スペシャルインタビュー

『かぶきやパン』作者・かねまつすみれさん
画家・長野ヒデ子さん

第7回絵本テキスト大賞受賞作『かぶきやパン』が刊行されました。
「歌舞伎」を題材にしながら、子どもたちにとても親しみやすく描かれていて、歌舞伎口調の文章も楽しく、大きな反響を頂いています。作者のかねまつすみれさん、画家の長野ヒデ子さんにこの絵本についてお話を伺いました。

(2018.3.9 東京・半蔵門 国立劇場にて)
(2018.3.9 東京・半蔵門 国立劇場にて)

『かぶきやパン』(かねまつすみれ 作/長野ヒデ子 絵)
(かねまつすみれ 作/長野ヒデ子 絵)

かねまつすみれさん
かねまつすみれさん

-2014年に実施した、第7回の絵本テキスト大賞に「まちのパンや「かぶきや」さん」というタイトルで応募して頂き、見事大賞を獲得した本作。
元々、このお話はどのようにできたのでしょうか?

このお話は実を言いますと、ある朝突然手のひらに降りてきたのです。
最初から最後までが。「とざい とーざい!」から始まって「ズ ズ ズイーッと、ねがいあげー たてまつりまするー!」って。「よ、まってました!」の合いの手も一緒に。
これは神棚から降りてきた「棚ぼた」だ! と喜んだのですが、よく考えてみますと、私はパン作りが大好きで舞台を観ることが大好きなんです。パン作りは文章を書くことよりも得意かもしれません(笑)。舞台は歌舞伎に限らず、多い時は月に4回も観ます。ですから、神棚にそなえてあった私の好きなものたちが、からまり合って混ざり合ってコロコロと降りてきてくれたのかもしれません。

-歌舞伎調のセリフは、読み語ると自然とリズムが出て、声に出すのが楽しい文章ですね。本に仕上げていく過程で大事にされたことなどございますでしょうか。

歌舞伎になじみがない方でも、どこかで耳にしたような……と思えるセリフや演目を選んでパンたちにあてはめていきました。文章をそのまま読んでも歌舞伎調になるように表現してみました。実際のセリフはもっと難しい言葉をつかっている場面もありますが、そこは分かりやすい言葉に置き換えております。合いの手のかけ声は、パン大好きな私の心の叫びです(笑)
お話を作品としてまとめている段階で「このお話は画家さんと一緒に作り上げていかなければいけない」と思っておりました。ですから長野ヒデ子さんに描いて頂けたことは本当に幸運でした。

編集の方と一緒に長野さんのお宅におじゃまして話し合ったり、一緒に歌舞伎を観て場面を考えたり、意見を出し合い検討しながら、3人で気持ちを一つにして作り上げていったように思います。締め切り時間に追われ、童心社で3人で最後の追い込みの作業をしたことは、私にとってはとても楽しい時間でもありました。初めての絵本作りで、心躍る大変貴重な経験をさせて頂きました。
長野さんには最初から「楽しんで描いて下さい」とお願いしておりました。 絵本から飛び出てきそうなくらい元気なパンたちを見ておりますと、長野さんの手が描くことを喜んでいたのではないかと思えてきます。

-読者の方へのメッセージなどあれば教えて下さい。

「歌舞伎は観たことがないから」「読み聞かせが難しそう」といった声もありますが、そのようなことは全く気にせず、文章のままに読んでいただければ充分に歌舞伎の世界に入っていけると思います。これはパンたちがやっている歌舞伎です。おとぼけもあればユーモアもあります。『かぶきや』のパンたちの中からお気に入りの役者さんを見つけてあげて下さい。
この絵本を自由に読んで楽しんで頂くことで、歌舞伎を観たことのない子どもたちにも興味をもってもらえたら嬉しいです。
さらに、気がついたら子どもたちが歌舞伎言葉を使ってた! なんてことになるともっと嬉しいですね。

長野ヒデ子さん
長野ヒデ子さん

-楽しい絵の作品ですね。絵がなかなか描けず、苦労されたと伺いましたが、なぜですか?

この原稿は面白い歌舞伎言葉を生かした、すごい絵本になると思いました。でも、そのままでは絵本にはなりません。絵本としての展開のリズムや山場も入れないと、歌舞伎を見たことない子どもたちも、歌舞伎に興味を持ち、楽しんでくれないだろうと思ったのです。また歌舞伎の決まりごとが沢山あるので調べることが山のようにある。ですから3年がかりでしたよ。

いつも作品作りで大変なことは全て「すみからすみまで、ズ ズ ズイーッと」作り手が背負わないと読者は楽しんでくれないのです。それらがクリアされてからこそ楽しい作品が生まれると信じています。だからすごく時間がかかったのですが「クロワッサンの助六(すけろく:注1)」のラフが生まれてからは「これだ!」と進んでいきました。今度はあのパンに、この役者、ここには、この役者を登場させようと。でも大なかなか仕上がらずにいると、とうとう発売日2月1日のチラシまでもが作られ、迫られ、遅れに遅れて2月20日にやっと出すことができました。ところがなんと、2月20日が「歌舞伎の日」だと知ってびっくり! こんな偶然ってあります!! この絵本は歌舞伎の神様に見守られているのですよ。遅れてよかった!(笑)

たくさんのパン

この最後のページは、パンがたくさんあったらいいなと思って、童心社の机の上で描いたの。(笑)こんなパンが食べたいな、このパン! あっ! このパンがあんこちゃんだ! と見つけてね。

