刊行の言葉



 
 私たちの国日本は、 今から七十年あまり前の「満州事変」に始まるアジア・太平洋戦争をおこし、中国をはじめアジアの国々とそこで暮らす人びとに大きな被害を与えました。また、日本の国民も大きな被害を受けました。
 この戦争を体験して、日本国民は戦争の残酷さ、平和の尊さを知りました。その気持ちを現わしたのが「戦争放棄」を決めた日本国憲法九条です。日本国民は新しい道を選んだのです。
 ですが、今日本が選んだ「平和の道」がおびやかされようとしています。日本を「戦争ができる国」にしようとする動きが積み重ねられています。 戦争中に少年時代を送ったぼくには今の時代があの戦争時代の始まりのころと似通った感じがしてなりません。
 そして、 そういう時代の感じを肌で知っている戦争の直接体験者は、だんだん少なくなってきました。 しかし、今ならまだ間に合います。この今だからこそ、日本国民の平和への願いの出発点となったアジア・太平洋戦争のことをあらためてふりかえり、 少年少女のみなさんに語りたいと考えました。それは戦後の日本国民にとって平和への出発点は何だったのかを語ることにもなるでしょう。
 ただ今まで、「戦争体験」というと、 空襲の体験、学童疎開の体験など、戦争中に体験したことが語られてきました。 しかし、 この本では戦争中のある日、 ある時の体験だけでなく、その体験の意味を問い返し、現在に至るまで生きてきた体験と、両方をあわせて「体験」と考えました。
 また当然体験だけでは語れないものもあります。例をあげると、「日本軍はシンガポール・マレーシアでなにをしたか」という報告です。 こうした、個人の体験とは違う大きなとらえかたをした重要な報告がいくつもこの本の中にはいっています。
 こんなふうに考えたので、「戦争体験」の始まりの時期は、「アジア・太平洋戦争」が始まる1931年ごろですが、 終わりの時期は戦争が終わった1945年で区切るのではなく、21世紀に入った現在まで、とします。
 敗戦から現在に到るまで平和への運動は絶え間なく続けられてきました。その運動は日本の平和だけでなく世界の平和を願う運動ともなっています。こうしたこともこの本におさめることにしました。
 この本がみなさんの心にとどいて、戦争のことを知り、感じ、考え、平和の思想を自分がつくりあげていく材料、きっかけ、助けになることを願っています。


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