2019.09.09

インタビュー『たたたん たたたん』内田麟太郎さん&西村繁男さん 〈後編〉

(2019.7.12 童心社にて)


新刊『たたたん たたたん』の刊行を記念し、内田麟太郎さんと西村繁男さんにお話を伺いました。
どうぞこちらのインタビュー前編とあわせてお読み下さい。


▶インタビュー『たたたん たたたん』内田麟太郎さん&西村繁男さん 〈前編〉

『がたごとがたごと』初版1999年4月25日


——シリーズ第1作『がたごとがたごと』はどのようにしてはじまった作品でしょう。


西村:内田さんが絵本などたくさん出しはじめた頃、内田さんとは昔から知り合いだったけれど、一緒に仕事をすることもないままでした。木葉井悦子さんの偲ぶ会のあと、帰り道が一緒になったんです。その時に僕から内田さんに原稿をお願いしたのがはじまりです。
僕はお酒飲んでいたし、普段だとそんなこというはずのない僕が原稿を頼んだのは、酒が言わせたんじゃないかって内田さんからは言われるんですけどね(笑)

内田:西村さんとは、20代のころからの友だちでした。
でも距離が近すぎると、かえって「一緒に絵本を作ろう」とは言えないものです。
その時はお酒を飲んで二人ともかなり酔っ払っていました。
帰りの中央線の中で西村さんが「いっしょに絵本つくろうよー」と言ったのです。
「ナンセンスでいいのー」なんて私は答えて。それが『がたごと がたごと』のはじまりです。
西村さんの絵本はずっと見ていたから、西村繁男の絵の世界が私の中に既にあって、その世界の人たちを動かしながら、ちょっと今までの西村さんの絵本と違うものを作りたいということでやった訳です。

長新太さんと一緒に絵本の仕事をしたとき、長さんに「童話の文体で書かないで、絵本の文体で書いください」と言われました。『童話の文章の書き方』っていう本はいっぱい売っているけど、『絵本の文章の書き方』って本は売ってないんですよ。どうしたらいいのかわからずとても困りました。でも絵本は映像文化だから、シナリオとか脚本をいっぱい読めば、何かヒントがあるんじゃないかなと思っていっぱい読んだんです。
そうしたらシナリオや脚本には「ト書き」があるんですね。
これを使えば絵本の文章が書けるんじゃないかなって思ったんです。


『がたごと がたごと』は、この「ト書き」を使って書きました。
たとえばこのページは「遠景に北斎『富嶽三十六景』の赤富士、近景に広重『東海道五十三次』のとろろ茶屋の場面、そしてその間を走る電車」というふうに。これは西村さんの『絵で見る 日本の歴史』(福音館書店)のオマージュです。
西村さんと作ると決めてはじめた以上、西村さんでなければ描けないものにしたいと思いました。

西村:内田さんから原稿が送られてきた時、「西村さんの今までの絵本を全部入れておきました」とあって驚きました。
だから、例えば『がたごとがたごと』の列車は『やこうれっしゃ』(福音館書店)からきているんです。
『がたごとがたごと』の表紙を見た人は、また『やこうれっしゃ』と同じような絵本かなと思いますが、そう思わせて全然違うという。
他にも、誰にもわからないかもしれませんが、その頃描いていた「母の友」(福音館書店)の表紙の動物や『ぶらぶらばあさん』(小学館)の絵も、実はこの絵本には入れています。

——はじめて内田さんの原稿をみた時はどんな印象だったでしょう?


西村:おもしろかったですよ。その時は出版社も決まってなかったし、他の仕事をやっていたから、しまっておいたんです。それでちょっと時間ができた時、出してきて作り出したんです。この時は内田さんに、電車が同じ駅にもどってきたのか、どう扱ったらいいかわからなくて質問したんです。そしたら内田さんに「自由です。まかせます。」って言われたんです。


内田:『がたごとがたごと』は20年も前の絵本で、ましてはじいさんとじいさんが作っているんだから古い本だと思うんですが、それを今の子がおもしろがって読んでくれるのが、おもしろいなと思うんです。この本には、浮世絵の富士山だったり、波だったり、お約束ごとのような絵柄が出てきますよね。最後には「チャンバラ駅」で忍者も出てきます。古いものや古い事が、子どもにとっては不思議なんでしょうね。


