『おしいれのぼうけん』を読んでくださる皆様へ
1974年、私たち童心社は『おしいれのぼうけん』を刊行しました。
友だちと手をつなぎ、子どもたち自身の力で不安や恐怖を乗りこえていく勇気と冒険の物語は、今もなお世代を超えて愛され続けています。
物語の中で、主人公のさとしとあきらは、けんかをして先生におしいれに閉じこめられてしまいます。
この描写が、「保育者による虐待行為」にあたるのではないかというご懸念が寄せられることがあります。
保育者が子どもを別室などに閉じこめる行為は「虐待」です。
私たち童心社は、子どもの身体的・精神的自由を奪い、人権を毀損する、いかなる行為にも強く反対します。また、そのような出版活動は行いません。
「保育士が、けんかをした子ども2人をおしいれに入れたものの、出てこなくて大変だった」というのは、『おしいれのぼうけん』制作時、作者の古田足日さん、田畑精一さんらが保育園を取材する中で聞いた実際のエピソードです。
古田さんは、大人の誤った行いに屈しない子どものエネルギーに心から感動し、それが『おしいれのぼうけん』がうまれるきっかけのひとつとなりました。
作中では、保育者自身が葛藤する様子も丁寧に描かれました。
「みずのせんせい」は子どもたちに謝り、その後、子どもをおしいれに入れることをやめるのです。
『おしいれのぼうけん』は、保育者による虐待行為を容認、肯定するものでは決してありません。
では、『おしいれのぼうけん』の本質とは何か。なぜ愛されつづけているのか。
刊行から50年という大きな節目に私たちはあらためて考えました。
『おしいれのぼうけん』で描かれているのは、「子どもそのもの」ともいうべき、いきいきとした姿です。
子どもは、大人が、社会が守るべき存在です。しかし決して無力ではありません。
自分の意志、恐ろしい存在に立ち向かう勇気、そして豊かな想像力をもっています。
子どもがそんな自分自身を信じること――それこそが未来を生きていく力であり、『おしいれのぼうけん』が50年にわたり子どもたちに届けつづけてきたことなのです。
まっくらやみに まけない 子どもの心のために
50年先、100年先を生きる子どもたちにも『おしいれのぼうけん』を手渡していくため、私たちはこの言葉を胸に出版を続けていきます。
多くの子どもたちが、この本でしか体験できない冒険に心を躍らせることを願って。
2024年5月 童心社