2020.05.24

<新刊読み物>小手鞠るい、初のSF小説『ぼくたちの緑の星』

緑がまぶしい季節です。
日ごとに育っていく、まだやわらかな葉を見ていると、木々も生きているのだと感じます。

今日ご紹介するのは、小手鞠るいさんの最新作にして初のSF小説、『ぼくたちの緑の星』です。


主人公の「ぼく」は小学生です。

「ぼく」の名前は明かされません。
「ぼく」自身、名前を奪われ、忘れかけているからです。
名前だけではありません。
たいせつな友だちや家族も、公園に茂っていた木々も、大好きだった音楽の授業も、失いかけているのです。

それらはすべて、「ゼンタイ・モクヒョウ」のためだと教室では教えられています。
決まりを守ること、ジュウゾクすることが、何よりも重要だと――。

色をなくした息苦しい「ぼく」の日常。
それを変えたのは、公園でひろった一枚の地図でした。

「ぼく」は踏み出します。たいせつな人も、大好きなものも、自分の毎日に取りもどすために。


ページをめくるたび、想像せずにはいられません。「もし、これが自分の日常だったら?」と。
すると、当たり前だと思っている自分の日常が、ちがった角度から見えてくるのです。


著者の小手鞠るいさんは本作にこめた思いを、こう書いています。※

「戦争や環境問題を子どもたちにどう伝えるか。これは、地球上で暮らすひとりの人間として、私の向かい合っているテーマである。

私自身に関していえば、戦争は主に、両親の体験から学んできた。
両親は生まれた年から十五歳まで、戦争を生きてきた人たちである。

私の場合、学校の授業や教科書からは、戦争の真実は何ひとつ学べていなかった(むしろ、間違った考え方を植えつけられていた)と言っても、過言ではない。

環境問題については、すでに、考えるという段階を越え、切羽詰まった状況にあることを日々、痛感している。
今すぐに行動を起こしても、もう遅いのかもしれないと、絶望に苛(さいな)まれることすらある。
それでも何かしなくてはならない。私にできることがあるはずだと思いながら書いた作品、それが『ぼくたちの緑の星』である。

戦争と環境問題。これらは分かち難く、ひとつにつながったものであることを、物語という形にして、子どもたちに届けたいと思った。
フィクションの中に、登場人物のひとりとして入り込み、ストーリーを『体験』することによって、戦争も環境問題も、遠い外国で起こっているできごとではなく、今、自分たちの身に起こっていることとして受け止めてもらえたら、と、切に願っている。

書く前から、最後の一行だけは決まっていた。」

「ぼくたちの緑の星」とはいったい何を意味しているのでしょう。そして、最後の一行とは?
皆さんもぜひ、ご自身で確かめてください。

191ページ、小学校5・6年生から。

(小手鞠るい・作 片山若子・絵)

※ 童心社定期刊行物『母のひろば』673号(2020年6月15日)より

ぼくたちの緑の星

単行本図書

ぼくたちの緑の星

小手鞠るい 作/片山若子

ぼくたちは、名前を失いかけていた。大切にしていたものや、大好きなものや、家族や友だちを失いかけていた。一つの大きな「ゼンタイ・モクヒョウ」に向かって「ジュウゾク」させられていた。なぜ、こんなことが起こっているのか、わからなかった。なんのために生きているのか、わからないまま生きていた。名前ではなく番号で呼ばれる灰色の世界を舞台に、大切なものを守るために何ができるかを問う少年少女向けSF小説。

  • 小学5・6年~
  • 2020年5月19日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み