著者のことば

児童文学という表現の魅力をはじめて知ったのは、一九四五年の敗戦の後、心がうつろになっていたときだった。相手が子どもだからこそ人間にとって一番大切なものが児童文学にはこめられている、とぼくは思ったのだった。その「一番大切なもの」とは、人間が人間として生きるとはどういうことか、ということだった。それを求めて書いているうち、子どもとはどういう存在なのかということを、ひしひしと感じるようになった。ともに一生続く問いであり、今まで書いたものはすべてそれについての模索であり、答えである。

その答えの数かずはぼく自身を力づけるとともに、子どもたちにおくるメッセージでもあった。それらが今まとまって刊行される。このメッセージを今の大人が、ことに子どもがどう受け取ってくれるか、どきどきしている。

(童心社定期刊行物『母のひろば』1993年10月15日号より)