『おばけでんしゃ』初版2007年6月25日

——つづく第2作『おばけでんしゃ』はどのようにしてはじまった作品でしょう。


内田:売れたらから次を出すっていうだけの話で(笑)
やっぱり『がたごとがたごと』が売れなかったら出なかったと思いますよ。
それで次はと考えると、お化けとか虫とかで変な世界はやれないかなってなりますよね。お化けってのはいろいろ遊べるし、化け物屋敷とか、縁日で小屋建ての芝居をみている世代だから。
そういうものを背景に、今の気持ちを重ねながら展開していったんです。


——列車やお化けたちの姿がとても独創的でおもしろいです。

西村:どういう電車を走らそうかっていうことからまず入るんです。
それからト書きで書いていることを入れながら背景を考えます。そこでどんなお化けたちを登場させようかと考える時、昔の絵本とか絵巻物だとか、そういうものも一応見ますが、すぐやらないで、あとはしばらく遊ばせておくんです。
例えば『おばけでんしゃ』にでてくる、この馬のお化けも、頭が馬だったり牛だったりする姿で昔の資料に出てくるものです。でもそのままじゃいけないしどうしようか、と遊ばせておきます。そしてある時に、ふんどししているから、ふんどしが長くて走ってるとおもしろかなってふと思いつくわけです。次はじゃあそれをどこに入れて行こうかと膨らませていくわけです。

——この本では電車が春夏秋冬と季節をめぐりながら進んでいきます。


西村:内田さんの原稿には「春になりました」なんてことは書いてないんですが、ト書きを読み込んで描いて行くと、これは季節をめぐっているなとわかってくるんです。


西村:この場面では、ずっと電車を横から見る構図が続いていたので、中から見る構図に変えています。

内田:こういうのは絵本の見せ場ですよね。雰囲気ががらっと変わります。

西村:他の本もそうなんですが、このお話は終わり方が見事です。
『がたごとがたごと』では、人間の姿だったお客たちが、山につくと動物の姿になり、チャンバラ駅では武士や忍者、妖怪の姿になります。
『おばけでんしゃ』では、最後お化けたちが人間の姿に化けて、人間の世界の駅で降りてきます。
『おばけでんしゃ』はちょうど『がたごとがたごと』の逆をいっている訳です。


——内田さんは、お話の終わり方をどうやって考えているんでしょうか。


内田:自分なりに考えたんですが、例えば富士五湖は、それぞれ場所は少しはなれているけれど、どこかで水はつながっていて、水を入れると同じ高さになる。
お話でも、物語のとその終わりは、それぞれ場所は違うけれど、どこかつながった形で終える。そしてどうふわっと着地できるかなって感じですね。
最初、長さんに「終わりに余韻があるようにしましょうね」って言われました。最初よく飲み込めなかったのですが、何冊か作って行くうちに、そんな風に考えるようになりましたね。



『むしむしでんしゃ』初版2009年6月25日


内田:この『むしむしでんしゃ』では、二人とも長新太さんのファンで、長さんのオマージュのページを作りました。ここは、こういう風にしたいからと、文研出版の方に話したら「いいですね、宣伝になるからやって」と言ってもらえて、長さんの奥さんにも手紙書いて許可して頂いたんです。

西村:長さんが亡くなったのが、2005年6月25日ですが、『むしむしでんしゃ』の初版刊行日が偶然同じ、長さんのご命日の6月25日でした。

——内田さんからのテキストが来た時、西村さんは驚きましたか?


西村:いや、内田さんから原稿が来るときは、驚くというかまたおもしろいことやってるなって思うんですよね。

内田:長さんのページについては二人で話したよ。

西村:そうだっけ? 僕はテキストについては基本的に内田さんにまかせてるから。(笑)

——この本も列車の形がおもしろいですね。


西村:この本については、一番最初にもらったタイトルが『いもむしでんしゃ』だったんです。


——この本では、最後に列車が蝶になりますね。


西村:そう。電車が蝶になってはばたくという、この本も終わり方が見事です。
この本では、「よわむし駅」「さとやま駅」「はなばたけ駅」といった駅を電車が進んでいくのですが、編集者から、次の展開がわからないよう、それぞれ駅では、次の駅の名前は読めない方がいいんじゃないかって言われたんです。
僕もそうかなと思って、例えば魚をはねさせてたり、手前に何か物を描いたりして、絵本の後半では次の駅の名前を読めないようにしてたんです。それで「はなばたけ」駅は、「な」の字を隠して描いていたんです。

