単行本図書

山の神の使い

最上一平 作/マメイケダ

山形にすむぼくのじいちゃんは、ちょっと不思議な人で、なんでも自分でつくってしまえる。大河という名前をつけてくれたのもじいちゃんだ。5月の休みに、ぼくととうさんは、じいちゃんちにいくことになった。山あいにある田んぼの田植えを手伝うのだ。にゅるっと弾力のある田んぼの泥、月山の残雪にあらわられる田植え馬、若葉の緑のにおい。じいちゃんが教えてくれることを、ぼくは身体いっぱいで見て聞いて感じたーー。

春、夏、秋と、祖父のすむ山形を訪れるぼくの目を通して、自然の雄大さと、家族のいとなみが、みずみずしく描きだされる。

  • 定価1,870円 (本体1,700円+税10%)
  • 初版:2025年8月29日
  • 判型:A5判/サイズ:21.6×15.1cm
  • 頁数:111頁
  • 小学3・4年~
  • ISBN:978-4-494-02091-1

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内容説明

山形にすむぼくのじいちゃんは、ちょっと不思議な人で、なんでも自分でつくってしまえる。大河という名前をつけてくれたのもじいちゃんだ。5月の休みに、ぼくととうさんは、じいちゃんちにいくことになった。山あいにある田んぼの田植えを手伝うのだ。にゅるっと弾力のある田んぼの泥、月山の残雪にあらわられる田植え馬、若葉の緑のにおい。じいちゃんが教えてくれることを、ぼくは身体いっぱいで見て聞いて感じたーー。

春、夏、秋と、祖父のすむ山形を訪れるぼくの目を通して、自然の雄大さと、家族のいとなみが、みずみずしく描きだされる。

書評

じいちゃんの小さな贈り物 2025年10月15日発行
 父は十数年前より緑内障という目の病気になり、次第に視力を失いました。玄関に立って「今日は霧がでているのか」とよくいったものですが、そのころから認知症も患い徐々に進行してきました。
 老々介護で母はがんばっていましたが、今年の春に背骨の圧迫骨折でしばらく入院をよぎなくされ、とうとう父は施設のお世話になることになりました。
 視力が悪くなり、ひとりで歩くのもおぼつかなくなったころだったでしょうか、私は父の話を書いてみたいと思うようになりました。
『山の神の使い』は、書き始めた時「ぼくのじいちゃん」というタイトルでした。父のことを孫の視点で書けば、どんな物語になるだろうか……。
孫の名まえは大たい河が というのですが、この名をつけてくれたのはじいちゃんという設定です。じいちゃんは、山形の山の中に暮らしていて、これまで百姓をしてきました。大河は関東に住んでいます。
 目が悪くなると、じいちゃんの息子三兄弟が農作業を手伝いに来ます。大河はその手伝いに便乗するわけです。
 大河は田植えと稲刈りに加え、夏休みはひとりで山形を体験します。私は大河にじいちゃんと出会って(小さいころから山形に来てはいたのでしょうが)じいちゃんを感じとり、好きになってほしいなあと思いました。
 じいちゃんから感じたものが今はわからなくとも、心のどこかに小さな贈り物のように残っていてほしいな、というのが私の願いでした。その贈り物はいつか、これから生きていく大河の、ちっぽけでもささやかでも糧になればよいと思いました。
 両親が老いて病になる。それは自然の摂理でいかんともしがたいことでしょう。そういう悲しみがあることを、私も気がつきました。ただ『山の神の使い』では、その悲しみをほんのちょっぴりしか書きませんでした。
 父は目が見えなくなってしまいましたが、今まで培ってきた人生をひっさげて暮らしてきました。大河はじいちゃんの美しさや、生きることのおもしろさ、不思議さを感じてくれたのではないかと、私は信じています。読者にもそれが少しでも伝われば、どんなにいいでしょう。
 大河のところにもいつか、悲しみはやってくるのでしょうが、じいちゃんがくれた小さな贈り物を胸の中に持っていれば、悲しみは乗り越えていけるのではないかと思っています。
「大河よ、そうであれ!」と、願いたいものです。
最上一平/児童文学作家

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