スペシャルインタビュー

台湾の若手絵本作家
チョン・シューフェンさんにきく
海のなかをはしった日』の魅力

絵本作家 チョン・シューフェンさん

車の外に、ちいさな魚が泳いでる!
小さな女の子の空想を、美しい水墨画で描いた台湾の絵本『海のなかをはしった日』(原題『Traffic Jam』)が邦訳出版された。
作者チョン・シューフェンさんがはじめて作を手がけた本作は、台湾の金鼎賞最佳童書賞、Best Picture Book of the Year(みんながよむよい絵本賞)を受賞。
今注目の絵本作家に、日本版刊行を記念して作品の魅力をうかがいました。

『海のなかをはしった日』(チョン・シューフェン さく/中 由美子 やく)
(チョン・シューフェン さく/中 由美子 やく)

−『海のなかをはしった日』が生まれたきっかけ、苦労した点、制作秘話などを教えて下さい。

2001年のある晩、高速道路で渋滞になり、ちっとも進まないので、あれこれ空想にふけっているうちに、自分がいま海のなかの道にいるんだと空想してみたのです。そこから物語が始まりました。

家に車がないので、ふだんはいつも電車やバスに乗っています。ですから、自家用車からのアングルを感じるために、夜に何度も車に便乗させてもらっては、スケッチしました。

この作品、最初は手作り絵本で、2001年のナーリー台風(日本では台風16号)が来たときにできあがりました。そのとき、ものすごい大雨が何日も降りつづきました。私はうすーい「宣紙」(本画仙紙)を使って、「渲染法」(にじみがき)で描いていたので、びしょびしょになった絵は一日たっても乾かず、そのうえ紙が破れたり、裂けたりしました。今、この絵本を見るとすぐに、台風を思いだし、水浸しになった台北の町を思いだしてしまうんですよ。

−この作品の見どころを教えて下さい。

水墨画の画風と想像力でしょうか。
私自身がいちばん好きなのは、貝殻の海底エレベーター、クジラのおまわりさん、ながーーいくびかざりの3枚です。

−この作品は地の文がなく、セリフだけで進んでいくところが特徴的だと思います。

このほうが物語の3人のキャラクターに近くなります。実際、この絵本は「読む」というよりも、「演じる」方が面白くなるのかなと思いますよ。

−日本語版刊行に寄せて、日本の読者にメッセージをお願いします。

みなさんが、この絵本を好きになり、水墨画の表現を好きになってくださったらうれしいな。

−絵本作家として今後の抱負を教えてください。

抱負というほどのことは……私には、まだ学ばなければいけないことがたくさんあります。いまのところはただ、ちょっとした新しいアイデアや考え方を、もっと自由に余裕をもって絵本で表現したいと思っています。

鄭淑芬(チョン・シューフェン)文化大学美術学部卒業。現在は、美術教師をしながら、絵本の創作に取り組んでいる。呉鈞堯・文の絵本『三人の木の友だち』は、第2回豊子ト児童図書賞に入選。『海のなかをはしった日』は初めての創作絵本で、金鼎賞最佳童書賞を受賞。次作『黒ちゃん、ごめん』は第20回信誼幼児文学賞に入選。

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