2020.10.14

インタビュー『せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ』著者・長野ヒデ子さん

写真・小幡崇



なんでもやってみたい、元気なタイのお母さん・たいこさんが人気の「せとうちたいこさんシリーズ」
今月シリーズ5作目となる新刊『せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ』が刊行されました。
作者の長野ヒデ子さんに新刊についてお話を伺いました。

(シリーズ第1作「せとうちたいこさん デパートいきタイ」についてのインタビューも、近日こちらのHPで掲載いたします)




『せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ』(2020年)


――シリーズ5作目となる新刊です。
タイと富士山、とても縁起の良い組み合わせですが、
どんな風に作品の着想を得たのでしょう?


タイと富士山ってすごくピッタリのおめでたい組み合わせ、うれしいじゃないですか(笑)
私が住んでいるところの裏山で毎朝ラジオ体操をしているのですよ。そこから富士山が見えるんです。
見えただけで1日うれしい気持ちになる感動の山ですよ、富士山はすごい!

富士山って子どもから大人までみんなに愛されてるから、ぜひ描いてみたいって思ったの。
「なんとか山(さん)」っていろいろな山の名前がありますけど、「ふじさん、ふじさん」って、みんなから親しみをこめて呼ばれているから、なんだか名前のさん付けと似てるようで、擬人化したい山でもあるなあって思っていたのです。

それから私の母の名前が「フジ」という名前なの、本当の話。
母は四国の瀬戸内に生まれの瀬戸内育ちで、瀬戸内の魚が大好きな人。地元からどこにも行ったことのない人です。でも「私はフジって名前だけども富士山を一度観たかった。登りたかった」と年老いて言うのです。「じゃあ私が代わりに登ってあげるわ」と富士山に登ったのです。眺めるのと登るのは大違い、さすが富士山。ますます愛してやまない富士山になった!


――今回の絵本でも、富士山を擬人化して一緒に歌を歌ったり、手あそびして、たいこさんと友だちになる場面が出てくるので驚きました。こんな富士山の絵本は見たことありません!





やっぱり富士山って、擬人化して描きたくなるような親しみがあるんですよね。
日本の人だけじゃなくて、海外の人もみんな富士山を見たがるし大好き。ちゃんと自立し独立している、形のいい山は海外でも珍しいのでしょうね。新幹線でも、飛行機に乗っていても、富士山が見えただけで、誰でも「ふじさんだ!」とうれしそうな幸せそうな顔になり、いいですね。
江戸時代の葛飾北斎も、「富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)」で富士山を描いているし、昔からみんなに愛されていたのですね。

――富士山にかかる様々な笠雲を、ぼうし(かさ)に見立てて紹介する場面がおもしろいですね。





雲の名前以外にも、赤富士(*1)など、季節や見え方などで、富士山にはいろんな呼び名があります。他の山にはこんなにたくさんの呼び名はないですよね。
*1 夏の早朝に、富士山が赤く染まって見える様子


――今回の本では富士山の「きょうだい」として、薩摩富士(鹿児島県の開聞岳[かいもんだけ])や日光富士(栃木県の男体山[なんたいさん])、など、日本各地の他の「富士」と呼ばれる山も登場します。


富士山は、日本中の山があこがれて富士山みたいになりたいと思っている山の王様。もっと親しみやすい山のアイドル(笑)ですよ。ライブしたら満員ですね(笑)
富士山って尊敬し敬われているけれど、それ以上に親しみがあって愛されてる面が大きいですよね。その謎を感じてほしい! 自然の奥深さがどこか体で感じられる、そんな絵本よ。


――様々な豆知識もありつつ、ノミと一緒に登山したりするし、頂上でおにぎりを食べたり、たいこさんらしい楽しいエピソードもつまった絵本ですね。


「アルプス一万尺(いちまんじゃく)」の手遊びで、「♪ノミがリュックしょって富士登山」という歌詞を聞いたときは驚いた! ノミが! 富士山にのぼるの! じゃあ、たいこさんも富士山登山させよう! 「♪タ〜イがリユックしょって富士登山」もいいよねえと(笑)


