インタビュー「愛蔵版 シェーラ姫の冒険」著者・村山早紀さん

(2019.3.15インタビュー実施)


1997年から2002年にかけて文庫版として刊行され、人気を博した「シェーラひめのぼうけん」シリーズ(全10巻)。
20年の時を経て、装いも新たな上下巻の愛蔵版が刊行されました。
著者の村山早紀さんに、このシリーズについて思いをお聞きしました。


——「シェーラひめのぼうけん」シリーズは、村山さんの著作の中でも初期の作品ですが、思い入れの大きい作品と伺っています。村山さんにとって、この作品はどのような作品でしょう?


若い頃、寝ないで仕事していた時代に、全力疾走で走り抜けて書いた作品でしょうか。当時はデビューして5年目頃で、同時に並列して執筆していたシリーズ作品が何作もあり、締め切りに追われて必死で書いていました。

——当時は全10冊になる予定も決まっていなかったと思いますが、各巻が関わりながら次に続いていく巧みな構成になっていますね。


ハッサンの娘がミリアムだとか、ハイルは実は高貴な生まれだとか、自分の中では最初からそうした大まかな設定があって。ハイルが人魚の血を引く王子様であることなど、細かいところは書きながら思いついていきました。

始めたときは、担当していた当時の編集長に、「とりあえず3冊出しましょう」「売れたら続けていきましょう」とだけ言われていました。3冊以上続いていく時は、悪役のサウードは味方側に来ることにしよう、それだけ内心で決めていましたね。だから彼は最初から陰影のある人物として描写していました。

——そうだったんですね! 最初の3巻は3ヶ月おき、その後刊行ペースを落として、年1巻のペースで刊行しています。


書いていた時は本当に全力疾走だったから、ふりかえる余裕もなかったけど、今、手を入れるために読み返してみて、我ながらよく書けているなと(笑) 面白いですね、シェーラ姫。がんばったなあ、昔の私。

——大人向けの作品も書かれていますが、ご自身ではどのようにお考えでしょうか。


私はあくまで自分は児童文学作家だと思っています。今はかわってきましたが、昔は日本の子どもの本の著者って不当に評価の低い時期があったんです。すごくおもしろい作品がいっぱいあって、すごい作家がたくさんいるのに、くやしいなって若い頃ずっと思っていて。自分は児童文学作家の看板のまま、他の作家の本と評価や売り上げを競えるようになったらいいな、そしたら児童文学の評価も上がるんじゃないか——若い頃そんな風に考えていた時もありました。まあ私も若かったなあと。でも当時の夢は叶ったのかも知れませんね。

——読者にとっても、とても思い入れの大きいシリーズです。


みんなこのシリーズが本当に大好きですよね。うれしいなあと思います。今回の愛蔵版でも、自分で読むためのものと、保存用、それから他の人に勧めるための「布教用」の3セット買いますとまで言って下さる方もいて(笑)。

シリーズを当時読んでいた、小学生だった読者たちは、今は20代から30代になっています。ありがたいことに、私の作品をそのまま読み続けてくれている方も多いです。読んでくださるだけでうれしいのに、みなさんちゃんと本を買ってくださってて。
私は『桜風堂ものがたり』(PHP研究所)で書店さんの話を描いていますけれども、読者の方はそれを読んでくださっていて、本は買わないと書店を支えられないし、作家や出版社も応援できないということを知っているということもあるようで。本の世界をみんなで応援しようとしてくださってるんですよね。ありがたいです。

——刊行当時、文庫は既刊の名作を文庫化するのが主流でしたが、文庫で新刊の書き下ろしを刊行していくというスタイルのきっかけとなったシリーズの一つでした。


気がつけばフォア文庫の中でも古い作品になりましたね。シリーズの熱心なファンの方ですと、新旧のフォア文庫版両方をそろえて頂いている方もいます。初期のころのフォア文庫のカバーデザインは、安野光雅さんによる柱のデザインでした。あのデザインもよかったですよね。


(新旧のフォア文庫カバーデザイン。左が初期の安野光雅さんによるデザイン)


——今回の愛蔵版では、ケース付へのお問い合わせも多く頂きました。とても珍しいんですが、おかげさまで発売前に箱が重版になりました。
愛蔵版として今回再刊行されるにあたり、改めて加筆、変更された部分もあったと伺いました。


今回、佐竹美保さんのすばらしい挿絵がないので、とにかく目に見えるようにと、あちこち描写をたしました。

——読んでいて、町並みとか情景がありありと浮かんできました。漢字表記や表現についても、改めて加筆・変更されています。


原作は小学生3・4年生向けのひらがな表記でしたが、今回の愛蔵版では、小学校高学年以上から大人の読者を対象にしており、当時小学生で読み、今大人になった読者たちも読みやすいよう、漢字を多めにしています。けれど、ルビが多いので、活字が好きな子は小学4年生くらいからでも読めると思います。

私自身も年をとり、その分キャリアを積んだので、人物の描写など、深く書きこんでいるところもあります。昔は若さゆえに知らなかったことや書けなかったことがやっぱりあって、あちこち磨いてみたって感じでしょうか。

人間の生き方やコミュニケーションは、昔と今でだいぶ変わりました。例えば、ハッサンとアリは、どつき漫才じゃないですが、よくたたき合ったりしています。今の文化からするとちょっと暴力的かなって思いますが、当時はこういうのもありでした。でも、これを書きかえて取ってしまうのも違うので、残しました。そういう意味では、今読むと少し古くていかにも昭和風だなって思うところも残っていますが、それはしょうがないですね。

