担当編集者より 子どもたちに、生きる勇気をあげることができたら

 約38年前、1974年11月に『おしいれのぼうけん』は、刊行されました。そして、毎年増刷を重ね、今年、発行部数200万部となります。
 しかし、発行当時、まさかこのようなロングセラーになるとは、だれも思いませんでした。
 当時、社長であった村松が、「この本は素晴らしい! 10万部は売りたい!」と言った時、著者の古田・田畑先生は、「本づくりに手ごたえはあったけれど、そんなに売れるかしら?」と、おっしゃったくらいです。

 増刷するたびに、また子ども読者が胸を震わせて読み聞かせしてもらう姿を見るたびに、私は、この本が子どもの心に深く入り込んでいることを知りました。しかしそれは、なぜなのでしょう? ねずみばあさんの怖さとそれと闘いぬく、主人公さとしとあきらの勇気ではないかと思います。そして、ねずみばあさんの怖さこそ、複雑で多様化する現代そのものであり、子どもたち、いいえ人間がもっている"不安"と心の奥底で呼応するのではないかと考えるようになりました。つまり、『おしいれのぼうけん』は、生きることの原点を書いた絵本でもあるのだと思います。

 これからも、子どもたちに、『おしいれのぼうけん』をとおして、生きる勇気をあげることができたら、そして、本当の読書の素晴らしさを知ってもらうことができたら、どんなに素敵なことでしょう。

著者プロフィール 童心社取締役会長 酒井京子

プロフィール童心社取締役会長 酒井京子

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酒井京子(さかい きょうこ)

1946 年千葉県生まれ。1968 年童心社入社。編集者として絵本と紙芝居の編集に携わり、ロングセラー『おしいれのぼうけん』、「14 ひきのシリーズ」、『びゅんびゅんごまがまわったら』など多くの作品を担当する。1984 年童心社編集長就任。1998 年童心社代表取締役社長に就任。2001 年「紙芝居文化の会」を多くの仲間たちと創立。オランダ・フランス・ドイツ・ベトナムなどで講座を開催するなど、日本のみならず世界への紙芝居の普及に力を注ぐ。現在取締役会長。