単行本図書

思いがけず、朝子ちゃん

高村 有 作/せきやよい

人間関係のストレスで会社を辞めた深山朝子は、祖母の花屋「ミヤマ花壇」を手伝うことに。そんな朝子と、5人の小・中学生との思いがけない出会いが織りなす、5つの物語。高村有、デビュー作。

・高橋美月ーー私服で登校するカジュアルデーに、迷ったあげく制服で登校した美月。ダサいと思われたくないし、TPOも大事だし……いったい何を着ればいいの!? 
・川田みちるーーみちるの最近の悩みは自分の一人称。自分のことを「みちる」と呼ぶのは子どもっぽいと言われたけれど、「わたし」もしっくりこないのだ。
・遠藤莉子ーー「かわいそう」と言われるたびに思う。父親がいなくても、わたしはかわいそうな存在じゃない。そんな莉子は、週に1回やってくる謎の男性、オーノくんのことが気にかかり……
・小林ふみかーー親が再婚し、友だちも彼氏ができた。みんなそれぞれにパートナーがいるけど、わたしはひとりぼっち。まわりの人間関係が変わりゆくなか、ふみかは孤独と向き合う。
・森脇晴臣ーー廃業した旅館が廃墟にならないように、定期的にメンテナンスをしてきた晴臣。辛いとき、ここでの時間が自分の心のメンテナンスにもなっていたが、旅館の改装が決まり……

  • 定価1,650円 (本体1,500円+税10%)
  • 初版:2025年4月1日
  • 判型:四六判/サイズ:19.4×13.4cm
  • 頁数:247頁
  • 小学5・6年~
  • ISBN:978-4-494-02087-4
  • NDC:913

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内容説明

人間関係のストレスで会社を辞めた深山朝子は、祖母の花屋「ミヤマ花壇」を手伝うことに。そんな朝子と、5人の小・中学生との思いがけない出会いが織りなす、5つの物語。高村有、デビュー作。

・高橋美月ーー私服で登校するカジュアルデーに、迷ったあげく制服で登校した美月。ダサいと思われたくないし、TPOも大事だし……いったい何を着ればいいの!? 
・川田みちるーーみちるの最近の悩みは自分の一人称。自分のことを「みちる」と呼ぶのは子どもっぽいと言われたけれど、「わたし」もしっくりこないのだ。
・遠藤莉子ーー「かわいそう」と言われるたびに思う。父親がいなくても、わたしはかわいそうな存在じゃない。そんな莉子は、週に1回やってくる謎の男性、オーノくんのことが気にかかり……
・小林ふみかーー親が再婚し、友だちも彼氏ができた。みんなそれぞれにパートナーがいるけど、わたしはひとりぼっち。まわりの人間関係が変わりゆくなか、ふみかは孤独と向き合う。
・森脇晴臣ーー廃業した旅館が廃墟にならないように、定期的にメンテナンスをしてきた晴臣。辛いとき、ここでの時間が自分の心のメンテナンスにもなっていたが、旅館の改装が決まり……

読者の声

読者さま

共感できる内容で楽しく、一気に読んでしまいました。

私も小学校の近くで店をやっているので、子どもと挨拶したり他愛もないおしゃべりをしたり…共感できる内容で楽しく、一気に読んでしまいました。
高村有さんの次の作品も楽しみにしています。

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書評

『思いがけず、朝子ちゃん』の魅力 母のひろば732号 2025年5月15日発行
 タイトルに書かれている「朝子ちゃん」は、25歳。東京でうまくいかないことがあり、おばあちゃんの生花店を手伝うことになって、舞台となっている地方都市に来ている。彼女はこの本の5つの短編すべてに少しだけ顔を出す。大活躍はしないが、ものごとが良い方へ動いていくときのきっかけになる人だ。そういった中心ではないポジションにいる人をあえてタイトルに取り上げるところに、作者高村有らしさが出ている。
 目的地に着く前に寄り道をしたくなる作者は、はっきりさせたい気持ちをあえて抑え、曖昧なままにとどまる強さも持っている。たとえば、第3話「水曜日は、家族びより」では、主人公である莉子のもやもやが描かれる。毎週水曜日になると母親の昔からの知り合いだというオーノくんが荒れ放題の庭の手入れに来るようになる。彼は、草むしりをし、夕方になると莉子と母親の夕食を作って、帰っていく。母親よりはかなり若い感じもするが、いったい何者なのか? 莉子はひそかに、オーノくんは、自分の父親なのではないかと想像する。
 気になるなら、母親に聞けばいいのだが、莉子にはそれができない。今まで父親のことについて一切聞かされてこなかったということには、何か理由があるはずだ。それは、自分がショックを受けてしまうようなことかもしれないし、母親にとって語るのがつらいことなのかもしれない。そんなわけで、オーノくんはたぶん「大野」と思われるが、それさえ確かめられない莉子の中では、ずっとカタカナのオーノくんのままであり、ずっと宙ぶらりんな感じでいる。それは、はっきりとした正解が見つけられず、うまく折り合いをつけることもできない状態だ。でも、ネガティブではない。じっさい莉子はその中で、結構楽しんでもいる。自分を賢く見せようとしたり、そんな自分にあきれてみたり、それもこれもオーノくんとの曖昧な関係の中でちゃんと成立している。
 その描き方は作者の最も得意とするところではないだろうか。私は、オーノくんは莉子の父親であってほしいと思いながらこの物語を読み進めた。そう思わせるのは、少し理屈っぽい一人称の語りの中にユーモアと切なさをあわせ持った莉子の姿が生き生きと浮かびあがり、応援したくなるからだ。果たしてオーノくんは父親なのかどうか、ぜひとも本書を手にとり、確かめてほしい。
 最後に、どうでもいいような、それでいて気になったことをひとつ。なぜ、オーノくんは、夕飯を莉子と一緒に食べていかないのだろう。私がオーノくんだったら、一緒に食べるけど、それはまずいことなのか? ほかの読んだ人はどう思ったか聞いてみたくなる、そんな物語だ。
荒木せいお/作家

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