2020.10.16

インタビュー『せとうちたいこさん デパートいきタイ』著者・長野ヒデ子さん

(2020年8月24日鎌倉の長野ヒデ子さんのアトリエにて)

シリーズ5作目となる新刊『せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ』の刊行を記念し、長野ヒデ子さんに、シリーズ第1作『せとうちたいこさん デパートいきタイ』について伺いました。どうぞこちらのインタビューとあわせてお読み下さい。
▶インタビュー 新刊『せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ』著者・長野ヒデ子さん





――シリーズ第1作『せとうちたいこさん デパートいきタイ』(1995年)は、今年で刊行から25年のロングセラー絵本です。なんでもやってみたい、元気なたいこさんのキャラクターは、どのようにうまれてきたのでしょう。


私は瀬戸内生まれなんです。
瀬戸内は春に本当においしい鯛がとれる所ですが、小さい頃から、おまつりや誕生日など、めでたい時には鯛が出ていました。
お祝いや喜びの場にいつもいた鯛を、主人公にしたいなと思ったのです。

それから、この絵本を作る前、絵本『おかあさんがおかあさんになった日』を作った時に、取材で子どもの出産にも立ち会いました。
生まれてくる子どもたちは、誰からも習ったわけでもないのに、産道をくぐりぬけ、力強く生まれてきます。
その時に、子どもって生まれながらにすぐれた力を持っていて、教えることなんて何もないなと強く思ったんです。

でも、今の子どもたちは、いろんなことが頭の上にかぶさっていますよね。
親の言うことも聞かなくてはいけないし、宿題もしないといけないし、友だちとも折り合いをつけなきゃならない。
そうしたものを取り払えるような、とにかく楽しい絵本を作りたいと思ったのが、この本をつくった最初のきっかけでした。





――海の中でくらしているたいこさんが、デパートのチラシをみつけ、デパートにやってくるところからはじまります。


鯛がいるのは普通、海の中なんだけれど、陸にあがっていろんなことやったらおもしろいだろうなと思って陸にあげました(笑)。
この本を出した時、「魚が陸を歩くなんて!」と、みなさんびっくりして、でもそれがおもしろいと鳥越信さんや吉田新一さんなどがいろいろほめてくれましたね。

たいこさんが出かけていく所も、最初はデパートではなくて、市場だったんです。
この本を作っていた頃、中国や東南アジアを訪れる機会が多かったのですが、中国や東南アジアの市場って、行くといろんな物を売ったり、いろんなことをしていて、おもしろいことがいっぱいあるじゃないですか。
市場って、人間が生きて行くためのものがよく見えるので、そういったものを描きたかったんです。
しかし今の日本の市場はそういう場所ではなくなっていたので、それじゃあデパートにしてみようと思ったんです。

この本では、読む子どもたちが、その場に描かれている人たちの人間模様、会話、物語などを自分で想像して生み出して楽しんでもらえたらいいなと思って。
デパートで展示されているものや、訪れている人たちを描き入れていきました。
だから「デパートの買物って楽しい」と、デパートの消費文化をあおるものではないんです。



――子どもたちは、デパートの中に描かれている珍しいものを見つけて、楽しんでいます。


そうですね。この本では、デパートの中でも子どもたちが連れて行ってもらっていないであろう、子どもにとって珍しい場所を選んでいます。
ブラジャー売り場とか「おかあさんはこんな所に行ってるんだ」と思うような場所を描いていて、おもちゃ売り場など、子どもたちがよく知っているだろう場所はあえて描きませんでした。


――なるほど。読んでいると、たいこさんと一緒にフロアを探検している気分になりますね。
主婦のたいこさんが海の中からデパートにやってくる設定もおもしろいです。


家庭の中にいる主婦のたいこさんが、好奇心いっぱいに外へ出て行く、そういう所も描きたかったんです。
お母さんが、子どもをほったらかして、ご主人もほったらかして、自分のために時間を作ってストレス解消するっていうお話があってもいいんじゃないかって。
子育てしてきた自分の気持ちと重なる所もありますが、やっぱりお母さんも、そういう風にいろんなことをしたり、ストレス解消しないと子どもを怒ってばっかりになってしまうと思うんです。

たいこさんはいろいろ失敗ばかりしますが、最後にはちゃんと家に帰ってきます。
最後に帰ってくる家があり、家族がいるって、安心できてうれしいことです。





――読者からはどんな感想や反応が寄せられているでしょう。


みんなたいこさんが好きって言ってくれますね。
子どもっていつも「これなに?」と興味をひかれて、どこへでもついて行ってしまうでしょ。たいこさんはそんな所が子どもと一緒なのかもしれません。
たいこさんは好奇心旺盛で、あまりえらくもないし、いろいろ失敗したり、周囲をまきこんだりしますが、子どもたちは自分たちと同じだと思って親しみをもってくれるのかもしれませんね。


――おかげさまで、今年で刊行から25年のロングセラーになっています。


新刊とあわせて、今の子どもたちにも楽しんでもらいたいですね。

――今日はお話ありがとうございました。





(たいこさんとおそろいの麦わら帽子で)
せとうちたいこさん パーティーいきタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん パーティーいきタイ

長野ヒデ子 さく

なんでもやってみたいタイのたいこさん。今度は結婚式の披露パーティーに出かけます。めでたい、めでたいと踊っていると……

  • 3歳~
  • 2001年7月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫品切・重版未定
せとうちたいこさん デパートいきタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん デパートいきタイ

長野ヒデ子 さく

なんでもやってみたいタイのたいこさん。はじめてデパートにでかけてウキウキ…。

  • 3歳~
  • 1995年11月27日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ

長野ヒデ子 さく

「ふじさん、ほれぼれする山だねえ~」たいのおかあさん、せとうちたいこさんはふじさんにあいにでかけました。「♪ノミがリュックしょってふじとざん」の歌をきいて、ふじとざんしたくなったたいこさん。こだいちゃんたちといっしょに、ふじさんにのぼります。「ばんざーい!ふじさんのてっぺんだ!!」ちょうじょうでおにぎりをたべて、すばらしいご来光をおがみました。たのしかったね。ふもとで銭湯によってかえりました。

  • 4・5歳~
  • 2020年10月5日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み