2021.07.05

<インタビュー>『先生、感想文、書けません!』著者・山本悦子さん

(2021.06.02 zoomにてインタビューを行いました。 写真…山本悦子さんご提供)


2014年に刊行された『先生、しゅくだいわすれました』は、子どもにとって身近な「宿題」をテーマに、想像することの楽しさ、物語を創ることのおもしろさを描き、多くの子どもたちから支持を得ました。その姉妹編となる新刊『先生、感想文、書けません!』が、この6月末に刊行となりました。
今回、著者の山本悦子さんに作品を書いたきっかけや感想文にまつわるエピソードなど、お話をうかがいました。

『先生、感想文、書けません!』山本悦子・作 佐藤真紀子・絵

8月1日、夏休みの登校日。
みずかは先生に「だって、書けないんだもん」と言いました。
おもしろい本を読んで、ああおもしろかったなあって、胸がいっぱいになる。
どこがどうおもしろかったとか、何がよかったとか書こうと言葉を探そうとすると、しゅるしゅるしゅるって、おもしろかった気持ちがきえてしまう。
だから「感想文、むり!」
……書かないわけにはいかない読書感想文、みずかが考えた作戦とは?



――宿題の次は感想文がテーマ、ということですが、本作を書かれたきっかけを教えてください。


今回も、かつて小学校の教員をしていた経験がもとになっています。「読書感想文、書きたくない」「『おもしろい』だけじゃだめなの?」って言う子は多いんですよ。それに教員にとっても、感想文の指導って難しくて。苦手だっていう同僚はいましたね。
私自身も、じつは感想文を書くのは得意ではないです。今でもいろんな方の本を読んだ感想をブログに書いていますが、「ああ、こんな稚拙な文章では表現できない」と思うので……。
そんな、嫌われ者の(笑)感想文をテーマにしたら、おもしろいお話ができるかな、と思ったのがきっかけです。

――本作の主人公、みずかちゃんは「感想文が書けない!」ときっぱり先生に言いますね。


さすがにみずかちゃんのように本当に書いてこない、という子はいなかったですけどね(笑)。



――さあ、感想文をどう書くのかな? と読みすすめていくと、なんとお話を創るという驚きの展開に。


そうなんです。感想文が書けないなら、書ける話を創ればいいんじゃないか、ということなんです。私自身、中学生のころに感想文がうまくいかなくて「私の感想文にあわせて誰かお話作ってくれないかなー」なんて思ったことがありました。

――ご自分で書かれることは、やっぱりお好きだったんですね。みずかちゃんとあかねちゃんが物語を考えていくところは、一緒に創っていくような感覚になりました。


子どもの世界ってそんなに広くはないので、その中でお話を創っていくとどうなるかな、と考えながら書いていきました。あかねちゃんや弟のタクちゃん、きらいな食べもの、昨日あったこと――といったようにモチーフは自ずと身近なことになります。みずかちゃんとあかねちゃんが物語を創っていく場面は、私も書いていてとても楽しかったです。
みずかちゃんは自分の気持ちに正直で、しっかり主張します。そんなみずかちゃんを受けとめてくれるあかねちゃん。ふたりのコンビネーションもよかったのでしょうね。



――先生ご自身も小学生のころに初めて物語を書かれたと以前のインタビューでうかがいました。


そうです。小学校5年生のころに初めて物語を書きました。そのころはSF小説が大好きだったので、自分でも書いてみようかなと思ったのがきっかけです。物語を創るのって楽しい! と実感しました。今でもそのときの気持ちとあまり変わっていないですね。

――ふたりの物語を創っていくシーンも、ワクワク感がありました。紆余曲折あって無事に結末を書き終えたとき、ふたりがたどり着いたのがあるキーワードでしたね。


この言葉は、ふたりが創った物語には一度も登場しないんです。いわば、ふたりが創った物語についての、ふたりの感想なんですよね。感想文ってその本にあることを書かなくてもいいんです。本から受けとったものが何なのかを感じたとおりに書けばいいのだと思います。私も書いていてみずかちゃんがこの言葉を言ったときには、「おお!」と驚きました(笑)。

――「感想文が書けない!」と言うみずかちゃんと向き合う担任のえり子先生も本当に素敵ですね。もしかして……?


