絵本ぼくたちこどもだの出発古田足日

 ぼくたちはこの絵本で三つのことをねらいました。
その第一は子どもそのもの、それも現在の子どもをかこうとしたことです。第二は絵本でなければならないものをつくろうとしたことです。第三には、多数の子どもに喜ばれるものをつくろうとしました。
文章で物語をつくっているときのぼくの手ごたえは、その第一のことでした。幼い子どもはよく汗をかくものです。この物語中の子どもは汗ぐっしょりになって、トンネルと高速道路を走り、汗だらけの手をにぎりあいます。
第二の、絵本でなければならないものということですが、文章によって完成した短編に絵をつけるという絵本があります。こうした絵本にも存在価値は十分ありますが、ぼくたちがやろうとしたのはそれではなく、絵が語れるところは絵にまかせるということと、文と絵が一体になって独自の効果を発揮する、そして一つの場面の絵と文の一致などでした。
第三の、多数の子どもに喜ばれるものということ。これは少数の子どもに喜ばれるものより多数に喜ばれる方に価値があるということではありません。
ただぼくは、この物語を書き進めているうちに、15年間子どもの読物を書いてきた者として、これは多数の子どもに喜ばれるにちがいないと感じとりました。おしいれに入れられたあとのユーモラスな抵抗、それから汗だらけの逃走と対決、いわゆるドラマがここにあるからです。この感じは文章原稿完成後、保育園の先生やおかあさんたちが子どもの反応をたしかめてくれたあと、もっとたしかなものとなり、田畑さんの絵を見たときには90%の確信となりました。

著者プロフィール刊行年1974年当時の『母のひろば』(童心社発行の小冊子)より抜粋

著者プロフィール刊行年1974年当時の『母のひろば』(童心社発行の小冊子)より抜粋

古田足日(ふるた たるひ)

1927 年愛媛県生まれ。早稲田大学露文科中退。児童文学作家・評論家。東京在住。主な作品に『おしいれのぼうけん』、『ダンプえんちょうやっ つけた』(いずれも童心社)、『ロボット・カミイ』(福音館書店)、『モグラ原っぱのなかまたち』(あかね書房)、『新版 宿題ひきうけ株式会社』、 評論『児童文学の旗』(いずれも理論社)、最新刊に評論『現代児童文学を問い続けて』(くろしお出版)など多数。