-歌舞伎がテーマの絵本です。

私は歌舞伎十八番の『外郎売』をほるぷ出版から絵本にして出版しています。そのとき、十二代目市川團十郎さんを取材しいろいろ教えていただきました。團十郎さんは凄いお方で、更に「子どもたちが歌舞伎を好きになるような絵本をぜひ出して下さい。次は「助六」で!」とおっしゃられたのです。「助六」はカッコイイ! でも「吉原の花魁が出てくるので、難しい」と思いながら気にはしていたのです。
そこへ今回、パンが歌舞伎をするお話を頂いて、「そうだ!パンで「助六」だ! かわいい女の子も出さなきゃあ、いろいろなパンが歌舞伎の役者として登場させられる! 食パンは四角だから「暫」(しばく:注2)にすればぴったり! あんパンは「あんこちゃん」にと、作者のかねまつさんに提案し、話し合い練り上げ作っていきました。

みかづきすけろく

かぶきやしょくパン

絵本が出来上がったとき、なんと運よく歌舞伎座で市川海老蔵さんの演じる「暫」(しばらく:注2)が上演されていたのです! もちろん「團十郎さんとお約束していた助六の出る絵本です」と絵本をお届けし、「暫」を観ましたし、絵本を喜んでいただけました。

また中村芝翫(しかん)夫人の三田寛子さんからも、この絵本お届けしたら、うれしいお手紙をいただきました。三田寛子さんは私の絵本『おかあさんがおかあさんになった日』について「3人の息子たちが大好き、この絵本で子育てしました」と雑誌でコメントして下さり、そのご縁で昔テレビでトークさせて頂いたことがあり、この絵本を贈らせていただいたのです。その3人の息子さん達も今は歌舞伎界でご活躍されています。

更に片岡亀蔵夫人の片岡明美さんからは、童心社の広報誌「母のひろば」にこの絵本について嬉しい書評もいただきました。歌舞伎の方たちからもこうして応援くださり、「こりゃあ! 春から縁起がいいわいなあ~」と喜んでいます。

-歌舞伎を観たことがない子どもたちも、この絵本をとても楽しんで読んでいると反響を頂いています。なぜ子どもたちは歌舞伎が好きなんでしょう?

歌舞伎って「見得を切る」とかいろいろ所作が面白いでしょう。先日2011年の「3.11」で津波で被災した岩手県の大槌と釜石の文庫に、この絵本をお土産に持って行きました。そこの文庫でこの絵本を読み聞かせすると子ども達がすごく喜んだのです。

「歌舞伎を見たこともない子どもたちが、なぜこんなに喜んでくれるのだろう?」と不思議に思ったけれど、絵や言葉のリズムが面白いのですね。テレビで子どもに人気のヒーローでも「ヘンシン!」とか「エアッ!」とか声やポーズを決めますが、こうしたものと歌舞伎の「見得を切る」とが重なって「子ども達はすんなり受けいれ、好きなのだ!」と聞かされ驚きました。聞くところによると「見得を切る」は日本独特のものらしいです。
また、歌舞伎のセリフは日常の中で根付いている言葉も多く、理不尽なお上に立てつく庶民の生きる姿勢もある。子どもはその面白さがちゃんと分かるのです。

発売日が「歌舞伎の日」だったのにも驚きましたが、最近では草間弥生さんが歌舞伎座の祝幕(いわいまく)をデザインした記念に、松本幸四郎さんとの対談もありました。草間弥生さんも歌舞伎は伝統を踏まえた現代アートであると語っています。またNHKでは、團十郎さんがパリのオペラ座での弁慶を演じた記念の放映もありました。更にタイミングよく、歌舞伎座では、絵本に出てくる「暫」まで上演されていて、まるでこの「かぶきやパン」の出版記念祝いみたいで、嬉しすぎです! こんなことある!! 驚き!
ぜひとも! 「かぶきやパン!」「かねまつや~! 長野や~!」とご声援をくださ~い!

-お二人の熱い気持ちが形になって、今までにないこの楽しい絵本が生まれたんですね。今日はお話、ありがとうございました。

ねがいあげーたてまつりーまするー!

担当編集者より
この本では、子どもたちに「歌舞伎」を親しんでもらえるように、“柔らかく”や“読みやすく”を強く意識しました。
一方で、ただ「歌舞伎を題材に使う」だけでなく、この絵本の中のパンたちにしっかりと「歌舞伎」をしてもらいたい、という思いもありました。ですので、登場パンたちのキャラクター設定も、歌舞伎の演目に沿って決め、衣装なども資料に基づいて描いてもらっています。
例えば、以下のような裏設定があります。

注1:「助六由縁江戸桜」(すけろくゆかりのえどざくら)「歌舞伎十八番」の1つで、通称『助六』とよばれる。曽我五郎時致(そがのごろうときむね)が、花川戸の助六(はなかわどのすけろく)という侠客となって、吉原で、源氏の宝刀友切丸(ともきりまる)を探し出すます。

注2:「暫」(しばらく)
公家の清原武衡(きよはらのたけひら)が、自分の意に従わない人々を家来に命じて斬ろうとするところに、「しばらく」という声とともに鎌倉権五郎(かまくらごんごろう)が登場し、人々の命を助けるというストーリー。この絵本では、食パンが鎌倉権五郎の役者となっています。権五郎が「花道」から「本舞台(ほんぶたい)」に来て両肌を脱いでいる間、舞台上では、「あ〜りゃ〜、こ〜りゃ〜」という声が繰り返されます。絵本でも食パンの登場場面でこのかけ声が小さく入っていますが、こうした小さなしかけがこの絵本には多数盛り込まれています。

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