書評

お金がなぜ大事なのかについて考えるきっかけづくりに　母のひろば719号（2024年４月15日発行）

　昨今、新NISAであるとか「貯蓄から投資へ」といった用語を耳にすることが増えたのではないでしょうか。子どもたちが学校で学ぶ学習内容でも、お金や金融に関わる内容が増えました。
　かつてはお金について口にすることは恥ずかしい雰囲気の時代もありましたが、無駄遣いをしないようお小遣い帳へ記帳する経験を多くの子どもたちがしていました。家庭科の学習内容に家計簿記帳が入っていた時代もあり、昭和の高度経済成長期には政府による貯蓄増強運動もありました。一方、今日ではキャッシュレス化が急進展し、現金を見ることなく「見えないお金」を管理しなくてはならない時代です。マーケティングの進展とともに身の回りには欲しいものが溢れているなか、「入るを量りて出ずるを制す」という当たり前のことも、今の子どもたちにとっては難しいかもしれません。
　私たちの生活の多くは、時間とお金の使い方で成り立っていますが、一人あたりに与えられている時間は一日24時間、つまり世界中共通で誰にも平等に与えられています。一方、お金については国によって物価も違いますし、人によっても差があります。よく「お金は大事」と言われますが、自分が豊かな生活を過ごすためだけでなく社会全体が豊かになるためにも重要なものです。社会全体のウェルビーイングなくして個人のウェルビーイングも成立しないからです。まずは自身自身が生きるために大切なお金の使い方について考えることからスタートして、そこからさらに社会経済全体へと視野を広げ、個人と社会のウェルビーイングを探究する力をつけてほしい。そのような願いをもって本書を監修しました。
　第１巻『買い物の基本を知ろう』では、普通に生活するだけでお金がかかる＝お金を意識することからスタートし、お金を得ること＝将来どのような仕事に就くかについて意識を向かせ、黒字と赤字が基本であることを抑えたうえで、第５巻までの全体を俯瞰した案内的な位置づけになっています。そのうえで、第２巻『商品とお店を上手に選ぼう』、第３巻『お金についてくわしく知ろう』、第４巻『エシカルな消費をしよう』、第５巻『お金のトラブルをなくそう』というように、それぞれ詳しい内容が続きます。
　お金についてわかりやすく書かれた本は散見されますが、「消費者としての子ども目線」でわかりやすく、なおかつこれだけ広範囲に扱った類書はなかったのではないでしょうか。大人にとっても、お金の使い方についてあらためて考えるきっかけになるものと自負いたします。一人でも多くの方に読んでいただければ幸いです。

松葉口玲子／横浜国立大学教授