2020.01.15

インタビュー『ねこなんていなきゃよかった』著者・村上しいこさん

(2019年11月18日 童心社にて)


昨年12月23日に発売された新刊絵本『ねこなんていなきゃよかった』(村上しいこ・作 ささめやゆき・絵)。

小学生のわたしと、家族で大切に飼っていた猫、ももちゃんとの別れを描いた絵本です。大切な存在をなくすというテーマながら、出会えて良かったというあたたかい思いが強く伝わってくる作品です。
著者の村上しいこさんに、この作品について伺いました。





——この作品が生まれたきっかけを教えて下さい。


わが家に、“みけ”ちゃんという女の子の猫がいます。今21歳(人間だと100才)で、ご長寿で県から表彰して頂いたくらいなんですが、だんだん高齢になってきて、18歳位の時から人間でいう神経痛のような痛みが出るようになりました。お医者さんで薬をもらうようになったんですが、去年初めててんかんの発作を起こしたんです。ベッドから落ちそうな程けいれんして、目を見開いて、この子はもうダメかもと思いました。その時初めて、目の前にいるこの大事なみけちゃんの死というものを感じたんです。この子の生きている姿をちゃんと見てあげなきゃいけない、ちゃんと命に向き合わなきゃいけないなと思いました。

それと、同じ頃に友だちの飼っているワンちゃんや猫ちゃんが亡くなってしまうことが続いたんです。
自分の大切な家族を失ってしまうつらさや悲しさを目の当たりにして、そうした友人たちにどう声をかけたらいいのかわからなかったんです。そういうときに例えば絵本があれば、気持ちを伝えることができるかな、伝えられたらいいな、そう思ったのが作品が生まれた最初のきっかけです。

みけちゃんはその時すぐに病院に連れて行きましたが、幸い何事もなく、その後もとても元気に過ごしています。


——絵本にでてくる猫のももちゃんも三毛猫ですね。



私は作品を作るときに、絵が入ってやっと作品になると思っているので、画家さんにおまかせする部分が多いんですけれども、今回ささめやさんはこちらの意見をすごく聞いてくださったんです。

最初の原稿では猫に名前がなく、ネコとしか書いてなかったんですが、ささめやさんにお会いしたときに、名前はあったほうがいいけど、どうする? 家にどんな猫がいる? 何してるの? といろいろ聞いてくださいました。一番上にみけちゃんという三毛猫がいると言うと、じゃあ三毛猫にしようと言ってくださって。
名前は、家にもよく遊びにきて地域で可愛がられている、ももちゃんという猫からもらいました。そのまま“みけ”だと、ただの親バカ絵本になってしまうと思って(笑)

——大切な家族であるペットとの別れがテーマで、重たく難しくなってしまいそうなテーマですが、この作品は子どもの目線から短い言葉で描かれていて、子どもたちにもわかりやすく心に伝わってくる文章です。この作品を書くにあたって、どのように言葉を選ばれたのでしょう? また気をつけた点などありますでしょうか。


なぐさめてくれる友だちたちに、主人公の女の子が口に出してしまう「ねこなんて……いなきゃよかった」という言葉があるんですけど、これは無意識に自分の心の悲しみにふたをしてしまうことなんですね。そこからラストの「ねこなんていてくれてよかった」にたどりつくまで、悲しみをのりこえていくこと、悲しみと向き合うことを、作品の中でなるべく丁寧に描くことを心がけました。

うれしいこともそうですが、つらいことや悲しいことなど、子どもの頃に経験したことは、おとなになった時の自分の気持ちの持って行き方、気持ちの整理の仕方の基盤になっていくと思っています。

子どもたちはこれからの人生、たくさんのうれしい出会いもあるけれど、悲しい喪失もあるわけです。悲しいこと、つらいことがあった時、最近は、「子どものトラウマになってしまう」と思ってしまって、そうしたことに触れる機会をなくしてしまう傾向にあります。私は逆に考えていて、自分よりも弱い尊い小さな命が目の前でなくなっていくときの命との向き合い方、悲しみを乗り越えていく心の基盤を子どものうちに持っておいた方がいいと思っています。そういう役割もこの絵本は持っていると思います。

——村上さんの作品には、読んでいると思わず笑ってしまうような関西弁で書かれた作品と、いわゆる“標準語”で書かれた作品があります。この絵本は関西弁ではないですね。


関西弁で書くと命と向き合うということが軽くなるわけではないのですが、この本の場合には、関西弁よりも“標準語”の方が、より命に向き合う気持ちになるように思いました。一方で、“標準語”で書くと重たくなりすぎることでも、関西弁で書くとストレートに伝えやすかったり、ともに特徴があるので、それは作品によって意識的に使い分けています。

——ささめやゆきさんとは、初めて一緒に作られた作品です。


10年以上前に初めてお会いして、いつか一緒にお仕事させて頂きたいと思っていたので、やっと念願が叶いました(笑)