――本作でも「♪ノミがリュックしょって富士登山」に驚くたいこさんが出てきますが、たいこさんの驚きは、長野さんご自身の驚きでもあったんですね。






――長野さんご自身も何度も富士山に登山されているそうですね。


遠くから眺めると、すっとスタイルが良くて登りやすそうですが、登ってみると険しくて、厳しくて、奥が深いなと思います。富士山って水の山って言われるくらいにいろんなところに湧き水があるのね。きれいな水が湧き出ることは、富士山が神聖な山であることを象徴しているように思います。


――富士山の頂上から、ご来光(日の出)を眺める場面が感動的ですね。登った人にしかわからない空気が表現されているように感じました。





下から見るのと全然ちがって、実際に登ってみて富士山の頂上からしか見ることができない景色です。神聖な山に抱かれていることをすごく感じました。雲から朝日が出てくる様子が神秘的で、ご来光を拝みたくなる気持ちがよくわかりました。


――この本を読んだ子どもたちも、富士山に登ってみたいと思うかもしれませんね。


富士山のふもとに、毎年富士山に登っている幼稚園があるんですが、その幼稚園では年中行事として卒業する年に、登るそうです。
そんなちっちゃい子が登れるの!? と驚いたのですが、みんな頂上まで登りきり、そのことが子どもたちの自信につながるそうです。
小学校じゃなくて幼稚園と聞いて、最初信じられなかったんですが、実際に富士山に登ってみると、小さい子も登っているんですね。家族で登っている人も多かったです。






――読者にむけてメッセージをお願いします。


富士山もタイもめでたいですよね。
めでたいものって、なにか、どこか希望が持てて元気が出る、励まされるのですよ。
元気がないニュースが多いですが、この絵本を読んで元気になって「よーし!」といってもらいたいのです。たいこさんと一緒に、富士山に登りましょう!
えっ? 「登山はきついよ」だって、そんなこと言うと富士山が怒るよ!





それと、とても嬉しい知らせをもらったんですよ。25年前、「たいこさん」の絵本が大好きだった女の子がお母さんになり、そのあかちゃんの名前が、なんと「たい」ちゃん。おばあちゃんと親子3代で読み継がれて、こんなに嬉しい写真も送ってくれましたよ!




――親子そろって、たいこさんの世界を楽しんでいただきたいですね。


富士山と遊んだり、富士山に兄弟がいたり。今作もびっくりな展開です。
こうして25周年迎えられたのも皆さんがたいこさんを愛していただいたおかげ。これからもたいこさんを応援してください!

――お話ありがとうございました。

(2020年8月24日鎌倉の長野ヒデ子さんのアトリエにて)


(次回「インタビュー『せとうちたいこさん デパートいきタイ』について」につづく)

せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ

長野ヒデ子 さく

「ふじさん、ほれぼれする山だねえ~」たいのおかあさん、せとうちたいこさんはふじさんにあいにでかけました。「♪ノミがリュックしょってふじとざん」の歌をきいて、ふじとざんしたくなったたいこさん。こだいちゃんたちといっしょに、ふじさんにのぼります。「ばんざーい!ふじさんのてっぺんだ!!」ちょうじょうでおにぎりをたべて、すばらしいご来光をおがみました。たのしかったね。ふもとで銭湯によってかえりました。

  • 4・5歳~
  • 2020年10月5日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
せとうちたいこさん デパートいきタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん デパートいきタイ

長野ヒデ子 さく

なんでもやってみたいタイのたいこさん。はじめてデパートにでかけてウキウキ…。

  • 3歳~
  • 1995年11月27日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
せとうちたいこさん パーティーいきタイ

せとうちたいこさんシリーズ

せとうちたいこさん パーティーいきタイ

長野ヒデ子 さく

なんでもやってみたいタイのたいこさん。今度は結婚式の披露パーティーに出かけます。めでたい、めでたいと踊っていると……

  • 3歳~
  • 2001年7月10日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み
  • 在庫品切・重版未定