そうです。『先生、しゅくだいわすれました』で登場するえりこ先生です。ここまで思い切ったことができる先生はそうはいないと思いますが、「こんな先生いたらいいな」という私の願いをこめています。『先生、しゅくだいわすれました』のときと違うクラスを受け持っているという設定です。じつは、えりこ先生のイメージは、絵を描いてくださった佐藤真紀子さんに近いかな、と思っています。

――そうなんですか! 今回も佐藤真紀子さんが絵を手がけられていますが、ご覧になったときのお気持ちはいかがでしたか?


本当に佐藤さんはすごい! 佐藤さんの絵からは子どもたちの声が聞こえてくる気がします。私が驚いたのは神社の絵。私の地元にある、海辺の神社を思い描いて書いたのですが、本当にそのものなんです。私の頭の中がのぞかれたのかな? と思いました(笑)。
あとは子どもたちが大ダコをくすぐる場面ですね。子どもたち1人1人が表情豊かで、とっても楽しいシーンにしてくださったと思いました。



――最後の場面も教室のにぎやかさ、あたたかさが伝わってくる素敵な絵でした。さて、今年も「感想文」の夏は子どもたちにやってきます。「先生、感想文、書けません!」と言いたい彼らに、山本先生からエールをお願いします!


えりこ先生の言葉を借りれば、「感想文って思いを言葉にする」ための修行だと思うんです。本にあることだけを書かなくてもいい。読んでみてどう思ったか、「おもしろかった」ならどこがおもしろかったか自分に問いかけてみて、自分の気持ちにぴったりの言葉を探してみてください。感想文に正解も不正解もないので、自信満々で(笑)書いてほしいです。
私は教員のころ、感想文は「50m走」だと子どもたちに言っていました。短距離走と考えて、まず自分が強く感じたことからどんどん書いていく。そして「連想ゲーム」のように自分のことに引き寄せたり、自分なりの結末を考えてみたり。本に寄り添いすぎず、自由に書いてみたらどうでしょうか。『先生、しゅくだいわすれました』を読んで感想文を書くなら、自分なりのしゅくだいをわすれたわけを書いてみてもいいですよね。思いを言葉にする修行、がんばってくださいね。

――この本を読んだあとは、物語を読みたい、物語を書きたい、と感じる子がたくさんいるのではないかと思います。今日はありがとうございました!

先生、感想文、書けません!

単行本図書

先生、感想文、書けません!

山本悦子 作/佐藤真紀子

八月一日、夏休みの登校日。みずかは先生に「だって、書けないんだもん」と言いました。おもしろい本を読んで、ああおもしろかったなあって、胸がいっぱいになる。どこがどうおもしろかったとか、何がよかったとか書こうと言葉を探そうとすると、しゅるしゅるしゅるって、おもしろかった気持ちがきえてしまう。だから「感想文、むり!」……書かないわけにはいかない読書感想文、みずかが考えた作戦とは?

  • 小学3・4年~
  • 2021年6月30日初版
  • 定価1,320円 (本体1,200円+税10%)
  • 立ち読み
先生、しゅくだいわすれました

単行本図書

先生、しゅくだいわすれました

山本悦子 作/佐藤真紀子

しゅくだいをわすれたゆうすけ。しどろもどろに口からでまかせのウソでいいわけをしていると、えりこ先生が「だめだなあ、ウソをつくならもっと上手につかなくちゃ」「え?」「すぐばれるようなのはだめよ。それから、聞いた相手が楽しくなるようなのじゃなくちゃ」「楽しくなる?」「そう。聞いた人がウソとわかっても、はははってわらっちゃうようなのじゃなきゃ」「じゃあ、上手にウソがつけたら、しゅくだいやってなくてもしかられないってこと?」「そうねえ。だって、だまされちゃったらしかたないし」といって、えりこ先生はにやっとわらった。…次の日から子どもたちはしゅくだいができなかったわけを考えてきて発表することに…。

  • 小学3・4年~
  • 2014年10月25日初版
  • 定価1,210円 (本体1,100円+税10%)
  • 立ち読み