“戦争を新しく体験する”意味


「私たちのアジア・太平洋戦争」の刊行作業は、 戦争の歴史と戦争体験の意味を
新しくとらえ直すことでもありました。今なぜ、このことが必要なのか、三人の編集委員のそれぞれの立場での考えを紹介します。





古田足日(ふるた たるひ)
1927年、愛媛生まれ。児童文学作家。

 「父が語る太平洋戦争」(1969年・童心社刊)を、 今の時代に合わせて新しくつくりなおそうと思ったとき、 被害者意識が強すぎたということ、「父が語る」というとらえ方の問題がありました。
 また、 この本は「アジア・太平洋戦争」としてとらえようとしています。 それは、地域としてアジアを含むと同時に、時期の問題としても、 はっきりと、アジアへの侵略戦争を開始した1931年の満州事変から考えていくということです。
 多くの国民が戦争に加担してきた。 戦災などの戦争体験以前にある加担の心情形成も、 戦争体験としてとらえたい。 この本を読んだ人たちが、 戦争体験者の体験を 「新しく体験する」 ことだと言えるかもしれません。 このように未来へとつながっていく本をつくりたいと思っているのです。




米田佐代子(よねだ さよこ)
1934年、東京生まれ。女性史研究家。

 私は女性史をやっていますので、女性の戦争体験をどうとらえるのかということが、この本の中でひとつの柱になるのではないかと思っています。
 女性も知らない間に戦争に加担した。その時代にそうしかできなかった女性の状態から、今それを言えるようになってきているその歴史過程をはっきりさせるべきです。
 戦争体験というものは、直接の戦場体験はもちろんひとつの核ですけれども、それだけではなくて、戦場にいなかったものたちの戦争体験、同時に戦争というものを知らなかった者の体験も含んできます。




西山利佳(にしやま りか)
1961年、宮崎生まれ。児童文学評論家。

 この本は子どもたちに向けてつくる本ですから、戦争を体験している方と今の子どもたちとの世代間の隔絶を、どう受けとめ、伝えていけばいいのかということを考えていくことが特に必要です。
 戦争体験を持つ者と持たざる者の断絶のようなものに対してこだわることが、私の役割のひとつでもあるかと思っています。
 体験というものが、ある個人の、特別な固定して動かないもの、ではないんだということがわかってきました。体験が個人のかけがえのないものでありながら、普遍的なものになりえるのだということを実感できると思います。

「母のひろば」451号(2001年12月)より 

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