2023.11.26

<新刊紹介>差別のない世界へ――小手鞠るいさん最新作『空と星と風の歌』

今回は、小手鞠るいさんの最新作『空と星と風の歌』をご紹介します。


「わからないだろうなあ、
日本社会で、自分が日本人であるということを、
砂つぶほども疑ってみたことのないだろうあなたには、
到底、わからないでしょう。
ま、わからなくて、当たり前だけれど。」

中学1年生の空奈(そらな)が、在日朝鮮人二世の金洪才(キムホンジェ)さんからかけられた言葉。
空奈の心は大きく揺さぶられます。

空奈の夏休みの宿題のテーマは、「家族の仕事」でした。
母とふたり暮らしの空奈は、フリーライターである母の仕事を体験することに。
インタビューに同行し、そこで金さんと出会ったのです。


「アボジ」とは朝鮮語でお父さん、「オモニ」はお母さんを意味する言葉だということ。
日本が朝鮮を侵略し、植民地として支配していたこと。
「朝鮮人」であるために受ける、醜く、根強い差別のこと。

金さんが語るのは、空奈が知らなかったことばかり。
学校で教えてもらっていないこともあるかもしれません。
でもそれは「知らなかった」言い訳にはならないと、空奈は心から思います。
みずから知ろうとしなくてはいけなかったのだと。

金さんとの出会いが、空奈を変えていきます。
自分を知るために、父を知り、母を知り、その上でほかでもない自分自身を生きていく―ー未来を向いて一歩を踏み出したのです。


空奈のエピソードのあとには、母が韓国人であることを理由にいじめられた少女、美星(みせい)、日本を離れアメリカで「自由」を感じた、車いすの少年風太の物語がつづきます。

差別のない真に自由な社会を求める。
3つの短編から紡がれるのは、力強いメッセージです。

本作の絵を手がけたのは、堀川理万子さん。
2脚のいすは、向かいあう人と人、そこから生まれる対話を予感させます。

167ページ、小学校高学年から。
(小手鞠るい・作 堀川理万子・絵)

空と星と風の歌

単行本図書

空と星と風の歌

小手鞠るい 作/堀川理万子

「わからないだろうなぁ、日本社会で、自分が日本人であるということを、砂つぶひとつほども疑ってみたことのないだろうあなたには、到底、わからないでしょう。ま、わからなくて、当たり前だけれど。」在日朝鮮人二世の男性との出会いが中学生・空奈の心を大きく揺さぶった。「日本社会にはね、朝鮮人に対する根深い差別があるんだね。昔は仲良くつきあっていたこともある両国なのに、なぜなんでしょう。」差別。いろんな差別。腹立たしい差別。醜く、根強い差別。「日本をいい国にしていくためには、差別や偏見や憎悪のない社会を作っていかねばならないのだと。大人にはもう何も、期待していなかった。でも、子どもたちには期待していた。これからの日本を作っていくのは、子どもたちだから……」こんなこと、学校では教えてくれなかった。けれども「教えてくれなかった」ことは「知らなかった」の言い訳にはならない。みずから、知ろうとしなくてはならないのだ……。母が韓国人である、ただそれだけの理由でいじめられた少女。車椅子の少年が日本を離れアメリカで感じた自由。
三つの短編が織りなす、差別のない社会を希求する力強い物語。

  • 小学5・6年~
  • 2023年11月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み