2021.08.04

<連載1/4>今、広がる「いのちの響き」――『ちっちゃい こえ』に出会ったみなさんの言葉から

『ちっちゃい こえ』を見る1歳から5歳児の子どもたち


2019年に刊行された紙芝居『ちっちゃい こえ』
丸木俊さん、丸木位里さんが30年以上かけて描いた大連作「原爆の図」の絵をもとに、詩人のアーサー・ビナードさんが独自の物語を紡ぎました。

ネコが語り手として登場し、いのちをつくるサイボウたちが音を響かせるこの紙芝居は、観客と演じ手のみなさんに驚きをもって受けとめられ、今、さまざまな場所で広がっています。

今回から4回にわたる連載企画として、『ちっちゃい こえ』に出会い、「いのちの響き」に耳をすましてくださったみなさんの言葉をご紹介します。

今日ご紹介するのは、長年保育士としても子どもたちと向き合われてきた、まちのてらこや保育園園長の近藤みさきさんの言葉です。



『ちっちゃい こえ』に出会った子どもたち

私は27年間保育士として子どもたちと数えきれないほどの絵本、紙芝居に出会い、子どもと物語の世界を共有しながら、楽しさやおもしろさ、不思議が芽生えるところを肌で感じてきました。
選書する時には必ず子どもの姿を「予測」しています。でも、今回その「予測」は固定されたものになっているのだと気づかされました。

戦争や原爆のお話や、「細胞」という言葉が入った紙芝居を、今まで子どもたちに読んだことはありませんでした。どこかで「これは子どもたちにとって難しいのではないか」と思っていたのです。
でもその思いを、子どもたちが変えてくれました。『ちっちゃい こえ』をアーサーさんが読み進めると、子どもたちは驚くほど真剣な表情になりました。年齢に関係なく紙芝居の中に自分の身を置き、紙芝居から響いてくる「ちっちゃい こえ」から「大切な何か」を受け取っているようでした。アーサーさんと子どもたちの間に言葉を超えたコミュニケーションが生まれているのを感じました。

その後、紙芝居を子どもたちが手に取れるところに置いておくと、お昼寝前に子どもが読んでほしいと担任に言っているのです。
担任が演じ始めると、またあの時のぐっと引き込まれる表情になるのです。紙芝居の内容をすべて理解はしていなくても、絵や言葉の運び方から『ちっちゃい こえ』に含まれている「何か」を子どもながらに感じ、受け取りたいと思っているのだと思いました。
この紙芝居が特別なのではなく、日常の中に溶け込み、子どもの心に大切な何かを映し出しているのだと感じました。そして、すべては子ども自身が持っている感覚に任せればいいのだと。

(近藤みさき/東京都)
「母のひろば」687号(2021年8月15日 童心社発行)より


子どもたちにリクエストされて初めて『ちっちゃい こえ』を演じたとき、担任の先生は、子どもたちの強い視線と集中にとまどうほどだったと、そのときの驚きを教えてくださいました。

近藤さんは、後日こんな言葉もお寄せくださいました。
「いろいろな世界や事象に出会い、そこに興味を持つのか、何を感じるのかは子どもに選択する権利があることをわかっていながらも、『これは難しい』『このお話は子どもたちが好きなお話』と、無意識のうちに線引きしてきてしまったのかもしれないと、今回思いました。
子どもは目の前にあるものに興味を持ち、見たいと思えば集中して見ます。その時々の出会いがあり、その時に感じた想いが子どもの姿として表れるのではないでしょうか。大人が線引きすることが、もしかしたら子どもが何かと出会う機会をなくしてしまうこともあるかもしれません。『ちっちゃい こえ』に出会った子どもたちの「見たい」「知りたい」といういきいきとした姿に感動し、私自身も紙芝居と子どもたちから、いろいろなことを感じることができました。」

園児のみなさんは、きっと大好きな先生にこの紙芝居を演じてほしかったのではないでしょうか。
子どもたちと先生の信頼関係の中で、いのちの響きが広がっているようです。


(脚本 アーサー・ビナード 絵 丸木俊・丸木位里「原爆の図」より)

みなさんの声もぜひお寄せください。
『ちっちゃい こえ』のご感想はこちらまで
https://www.doshinsha.co.jp/review/
ちっちゃい こえ

単品紙芝居

ちっちゃい こえ

アーサー・ビナード 脚本/丸木俊・丸木位里 絵/「原爆の図」より

ネコが語ります。家族のこと。命をつくりつづける、体の中のちっちゃい声のこと。ヒロシマのこと…。わたしたちはどうすれば生きていけるのか? 美しい絵から響いてくるそのこたえに、一人ひとり耳をすます紙芝居。
『ちっちゃい こえ』プロモーション動画はこちら

『ちっちゃい こえ』紹介リリース

  • 小学3・4年~
  • 2019年5月20日初版
  • 定価2,970円 (本体2,700円+税10%)
  • 立ち読み