出来上がった本をみていると「はなばたけ」の「な」を隠して読むと「はばたけ」と読めることに気がつきました。全くの偶然なんですが「はなばたけ」から「はばたけ」になって、最後電車がはばたいたんです。(笑)

——「ののたん ののたん」と、この電車の走る音や、走る姿がかわいいですね。


内田:おはなしがぼんやりうかんでいても、その「ののたん ののたん」だったり「とろとっと」だったり、音や言葉が見つからないと、お話は進まないんです。
その音がみつかると、その音に自分をのせて進んで行けます。
「たたたん たたたん」という音に自分が納得して、この音いいな、この音で走ればいいなとなるわけですよ。
トロッコというのはあんまりスピードがなく、トロいというのはゆっくりという意味だから、「とろとっと とろとっと」だとトロッコの速さにちょうど合う響きで物語が進んで行きます。ぽこっぽこっとお話は浮かぶんだけど、この文章をどの音で走らせたら一番いいんだろうとというのが大切で、それが見つかるとだいたい話は進んでいけます。

——絵本の文章も、音の響きを元に、詩のように作られているんですね。


内田さん:音と意味が一緒に入ってくるくせがついているんです。
例えばカエルはゲロゲロゲロっていうじゃないですか。
普通は鳴き声だけなんだけど、カエルは何を吐き出してるんだろうって思うんですよね。
悲しみか、恨みか、忘れがたい何かを吐き出してるんだなって思うんです。
そういう風に意味と響きが一緒に入ってくるくせがついているんです。

新幹線の速さは「たたたん たたたん」じゃいけないけれど、西村さんとやるこの世界は「たたたん たたたん」でいいんじゃないかなと思うんです。
言葉が短いから、響きにのっけてもらうしかないんです。
基本的にはこうなりますよって私は言うだけで、絵本の画面は西村さんが作ってくれる世界だから、私が考えるのは、走って行ける言葉をみつけることなんです。

——「ののたん ののたん」と走りながら、列車は生き物らしくスイカも食べています。


西村:これも特に内田さんからは何もなかったところですが、いもむしは物を食べているイメージがあったから、駅にとまる度に何かを食べさせるようにしたんです。

内田:画家だけに苦労させてるという。昔は手抜き作家と言われたんですが、最近では省エネ作家と呼ばれています。

西村:いやいや、内田さんの場合には全然「させてる」って感じはしないんだよね。導き出す何かをもってるから、ああしようこうしようと、自分で考えていくことを楽しんでいます。やっぱり相性があると思うんだよね。他の人だと苦労することもありますよ。

——お二人の信頼関係があるんですね。


内田:もうかったって感じだよね(笑)西村さんからの絵が出来てくると、こういう風にきたのかっていう楽しさ、おもしろさがありますね。
最初は二人でこんなに出すと思わなかったじゃないですか。他の出版社でも、西村さんとの作品はありますが、このシリーズが二人の初めてのコンビ作です。

——最後に、お二人にとってのこのシリーズはどんなシリーズでしょうか。


内田:『がたごとがたごと』は私にとっても画期的な絵本でしたね。
それまでは物語を書いていたんです。
この絵本は物語が全くない訳ではないけれど、こういう絵本の作り方ができて、それが成功したということで、一つ違う舞台に立ったような気がしました。

それまでは『さかさまライオン』や『うみのしっぽ』など、物語を書いていたんですが、物語というよりもおもしろい絵本の作り方というか、一つステージがアップしたというのもおかしいけれど、変わった気がしました。
最初テキストを渡したときは、そういった結果がくるとまでは思っていませんよね。絵を見なきゃわからないことだから。漠然と想像してて、ラフ見せてもらって、びっくりしましたね。ああ、こんな絵になるんだと。
私たち二人だけじゃなくて、日本の絵本を作っている人たちにとっても、あっと思う絵本ができたんじゃないかと思いますね。

西村:僕の場合は、文章を作るのが苦手だったから、実際にあるものを取材して、『おふろやさん』とか『やこうれっしゃ』(いずれも福音館書店)とか、観察してそれを絵本にしてきたんです。その後『絵で見る 日本の歴史』とか『ぼくらの地図旅行』とか『広島の原爆』(いずれも福音館書店)を作りました。
その後、自分の中で、ずっと物語絵本を作ってみたいと思っていたんです。『ぶらぶらばあさん』(小学館)の原稿が入り、自分は文章や物語を作るのは苦手だけれど、テキストがあって、イメージの中で遊ぶやり方ならおもしろいものができるなと、ちょうどやりはじめた頃でした。
『がたごとがたごと』は、ちょうどその時に内田さんから来た原稿だったんです。
変わりたいと思っていた僕に、待ってましたという作品だったんです。
そういう意味では、僕の中でも、別の所に行けた作品でした。

