いる」「いらない」「すき」「きらい」と判断することはおかしいと気がつくと思うんです。
どれもこれも、多様な生態系の中で大きな役割を果たしていて、人間もふくめて、何ひとついなくていい生き物はいないんです。
私もカラスを観察して、カラスから教えてもらったことがいっぱいあります。自分以外はみんな先生ですね。
みなさんも、いろんな生き物をよく観察して、たくさんのことを教えてもらってほしいです。

――今日はお話、ありがとうございました。




嶋田さんが持参してくださった、表情が本物のクロスケそっくりだというぬいぐるみのクロスケ。






嶋田泰子プロフィール:(しまだやすこ)生物・環境などをテーマとした出版物の企画・編集・執筆に携わる。編集した作品に『森林の研究・ブナの森は緑のダム』(あかね書房)「地球ふしぎはっけんシリーズ」(ポプラ社)など。著作に『車いすからこんにちは』(あかね書房)「いっしょがいいな 障がいの絵本」シリーズ「水ってなんだろう?」シリーズ『さかなだって ねむるんです』『やさいの花』(以上ポプラ社)「いきもの みーつけた」シリーズ(童心社)などがある。
カラスのいいぶん

ノンフィクション・生きものって、おもしろい!

カラスのいいぶん

嶋田 泰子 著/岡本 順

身近な鳥、カラス。ごみをちらかす、黒くて不吉、大きくてこわい……などわるいイメージばかり。でも、本当はどんな鳥なのでしょう? もともとは森でくらしていたカラス。人のだすごみにひきよせられて街へとおりてきました。しかし、街のくらしも楽ではありません。なわばりあらそいのきびしさ、子育ての苦労など、いがいと知られていないカラスの生活をほりさげます! カラスを愛する著者がユーモラスに語るノンフィクション。

  • 小学3・4年~
  • 2020年12月15日初版
  • 定価1,320円 (本体1,200円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫僅少
いきもの みーつけた

いきもの みーつけた

食べるため、食べられないため、生き物たちは必死に知恵比べ、かくれんぼの達人です。いろいろな生き物の擬態をテーマにした新シリーズ。食物連鎖の全体像、命は皆つながっているのだということを伝えます。

  • 4・5歳~
  • 2017年9月7日初版
  • 揃定価8,030円 (本体7,300円+税10%)