こぐまのくうちゃん
ほんとうは、おたがいにあかい花をプレゼントしたかったふたり。子どもたちによくある「思いのすれ違い」を、あまんきみこが温かいまなざしで綴った作品。
その思いを大事に、さらにイメージをふくらませるのが、黒井健の絵。
じっくりと読み応え、見応えのある絵本。
内容説明
こぐまのくうが、あかい花をみつけたよ。なかよしのぴょんこちゃんにあげようと花を摘んだとき、うしろから「いや~ん」と声が! ぴょんこちゃんが泣いていた。ぴょんこちゃんも、同じ花を、くうに見せたいと思っていたのでした。走りさるぴょんこちゃん、ぼうぜんと見送るくう。赤い花びらが花の精となって、二人の仲を取り持ちます。
読者の声
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とってもこころがあたたまります(7歳・女性)
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こぐまのくうとうさぎのぴょんこ
なかなおりできてとってもこころがあたたまります。
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推薦のことば
- 「悲劇」から引き返す 2013年9月27日
- 日曜日の朝、子グマのくうが子ウサギのぴょんこのうちに遊びに行く道々、きれいな赤い花が咲いているのに気がつきます。丸い花びらが五枚の小さな花です。「ぴょんこちゃんに、もってってあげよう」――くうが茎をこきっと折ったとき、うしろから声がします。
「ひどーい。それ、あたしのよ。あたし、さくのを、ずっとまってたの。」 泣きそうな顔のぴょんこでした。「しらなかったんだ。ごめんよう」と、くうが花を渡そうとしたとき、ぴょんこが強く振りはらって、花びらがみんな落ちてしまいます。良かれと考えてしたことですが、思いは通じません。むしろ、ぴょんこを悲しませてしまいました。こういうのを「悲劇」というのでしょう。ごんが思いをとどけつづけたのに、にはわかってもらえなかった、新美南吉の童話「ごん狐」のような……。
しょんぼりする、くうの姿に私たちも切なくなりますが、その切なさをそっと救ってくれるのが、あまんきみこさんのファンタジーです。林にのこった五枚の花びらが舞い上がって、小さい小さい女の子の姿になります。黒井健さんは女の子たちをピンクにちかい赤で描き、それは、茶色と草色の林の風景のなかで、あざやかに際立ちます。この花びらたちの力によって、物語は、「悲劇」から引き返し、明るいほうへ帰還することになるのです。 - 宮川 健郎(みやかわ たけお/児童文学研究者)