ささめやさんも猫を飼われているので、絵は全ておまかせしようと思っていましたが、村上さんの所の猫はどんなことをするの? どんな仕草や表情をするの? といろいろやりとりさせて頂きながらいっぱい描いてもらって、もう、しあわせとしか言いようがないです。

私も最初は、それじゃただの親バカ絵本になってしまうと思っていたんですが、ささめやさんが村上さんの猫がどんなことをするのか、エピソードをもっと入れた方がいいんじゃないかといろいろ意見を言ってくださったので、ここぞとばかりに写真をいっぱい送って(笑)。
猫のいろんな表情や仕草の絵をたくさん描いてくださって、大変だったと思います。

村上さんがささめやさんに送ったみけちゃんの写真の一部。


——この絵本から、ももちゃんを大切に思う気持ちがとても強く伝わってくるのは、お2人のそうした思いがもとにあるからなんですね。
ささめやさんの絵が入って、特に気に入っている場面などありますでしょうか。



ささめやさんはおしゃれな絵を描かれるので、どんな絵になるのかと思っていたんですが、すごくかわいい絵本になってうれしく思っています。
いろいろ好きで、あれもこれもと思ってしまうんですが、どれか1つと言われるなら、この場面です。



この作品を書いたとき、じつは、ねこよりも家族が泣くみんなの泣き顔をどう描いて下さるか、とても期待と不安が入りまじった状態だったんです。
それが、できあがってきた絵を見て、「わあ、こうなったんだ!」つて、不思議な感動で、胸がいっぱいになりました。

——この場面はささめやさんも少し軽くポップに描かれていますね。物語が転換する場面でもあります。ささめやさんは全体を同じ雰囲気には描かないで、温度差をつけて色味や雰囲気を変えながら描かれています。


前半はずっと悲しいのを我慢しているんですが、泣いて思い出を共有することができたことで、自分の感情の整理をし、ももちゃんとすごした時間が癒やしになっていく、一連の流れが描かれていて、すごくいいなと思いました。


——悲しい気持ちが過ぎ去って、最後のこの絵で、ももちゃんへのありがとうという思いがこめられているようで、明るいあたたかい気持ちになりました。最後のこの場面も含めて、どんな絵にするかなど、今回全体にささめやさんと相談しながら進められたと伺いました。


ここはどんな絵にしたいか、どうするかなど描く絵について細かく聞いてくださって、今までの絵本作りにない新鮮な体験でした。
特に、主人公や家族とのみんなそれぞれのももちゃんとの思い出のシーンはずいぶん話をしました。

一般的にどうかではなくて、村上さんの所のみけちゃんはどうですかと、村上さんの所の子がすることを描きますよと、ささめやさんが言ってくださったので。だから、この本に出てくるエピソードはわが家のリアルです。
だからうちのみけちゃんは、本当に夫の頭をかむんですよ(笑)


せんたくものをたたむこの場面もそうです。
毛のふわふわした感じだったり、ぬくもりだったり、思い出は感触としても残りますよね。

——だからでしょうか、読んでいて、そうしたぬくもりや、大切なももちゃんへの思いも強く伝わってきました。

最後に読者へのメッセージを教えて下さい。


自分の大切な家族がいなくなってしまった時、喪失感を癒やす時間も必要だけれども、自分だけでこらえているのではなくて、なによりも思い出を共感、共有出来る人との時間を、たっぷりと、ゆっくりともってほしいです。
それは、SNSでもいいと思うんです。
悲しいってことは、そこに、愛があるからだと思うし、悲しいってことは病気でもありません。
誰かに話すことで、ひとつひとつ自分の中で、整理されて、ちゃんと、あるべきところにおさまると思うのです。
私は、「ペットが今は空の上で、私を見守ってくれている」そう考えることも、いいことだと思います。

——どんな命にも限りがありますが、最後こんな風に、見送ってもらえたら最高かもしれません。


死んでしまうことは、たしかに悲しいことだけど、否定することじゃないし、何かでふたをしてしまうのは、もっとよくないことです。
死んでしまうことは生きているのと同じくらい、尊い意味があることだと思っています。

——今日はお話ありがとうございました。


お気に入りの場面とともに。

ねこなんて いなきゃ よかった

童心社のおはなしえほん

ねこなんて いなきゃ よかった

村上しいこ 作/ささめやゆき

ねこのももちゃんが死んだ。友だちがやさしくしんぱいしてくれるので、ついつよがり「はじめから、ねこなんていなきゃよかった」といってしまった。でも家にかえると、ももちゃんはもういない。みんながくらいかおをしていたら、かあさんがいった。「かなしいのはあたりまえ。みんな、なきましょ」すると、ももちゃんの思い出が次々よみがえってきて……
かわいがっていた猫の死をきちんと受け止め、悼むことの大切さを描く絵本。

  • 小学1・2年~
  • 2019年12月23日初版
  • 定価1,430円 (本体1,300円+税10%)
  • 立ち読み