2019.06.18

〈新刊絵本〉『やんばるの少年』

先月刊行された本書は、ロングセラー絵本『じごくのそうべえ』で知られる作者・田島征彦さんによる、
沖縄県北部のやんばるの森を舞台にした絵本です。

主人公の”ぼく”は、やんばるの森に暮らす、小学4年生。
世界でここにしかいない生き物も暮らすこの森で、
弟のげんた、おじいと暮らしている幼なじみの同級生ハルコと、いつも一緒にあそんでいます。

大人たちは、村の寄り合いがあって、今日は遅くまで帰ってきません。
森の木を切り倒し、オスプレイが発着するヘリパッドが作られることになったのです。

「あんなものがとびまわったら、おそろしくて生活ができんよ」
13歳で兵隊にされて、この森でたたかった、ハルコのおじいも怒っています。

 オスプレイってなんだろう……。

しかし、大人たちの反対もむなしく、ヘリパッドの建設はすすみ、”ぼく”の暮らしが変わっていきます。
飛び込んであそべる川の”森の中のぼうけんプール”にも、開発でどろ水が流れ込んでくるようになりました。
そして、幼なじみのハルコが、おじいと一緒に、遠くへひっこしていくことになって……。


灰谷健次郎さんとの出会いをきっかけに、沖縄の絵本を作りはじめたという、田島征彦さん。
『とんとんみーときじむなー』(1987年)、『てっぽうをもったキジムナー』(1996年)『そうべえときじむなー』(2018年)など、沖縄を舞台にした作品を多く手がけてきました。

沖縄県北部の東村高江村に住むある家族に、取材で通いながら創作したという本作。
写真は子どもたちの遊び場となっている、近くの川の様子。
田島さんが子供の頃体験したのと同じ、自然の中ですごすこうした楽しさ、そして、沖縄で貴重な自然が破壊されつつあることを、子どもたちに知ってほしいとの願いから、本作は制作されました。


読者の方からの感想をいくつかご紹介します。

「自然の力強さ・たくましさがとても勢いよく描かれていて、筆づかいや色彩のど迫力に圧倒され、その中に無邪気な子ども達の表情がとても印象的で、私の子供時代にタイムスリップできる素晴らしい絵本だと思いました。」

「沖縄の抵抗しがたい外力による大変さも伝わり、作者の子ども達に向けられた優しい眼差しが感じられ心配している心が伝わり、絵を見ているだけで涙が出てきました。」

もうすぐ来る、6月23日は沖縄慰霊の日。
国内で唯一地上戦が行われ、4人に1人が亡くなったといわれる沖縄で、平和を祈る日です。
慰霊の日を前に、ぜひ子どもたちに読んでいただきたい絵本です。

どうぞ、こちらのこの本についての著者インタビューもあわせてご覧ください。

やんばるの少年

童心社の絵本

やんばるの少年

たじまゆきひこ

沖縄県やんばるの森には、ここにしかいない鳥や虫などがたくさんいます。ぼくと弟げんたと、友達のハルコは、川でうなぎをとったり、バンシルーの木にのぼって実を食べたりする仲良し。そんなある日、オスプレイのヘリパッド建設が始まって、森の木すれすれにオスプレイが滑空するようになりました。ハルコの家族は、引っ越すことになって…。
森に暮らす子どもの視点から、静かで安全な暮らしを奪われる不条理さを描いた力作。

  • 小学3・4年~
  • 2019年5月20日初版
  • 定価1,760円 (本体1,600円+税10%)
  • 立ち読み