『ばあばは、だいじょうぶ』(楠 章子 作/いしい つとむ 絵)が、2017年度、第63回青少年読書感想文全国コンクール課題図書・小学校低学年の部に選ばれました。
「わすれてしまう」病気になってしまった大好きなばあばを、小学生の男の子つばさの視点から描いた絵本です。
ご自身も現在お母さまの介護をされているという著者の楠章子さんに、この作品についてお話をうかがいました。
-認知症、老い…子ども向けとしては、これまであまり取り上げられてこなかったテーマです。子ども向けの児童書として取り組まれたきっかけはなんだったのでしょう。
私が子どもの時、祖母が認知症になりました。同じ事を何度も聞かれるのが怖くて、どう答えればいいのかわかりませんでした。やさしくしなくちゃと思いながら、関わりたくないという気持ちがありました。小学生の私はそういう気持ちを抱えたまま、誰にも言えずにいました。
後に、母が同じく認知症になり、大人になってまたあの時の葛藤が蘇りました。今度は娘という立場なので逃げずに向き合っていく訳ですが、向き合ってみて感じた事もあり、ああ、書いてみようと思いました。子ども時代の私のような、とまどっている子たちに届いたらいいなと。
-ご自身の体験をふまえ、児童書の絵本として創作されるにあたって、注意した点、難しかった点などは、ありましたでしょうか。
初稿は同人誌に掲載してもらったので、先輩作家さんにも読んで頂いたのですが、「生々しすぎる」「まだあなたの中で、処理しきれていない」と言われました。それから、自分から突き放して書いてみたり、また引寄せてみたりしながら、何度も直しました。仕上げの段階では、自分というものは全くいなくなって、完全につばさくんの気持ちをつづる感覚でした。 また、絵本なので山場の絵をどうするか……あれこれ悩みましたが、メモの場面にしようと決めてからは、一気に仕上がっていった気がします。
-家に帰ってこないばあばを心配したつばさが、机の引き出しの中から、ばあばが自分で忘れてはいけないと思うことを書き出したメモを見つける場面ですね。 ばあばを避け、責める気持ちだったつばさが、一番苦しんでいたのは、ばあば自身だったことをみつける場面で、つばさの気持ちがとても伝わってきました。
-文字のないメモだけの見開きのページも、とても印象的です。
石井勉さんの絵は、やさしくて力強い。迫力のある場面になりました。 文字(テキスト)を入れるかどうか、編集さんと相談したのですが、最終的に絵だけで勝負するページにして、正解だったと思います。 ここにはメモの紙だけしか描かれていませんが、その一枚一枚には多くの事がつまっています。ばあばの不安や悲しみ、やさしさを感じます。さらにその後ろには、一枚ずつメモを書いたばあばの顔が見えてくるし、メモを今読んでいるつばさの顔も見えてきます。
-物語の最後、はだしで家に帰ってきたばあばに、つばさが「ごめんね」とくつ下をはかせます。おばあちゃんに守られてきた翼が、おばあちゃんを守るようになる印象的な場面ですが、おばあちゃんも「だいじょうぶだよ」とつばさの頭をなでてくれます。この場面には、どんな思いが託されているのでしょう。
さまざまな事を忘れていき、人が変わってしまったようでも、その人の核の部分は変わらないと思うのです。ばあばは変わらず、つばさの事を愛してくれています。つばさにとってばあばは、温かく包んでくれる存在である事に変わりない。 お年寄りに寄り添うというのはやはり簡単ではなくて、とても大変な時があると想像します。その時には、思い出して欲しいです。あなたのばあばやじいじが、どれだけ愛してくれたか、これまで見守ってくれたか、やさしくしてくれたかを。
-介護体験された方、高齢者の方からの感想も届いており、幅広い層の方にこの本が読まれていることを感じています。
どんなことを感じ、考えてほしいか、子どもたちへのメッセージを教えてください。
お年寄りにやさしく出来ない気持ちを持ってもいい。逃げてしまっても、だいじょうぶ。でも、逃げたままでいないで。もう一度そばに行って、手をにぎるだけでもいい、声をかけるだけでもいい、今出来る無理のない事でいいから、やさしくなってくれたら嬉しいです。
ばあばやじいじがそばにいる子どもは、つばさに共感しながら。
ばあばやじいじがそばにいない子どもは、つばさを通して追体験しながら。
最後に、これは壮大な夢なのですが、子どもたちが成長し、やがて大人になってお年寄りに寄り添おうとする時、この絵本の事を思い出してくれたらいいなと思っています。
-ありがとうございました。