女の子の生き方について、もっと自由に強く生きていっていいんだよと、ちゃんと書けているように読めたのはほっとしました。男性中心の世の中で、添え物みたいに生きるのではなく、自分で考えて、自分で行動して、自分なりの正義を貫いても女の子は十分魅力的だよってことを書きたかったんですが、それはちゃんと書けてるかなと思います。昔は冒険ものって、男の子が主人公で、女の子はヒロインかお母さんとしての立場しかなかったけれど、そうじゃないところを書きたかった。逆にファリードについても、「強さ」「男らしさ」にこだわることの不幸について、昔にしてはよく書けてるなって(笑)。若い頃の私ってがんばったなって、そこに戻っちゃいますけど(笑)。


——今回の愛蔵版では、原作の章カットを章扉や目次に改めてデザインし、原作とはまた違う、魅力ある愛蔵版になりました。


描き下ろしの表紙とカラー口絵が豪華ですね。なんてきれいな本なのだろうと思います。今回ブックデザインは、最近の私の本のデザインをおまかせしている岡本歌織さんにお願いしたのですが、正解だったと思っています。

——村山さんが特に気に入っている場面、エピソードなどありましたら、教えてください。


愛蔵版第1章の終わりに、子どもたちが空とぶ絨毯にのって、朝焼けの空をとぶシーンがあるんです。昔からそのシーンの描写が好きで。空と海が広いな、この先どこまでも旅していくのねって、子どもたちが思うところ。あのフォア文庫版でいうと1巻のラストがすごく好きです。

それから、2章のハイルが友情について考えるところ。建物の上から落ちそうになったハイルをシェーラ姫があやうく手をのばして助けますが、「この手を離してくれよ、だって(シェーラの)手が痛いじゃないか」「痛いのは生きてる証拠よ」って、ところのやりとりが好きですね。

それから、10章のクライマックスのハッサンとミリアムの会話の場面。
ミリアムが魔物に襲われたハッサンを追って、木馬で舞い降りてくるところから、ハッサンが魔物の群れに大盗賊だと名乗りを上げるところのやりとりなんか最高に好きですね。ゲラを読んでいて泣けてしまって。

キャラクターはみんな好きなんですが、実は全部のキャラクターで特に好きなのは、ハッサンとアリなんです(笑)。ハッサンとアリのやりとりを書いている時は幸せで、今読み返してみてもハッサンとアリいいなって(笑)。
だから今回の愛蔵版でも、最後の戦いでアリが投げる調味料の種類が増えていたりするんです(笑)。なんかあの二人のかけあいを書くのが楽しくて。「おかしらって呼ぶな!」とか毎回会話のパターンが決まっていて、でもそれがよかった。微妙にアリも抜けているようで賢いんですよね。でも賢いようで抜けているっていう絶妙な感じがすごく好きで(笑)

魔神ラーニャも大好きですね。昔飼っていたペルシャ猫がベースになっています。彼女が死んだとき、彼女のために最高にかっこいい猫のキャラクターを描こうと思って、その挑戦の結果がラーニャなんです。そういうわけで、ラーニャは今まで書いてきた猫たちの中でも最強のキャラクターなんです。最強に強くて、でもとても猫。人間がすごく好きなんだけど、人間ではない妖の側の存在で、底知れない怖い部分もあるんだけど、でもやっぱり人間が好きっていう。

——子どもたちの物語ですけど、ラーニャは猫だけど、子どもたちを見守る大人なんですよね。


そうなんです。猫ってある程度年をとると飼い主の母親になるんですよね。人間をやさしいまなざしで見るようになるんです。「しょうがないわね」みたいな。そういう意味でもラーニャは猫ですね。

もしこの愛蔵版がものすごく売れたら、スピンオフ短編集出せたらいいなあ、なんて思います。ハイルとミリアムが成長して冒険する中編とか、書きたいですよね。旧シェーラと新シェーラの間に起きたこととか。何より魔神ラーニャと少年時代のラシードとの物語なんかとっても書きたいなあ。妖しい猫(実は魔神)をつれた少年の冒険物語。

——最後に、今回の愛蔵版について、読者の方へ一言お願いできますでしょうか。


愛蔵版のスタンスは、あの頃の子どもたちと図書館の皆様へのささやかな贈り物であり、「コンビニたそがれ堂」シリーズ(ポプラ社)『桜風堂ものがたり』(PHP研究所)で私の本と出会ってくださった、いまの読者さんや書店さんたちへの感謝の思いでもあります。
そしてこれからこの物語と出会う、今と未来の子どもたちへの本の形をした手紙のような。たぶんそんなものだと思っています。
あの頃の読者のみなさんは久しぶりの古い友との再会を懐かしんでいただけたら。これがはじめてのみなさんはひととき子どもに帰って、剣と魔法と伝説の冒険旅行を楽しんでいただけたらと思います。

——ありがとうございました。


シェーラ姫の冒険 愛蔵版

シェーラ姫の冒険 愛蔵版

村山 早紀 著/佐竹 美保

フォア文庫版刊行から20年、多くの読者に支えられた、剣と魔法の冒険ファンタジー。村山早紀の原点とも言える代表作を、装いも新たにお届けします。物語を読む喜びが味わえる、世代を超えて愛されている冒険ファンタジー。フォア文庫版「シェーラひめのぼうけん」を底本とし、大幅に加筆しています。

  • 小学5・6年~
  • 2019年3月25日初版
  • 揃定価3,888円 (税込)
  • 在庫僅少