なぜあかちゃんが笑顔になるの? -50年愛されつづけるひみつ-なぜあかちゃんが笑顔になるの? -50年愛されつづけるひみつ-

あかちゃんに語りかける絵本です

『いないいないばあ』には、「ほらね」「だれだろ」といった語りかけの言葉が多く使われています。それらは、あかちゃんがふだん耳にしているお母さんの言葉です。「赤ちゃんが持っていることばなりリズムなりからつくったので、赤ちゃんが自分の本と思ってくれるんでしょうね。」(松谷みよ子*1
*1 童心社定期刊行物「母のひろば 37号」(1967年5月15日)

あかちゃんと目が合う絵本です

『いないいないばあ』に登場する動物たちは、顔が出てくるとき、あかちゃんと目が合うように描かれています。試作を重ね、あかちゃんと向き合いながら描かれた瀬川康男の絵は、おさえられた色使いとやわらかい線ですが、あかちゃん向けといえばはっきりした色だという常識をくつがえし、多くのあかちゃんに喜ばれてきました。

また、当時の絵本としては珍しく装丁を手がけたのはデザイナー・辻村益郎です。ここでもあかちゃんが絵を集中して見ることができるよう、ページの色あいや書体に至るまで工夫がこらされています。

絵本だからこそ楽しい「いないいないばあ」なのです

「いないいないばあ」は隠れていたものが現れる、という遊び。それがページをめくると次のページが現れるという本の特性とぴったり合い、絵本だからこそ楽しい「いないいないばあ」が生まれました。「いないいない」と「ばあ」の二つの見開きで動物の位置が変わっているのは、動くもの(めくられていくページ)を追うあかちゃんの目の動きと合っており、絵本として考えぬかれた展開です。

「いないいないばあ」には生きる喜びがこめられています

なぜ、あかちゃんは「いないいないばあ」で笑顔になるのでしょうか。開一夫(*2)はこう述べています。「顔を隠して「ばあっ」を繰り返す単純な遊びですが、あかちゃんは声のトーンや微妙なタイミングなどにより喜んだり、嫌がったりします。つまりあかちゃんも、大人の様子を「読んで」いるのです。これはコミュニケーションの原点ともいえます。また「いないいない」で顔が隠れているとき、あかちゃんは「なくなった?」「いやあるはず!」と、不安と期待のドキドキワクワク状態にいます。そこで期待通りに「ばあっ」となれば、安心して大喜び!となるのです。(中略)「いないいないばあ」でたっぷり遊んだ経験は、人間関係の根っことなって豊かなコミュニケーション力を育てていくでしょう。」(*3

あかちゃんは身近な人の表情や言葉に触れ、人を信頼する心を育みます。見えなくてもつながっていると期待し、本当に笑顔で相手がでてくるという「いないいないばあ」は、生きていく上で大切な信頼感や安心感につながり、みんなを笑顔にします。

おはなしだいすき

*2 東京大学大学院 総合文化研究科 広域システム科学系 教授 専攻:赤ちゃん学、発達認知神経学、機械学習
*3 『いないいないばあ』帯より