内田:それまでの『さかさまライオン』や『こいしがどしーん』とか『うみのしっぽ』は誇張法だったんですよ。ちいさな石がころがって、それが最後には地球を動かすとか、雪がふって寒くて山がなわとびするとか、誇張法のやり方で何冊か絵本を作って、違う方法へいかなきゃいけないと思っていたんです。でもそれをどうするのかは見えていなかった。そこへ『がたごとがたごと』が出て、誇張法じゃなくてもナンセンス絵本はできるんだなとわかりました。そういう風に、自分の世界がひとつ広がったという感じがしましたね。

——絵と文章が重ならず、それぞれの魅力があわさって世界を作り出しているというのが、一つの目指すべき絵本の姿だと思いますが、このシリーズはまさにそうで、何度も絵を読み返して楽しめる画期的なシリーズです。


内田:西村さんだったからできたんじゃないかな。
西村さんの絵本の世界が私の中である程度入っていたから、そこで遊んでみようかなとなった訳で、他の絵描きさんに頼まれても、ナンセンス絵本への切り替えが自分の中で起こったとは思えないですよね。気心がわかっているから、こういうの書いちゃうと西村さん困るかなと、自分をセーブする所がないから、書いていける所がありますよね。
やっぱり絵と文がうまく出会えたんじゃないか、そう思いますね。

——今日はお話、ありがとうございました。


たたたん たたたん

絵本・こどものひろば

たたたん たたたん

内田麟太郎 文/西村繁男

たたたんたたたん。うみのそこを、列車が走ります。浦島太郎ものっています。たたたんたたたん、海に宇宙にそして最後は……あらあらどこへいくのでしょう。軽やかに時空を越えて、ダイナミックに列車が走ります。

ロングセラー絵本『がたごとがたごと』の続編。あの列車が、20年ぶりに動き出します。

  • 3歳~
  • 2019年9月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
むしむしでんしゃ

絵本・こどものひろば

むしむしでんしゃ

内田麟太郎 文/西村繁男

まもなくいもむし電車は発車いたします。ののたんののたん、ののたんののたん。おいけ駅でおりたのは、カエルにタガメにゲンゴロウ。昆虫はもちろん、弱虫泣き虫なんでも乗ってる、ミラクルユーモアファンタジー!

  • 3歳~
  • 2009年6月25日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
おばけでんしゃ

絵本・こどものひろば

おばけでんしゃ

内田麟太郎 文/西村繁男

おばけ電車はおばけを乗せて走ります。妖怪駅を出発!火の玉とびかう暗闇駅、雪女のいる寒々駅。今度はどんなおばけに出会えるでしょう。1場面目から画面に釘付け! わくわくどきどき、ページをめくる楽しさいっぱい!

  • 3歳~
  • 2007年6月25日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫僅少
がたごと がたごと

絵本・こどものひろば

がたごと がたごと

内田麟太郎 文/西村繁男

「おきゃくがのります ぞろぞろ ぞろぞろ」と、たくさんの人が電車にのりこみます。電車は「がたごと がたごと」と市街地をぬけ、田園地帯をぬけ、山奥へとすすみ、到着したのは「おくやま駅」。それぞれ動物に変身した乗客たちが電車から降りていきます。こんどの電車も、トンネルを「がたごと がたごと」と進み、電車はしだいに幻想的な異世界へ。ついた「よつつじ駅」では、それぞれ妖怪に変身した乗客たちが降りていきます。つぎの電車は、「がたごと がたごと」となんと時代をさかのぼり…。思いもしない展開にびっくり。ページをめくる楽しさいっぱいです。
「絵を読む」楽しみがつまった人気の絵本。読者の方から、お客さんが次の駅で何に変身したか、さがして楽しんでいますというご感想をたくさん頂いています。同じコンビで、姉妹編『おばけでんしゃ』『むしむしでんしゃ』『たたたん たたたん』が刊行されています。

  • 3歳~
  • 1999年4月25日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み