1978年初版の『じごくのそうべえ』をはじめとする、軽業師(かるわざし)のそうべえと、医者のちくあん、山伏のふっかい、歯医者のしかいたちが活躍する、累計100万部をこえるロングセラーシリーズです。 ユーモラスで躍動感あふれる絵と、軽妙な関西弁の語り口がもたらすテンポの良さで、家庭だけでなく、幼稚園・保育園での読み聞かせの中で人気が広がりました。子どもたちは、次々と立ち現れる困難にどうなることかとドキドキし、そうべえたちのトンチに爆笑し、最後には「ああよかった」と胸をなでおろします。 絵本ならではの楽しい笑いをもたらし、身も心もほぐしてくれる人気シリーズです。
『じごくのそうべえ』は、上方落語の名作「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」を、人間国宝の桂米朝師匠が今に通じるよう仕立て直したものを原案にしています。落語では元々一時間を超える地獄めぐりの大ネタであった同作を、田島征彦さんが子どもたちが楽しみやすいよう、絵本として独自に翻案、創作したものです。シリーズ以降の作品では、それぞれ第一巻の設定を生かした落語絵本として創作されています。第5作『そうべえ ふしぎなりゅうぐうじょう』では、『じごくのそうべえ』以来33年ぶりに桂米朝の上方落語「兵庫船」「小倉船」をヒントに創作されました。
シリーズ第4巻『どろんこそうべえ』より
「とざい とうざい。
かるわざしのそうべえ。
いっせいいちだいの かるわざでござあい。
こちらの松のえだから、
むこうに見えまする、酒ぐらのやねまで、
みごと わたりおおせますれば、
ごかっさいを。
そうれ。
ペペン ペンペン ペーン」
おなじみのこの口上から、シリーズそれぞれの物語がはじまります。声に出して読みたいテンポのいい文章が、子どもたちを絵本の世界へ誘います。
シリーズ第1巻『じごくのそうべえ』より
「えんまさん、この四人のもの
じごくのどこへ ほりこみまひょ。
そうじゃなあ、
むさくるしいやつらじゃによって、
ふんにょうじごくへ ほうりこめ。
へーい。
あんまり くそうないなあ。
こんなんやったら、うちのトイレのほうが
くさいぐらいや。
うんこが、そこのほうで ひからびてしもうて、
くっついとるだけや。
じごくも このごろ、
どこも すいせんしきの
おべんじょになってしもて、
ふんにょうが あつまりまへんのや。」(『じごくのそうべえ』より)
このシリーズは、説明の文章ではなく、登場人物の会話が中心に物語が進んでいきます。おとうさんなど男性による読み聞かせにもぴったりです。
独特の造形や色使いが人気のこのシリーズ。絵はすべて型絵染(かたえぞめ)という技法で製作されています。型絵染とは、文様の形に切り抜いた型紙と防染糊を使って染料で文様を染め出す方法です。日本独特の技法で、世界的には"katazome"(型染/かたぞめ)として知られています。田島征彦さんによる型絵染は世界的な評価も高く、『新版 祇園祭』(童心社)『てんにのぼったなまず』(復刊ドットコム)にてブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌賞を2 度も受賞されています。ここでは、製作の工程を少しだけご紹介します。
色使いをイメージしながら、まず1色で下絵を作成します。
染色しない部分を型紙から彫り抜きます。
型紙を布にあわせ、着物の染色にも使われる友禅糊をのせます。(濃いねずみ色になっている部分が糊置きされた場所)
糊置きされた布に、"ダックバインダー" でといた樹脂顔料をすり込みます。(色差し)
*ダックバインダーには、あとからそめた染料をはじいて、色がにごらないようにする働きがあります。
色差し後、乾燥させ、ドライアイロン後、フィクサーで色止めし、水洗します。染色部分にあわせ、この工程を何度もくりかえします。地色は色をはじかない裏側から染めます。
その後いくつか仕上げの工程を経て完成した、『そうべえふしぎなりゅうぐうじょう』の一場面。ひとつひとつの場面に、多くの時間と思いがつまっています!