2019.08.20

<新刊>切り絵でつづる里山の1年『丘のうえの いっぽんの木に』

今回は写真家、切り絵作家として活躍する今森光彦さんの最新作をご紹介します。

物語の主人公は、いっぽんの木、エノキとオオムラサキです。
春、越冬から目覚めてエノキをのぼっていく小さなオオムラサキの幼虫。エノキの葉をたっぷりと食べ、やがてさなぎから美しい蝶へと変身を遂げます。

オオムラサキが次のいのちをはぐくむ場所も、やはりエノキです。夏、枝や葉に卵を産みつけ、静かに一生を終えていくのです。

エノキの「うろ」はフクロウの居場所であり、秋に実る赤い実は鳥たちのごちそうになります。冬、葉が落ちたエノキのねもとには陽射しが降りそそぎ、冬を越すカエルや昆虫たちが集まってきます。
エノキは、里山に生きるさまざまないのちにとって、かけがえのないよりどころなのです。

里山で一番好きな木はエノキだという今森さんの言葉をご紹介します。

「この絵本のアイデアになったエノキは、今私が復元・整備している荒れはてた竹林の中からあらわれました。
樹齢150年くらいと思われる大木が、見はらしのいい丘の上に顔を出したときには、本当におどろきました。
奇跡的に生きのびたエノキは、これからどんな物語にいざなってくれるでしょう。」
(「おわりに」より抜粋)

本作の絵はすべて今森さんが一本のはさみで作り出した切り絵です。
モノクロの世界だからこそ際立つ、オオムラサキの繊細な模様や形。オスとメスの違いも鮮やかに描かれます。

エノキに集う生きものたちと出会える絵本。
里山の風、音、色を想像しながらお楽しみください。
巻末には、エノキとオオムラサキの1年を追った今森さんの写真と解説も掲載されています。

(今森光彦・作)




丘のうえの いっぽんの木に

絵本・こどものひろば

丘のうえの いっぽんの木に

今森光彦 さく

丘の上に、いっぽんのエノキの木が立っていました。春、落ち葉の下で目を覚ましたオオムラサキの幼虫は、エノキの幹をのぼりはじめました。葉っぱを食べて大きくなって、やがてオオムラサキの成虫になるのです。
エノキには、ほかにもフクロウやタマムシ、カエルや小鳥など、四季を通して様々な生き物が集まってきます。
1本の木を舞台に、人と共に生きる豊かな自然環境「里山」で育まれる生き物たちの姿を“切り紙”で描きます。

  • 4・5歳~
  • 2019年7月20日初版
  • 定価1,540円 (本体1,400円+税10%)
  • 立ち読み